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第14話 『HEAVENS JUSTICE BOYS』④


「それじゃ明日の20時ごろに教会で落ち合いましょ!」


 とは言ったものの……ねぇ。


 はふぅとパジャマ姿のフランチェスカは教会の自室の机に突っ伏す。傍らには賛美歌集が山のように積まれていた。

 カラオケボックスを出て教会に戻ったフランチェスカはすぐさま賛美歌集をかたっぱしから取り出して手頃な曲を探し出す作業を開始したのだが、その量はあまりにも多い。膨大(ぼうだい)と言ってもよかった。


 気軽に引き受けるんじゃなかったわ……賛美歌がこんなに多いなんて……。


 ただでさえ数の多い賛美歌から使えそうなものを選び、なおかつ現代風に、それもロックに仕立て上げるのだ。

 気の遠くなるような作業にフランチェスカはまたふぅっと溜息をつく。


 これは短すぎてダメ。逆にこれは長すぎるし……こっちはテーマに沿ってないから使えないわね……。


 ぱらぱらっとページをめくる。ぴたっと指が止まる。あまり知られていない古い賛美歌だ。

 歌詞を読んでみる。力強く、それでいて神の愛溢れる歌詞だ。


 ――――イケるかも!

 

 すぐさまペンを手に取るとノートに歌詞を模写し始めた。隣のページに歌詞を自分なりに解釈し、時には大胆に、時には繊細にロック風に

書き換えていく。


 †††


「――では、皆さま。今日もお祈りしましょう」

 

 説教を終えたマザーが祈りのために手を組むと、参拝者たちもそれに(なら)う。

 アーメンと締めくくって参拝者を見送るとその日の職務は終わりだ。


「今日もご苦労さまでした。フランチェスカ、後は頼みますよ」

「はい、お疲れさまでした。マザー」


 マザーが教会を出たのを認めると、修道服のポケットからスマホを取り出す。


「マザーが帰ったわ。今のうちよ」


 しばらくしてから教会に似つかわしくない三人の来訪者が現れた。

 みなそれぞれケースに入れた楽器を手にしている。もっともマンショだけはドラムなので台車で運んでいるのだが。


「さ、みんなこっちよ」

「うす! でもホントにここで練習出来るところなんてあるんすか?」


 リーダーのジュリアンがメンバーの疑問を代表して言う。


「ついてくればわかるわ」


 フランチェスカが祭壇の後ろへ来るよう手招きする。

 すると祭壇の後ろの床にぽっかりと穴が空いていた。蓋が開けられたそこには下へ続く階段が見える。

 まずフランチェスカが降り、次いでジュリアン、マルティノ、最後にマンショが降りていく。

 あたり一面暗闇でなにも見えなかった。


「なにも見えないですよ?」


 マルティノが言うと、天井の蛍光灯に明かりが点いた。フランチェスカがスイッチを入れたのだ。

 長らく使われていなかった蛍光灯はパチパチッと音を立てて頼りない明かりからやがて部屋一面を照らす明るさになった。


「おお!」

 

 その部屋は物置として使われているのだろう。折りたたまれたパイプ椅子、古びた聖書、

多くの蝋燭を立てられる大きめの燭台が収納されていたが、スペースは練習場所としては申し分ない。


「どう? ここなら思う存分練習できるでしょ? 天井がちょっと低いけど」

 

 くるりと三人が振り向く。


「サイコーっすよ!」

「ありがとうございます!」


 マルティノの横でマンショが何度もうなずく。


「礼を言うのはまだ早いわよ。それとこれ、賛美歌集をいろいろ見てやっと良さそうなのが見つかったの。楽譜をロック風にアレンジできるかしら?」


 キーボードのマルティノが楽譜を受け取って見る。


「大丈夫ですよ。これなら少しアレンジするだけで良いはずです」


 フランチェスカが「うん!」とうなずく。


「楽譜は頼んだわよ。まずはドラムをここに搬入しましょ!」


 ドラムがバケツリレーよろしく地下室に運ばれ、マンショが組み立てていく。

 シンバル、タムタム、スネアドラムをセットし、高さや角度を調節する。

 

「どうかしら?」


 フランチェスカの問いにマンショがサムズアップで答える。

 マルティノを見るとキーボードのセッティングも終わり、ジュリアンもチューニングが完了したようだ。


「OK! 本番の成人式まで時間はあまりないわよ!」

「「「Yeah!!」」」


 地下室にて新生ヘヴンズジャスティスボーイズの音が鳴り響く。それは来たるステージに向けての(とき)の声であった。


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