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EXTRA 『見習いシスターのある一日』


 早朝5:00 起床

 ジリリリとけたたましく鳴る目覚まし時計を荒々しくガチャンと止めるとフランチェスカはむくりとベッドから起きる。そしてふわあっとあくびをひとつ。

 ここは教会の住居区画だ。シスターの生活の場でもある。

 見習いシスターの朝は早い。洗面所で顔を洗うとパジャマから修道衣(スカプラリオ)へと袖を通す。


 5:30 礼拝堂の掃除

 バケツやホウキを手にして礼拝堂に入ると掃除開始だ。イヤホンから流れる陽気なリズムに合わせてホウキで埃をぱっぱっと払う。

 あらかた掃き終えると音楽も終わり、次にロックの騒々しい音に切り替わる。

 ホウキをギターに見立ててジャカジャカとかき鳴らしながらヘッドバンキングを。次に走り出したかと思えばスカートの裾でスライディングし、最後に曲に合わせてダウンピッキングでかき鳴らしてフィニッシュだ。


「んーっカ・イ・カ・ン!」

 

 満足すると雑巾を絞って窓、祭壇、長椅子と順に拭いていく。

 掃除を終えると最後にお祈りだ。


「――今日も、父のみ旨を行う一日でありますようにとりなし、お守りください(マタイ伝第12章50節)」アーメンと胸に十字を切る。


 7:00 朝食

 ここでやっと朝食だ。


「天にまします父よ、あなたのいつくしみに感謝して、この食事をいただきます。ここに用意されたものを祝福し、わたしたちの心とからだを支える糧としてください。アーメン」


 食前の祈りを終えてかりかりに焼けたトーストの上にハムをのせ、さらに目玉焼きをのせたものをぱくりとかじる。

 ずずっと紅茶をすすりながらテレビを見る。政治家の汚職による辞任や芸能人のゴシップなどなど枚挙に(いとま)がないニュースを流していた。


 ほんと日本ってこういう話題には事欠かないわよね……ま、あたしの国も変わんないよーなもんだけど……。


 片ひじをつきながらトーストをあむっと口に入れるとそのままごくりと飲み込む。


 8:00~12:00 朝の礼拝

 小さな教会なので参拝者も少ない。だがそれでも来てくれた信者のために説教やお祈りをする。


「――というわけで神は常に私たちとともにあるのです。今日も無病息災で過ごせるよう、神に祈りましょう」とフランチェスカが十字を切り、手を組むと参拝者たちもそれに(なら)う。そこかしこから「アーメン」の声が聞こえる。


「フランチェスカちゃんの説教、すごくわかりやすいわよ。これ食べてね」

「今日もありがとうね。これ少ないけど寄付金よ」

 

 寄付箱に次々と寄付金が入れられ、常連の参拝者からお菓子やお裾分けを受け取ってフランチェスカが礼を言う。

 

「いつもありがとうございます」

 

 危うくすりすりと手を揉みそうになり、素早く手を組む。


 いけないいけない。お客様は……いえ参拝者は神様ですもの。


 12:30 昼食

 

「神よ、わたしたちを祝福し、あなたへの奉仕を続けるために、この食事を祝福してください」


 アーメンと唱えて手を組む。目の前にはカップ麺が。

 3分経って重しを取ると、おもむろに麺をずるずるっとすすり始める。


「んーっ! やっぱり醤油味が一番!」


 最後の晩餐に何を食べるか? と聞かれれば間違いなくベスト3に入るだろう。


 テレビを付けると昼ドラにチャンネルを切り替える。血で血を洗うようなどろどろした家庭のメロドラマだ。怒濤の展開があれよあれよと繰り広げられている。


 ホント、よくこんな展開思いつくわね……。


 14:00 買い物

 買い物袋のエコバッグを手に商店街のアーケードを歩いて商店の店主や店員からの挨拶に手を振って応える。

 肉屋でいつもの鶏肉や豚肉を購入する。


「毎度あり! おまけしといたよ!」

 

 続く八百屋でも同じように店主がおまけと言うにはいささか多すぎる野菜をくれた。


 最後にドラッグストアで洗剤、トイレットペーパー、ティッシュ、シャンプーやヘアーコンディショナーなどの日用品を購入すれば買い物はお終いだ。


 15:00 お昼寝(シエスタ)

 野菜や肉を冷蔵庫に入れ、日用品を物置にしまうと礼拝堂に戻る。耳にはイヤホン、手にはアイマスクだ。

 祭壇に近い長椅子のひとつに横たわってアイマスクを装着するとたちまち眠りに落ちた。

 暑い時期に長椅子のひんやりとした感触が心地よい。


 17:00 夕食

 昼寝から起きてふわあっとあくびをひとつするときゅるると腹の虫が鳴った。

 食事はいつも自分で作るのだが、今日はそんな気分ではない。


めんどくさいなぁ(メ ダ フロヘラ)……」


 そうだ! とおもむろにスマホを取り出してアプリを開いて操作する。

 30分後、教会の前に自転車が止まった。


「ちわー。宝来軒の青椒肉絲(チンジャオロースー)と天津飯です」


 (ちまた)で人気のフードデリバリーから出来たての料理を受け取る。


 これも食前のお祈りを済ませてから食事に取りかかる。


「日本ってホントなんでも揃ってるわね」


 18:30~20:00 説教&夕方の礼拝


「何度も言っているでしょう! 神聖なる礼拝堂でゲームをしてはいけないと!」


 マザーの怒声がびりびりと礼拝堂中に響く。


「まったく……もう夕方の礼拝が始まりますから扉を解錠してきなさい」


 夕方の礼拝はマザーが説教をする。朝の礼拝でフランチェスカがわかりやすく話すのとは対照的にマザーは聖書の言葉を一言一句正確に、教訓を強調して話す。

 

「では最後にお祈りをしましょう。天にまします我らが主よ。願わくは御名をあがめさせたまえ」聖書の一節を唱え、最後にアーメンと十字を切る。

 フランチェスカの礼拝とはまた違う厳かな雰囲気だ。

 参拝者を見送ったあとはマザーは本拠地の教会へと戻る。


「今日も一日ご苦労さまでした。お休みなさいフランチェスカ」

「お疲れ様でした。マザー」


 20:15 夜の祈り、そして入浴

 がらんとした礼拝堂でフランチェスカはその日最後の祈りを捧げる。

 アーメンと締めくくり、照明を落とすと礼拝堂は闇に包まれた。

 

 脱衣所で修道衣を脱ぎ捨て、下着も脱いで生まれたての姿になると風呂の戸を開ける。

 シャワーからほとばしる熱い湯を全身に浴びて一日の汚れを落とす。


 風呂からあがって自慢の長い金髪をタオルで拭き、ドライヤーにかける。

 パジャマを頭から被り、キッチンの冷蔵庫へと向かうと扉を開いてそこからドイツ語で書かれたアイスクリームを取り出す。

 定番のバニラ味、贅沢なマカダミアナッツ味、食感が楽しいクリスプチップチョコレート味などなどのラインナップが揃っているなか取り出したのは抹茶味だ。

 スプーンも手にしてテレビをつける。今をときめく若手イケメン俳優が主人公のドラマだ。

 

 日本にもイケメン(グァポ)って多いわね……ま、それでもあたしにとってはイケオジが一番だけど。


 22:30 就寝


 歯を磨きおえ、寝室へ。ベッドの中に入るとナイトテーブルの照明を消す。

 だが、どうしても眠れない。何度も寝返りを打つが、安眠はなかなか得られない。

 ナイトテーブルの照明をつけると下から聖書を取り出す。

 ぱらぱらとページをめくってヘブルの章で止まる。信仰とはなにか? が語られている難解な章だ。

 ひとたび読み始めるとうつらうつらと眠気がきた。


 眠れないときにはこれに限るわね。


 聖書をぱたりと閉じ、照明を消すとたちまちくかーっと寝息を立てる。


 おやすみフランチェスカ。明日も善き一日を。


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― 新着の感想 ―
読みに来ました! シスターが、カップ麺、シスターがフードデリバリー 我慢できずにコメントします。 とてもテンポが良くて、フランチェスカも親しみやすくて とりあえず3話だけと、思っていたのに進んでしまい…
昼食のカップ麺の重しに使ったのは、聖書なのかロザリオなのか、はたまた普通に箸や小皿なのか……と思ってつい感想を書いてしまいました。 軽快なノリで楽しく読ませていただいています。 続きもこれから読ませて…
[良い点] ここまで読ませていただきました! とても読みやすく、なかなか面白いなと思いました フランチェスカの性格がなかなか個性的で、シスターとしての面と本性が全然違い、ギャップがあって良かったなと…
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