表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

216/232

第70話 『Txikiteo -バル巡り- ②』


 次に向かったバルでも店主や常連客の応援を受け、ここでは創作ピンチョスが売りだというコックからピンチョスが目の前に。


挿絵(By みてみん)


「バゲットのあいだにハモンセラーノと山羊(やぎ)のチーズを挟んだものさ」


 頑張れよと店主がサムズアップ。


 続く三軒目の正統派バルではチャンピと呼ばれるマッシュルームのアヒージョをご馳走になった。


挿絵(By みてみん)


 ピンをつまんで口に運ぶとマッシュルームとオリーブオイルの香ばしさが鼻から抜ける。


「ベーコンも入ってて美味しい!」

「あたしの好きなピンチョスのひとつさ」とマルガが地ビールを喉に流し込む。

「Ni ere!(あたしも!)」


 そう言うのは黒い液体が入ったコップを傾けるラケルだ。


 「それコーラですか?」と聞く安藤に「Kalimotxo!」と答える。

 「赤ワインのコーラ割りですよ」と店員が教えてくれた。


「え、赤ワイン!? あ、そうかラケル先輩お酒飲める年ですもんね……」


 その見た目でついつい忘れてしまいそうになるが、彼女はこれでも二十歳の立派なレディーなのだ。

 けぷっと小さな先輩が可愛らしいげっぷをひとつ。


「あれ?」


 ふと隣の客が会計を済ませるのを見て、安藤は疑問に思った。

 見ると、店員は皿に並べられた使用済みのピンを数えて会計しているのだ。


「どうしたんだい?」

「あ、いえ、ここってピンの数でお会計するんですよね? それだと、ごまかすお客さんがいるんじゃないかと……」


 あははとマルガが笑う。


「そんなケチくさいことをするやつはバスク人じゃないし、仮にそういうことをした人がいても、しつこく問い詰めたりしないのがバスク人さ」

「それがバルの心得その四ですか?」

「そのとおり! あんたもわかってきたようだね」


 その時、店主が「これがうちの名物だ!」とごとりと皿を置く。

 

挿絵(By みてみん)


「ナスのフリットスだ!」

「ここのバルはフリット(揚げ物)が名物なんだよ」とマルガが補足。

 これも写真をスマホに収め、黒いソースのようなものがかかったナスをフォークで刺して口に運ぶ。

 

「あれ? 甘い……」


 予想外の味覚に躊躇(ためら)うが、次第にその甘さが病みつきになっていく。

 それどころか、日本人である安藤には馴染みのある味だ。


「もしかして、この甘さって……」


 店主に甘さの正体を伝えると、店主は嬉しそうに破顔した。


「よくわかったな! これはアンダルシア地方のものなんだ」


 そう言うと調味料が並んだ棚から瓶を取り出す。


「使ってくれ」

「いいんですか?」

「まだまだ在庫があるからな!」

「ありがとうございます!」

 

 礼を言い、受け取った瓶を見る。半分ほど中身が減ったそれは黒い液体状をしていた。

 続く四軒目ではラケルの提案でパエリアの名店へ行くことに。

 ピンチョスをつまみながら二十分くらい経ってからやっとパエリアが出てきた。

 平鍋にオレンジ色に輝く(アロス)の表面をベーコン、アサリ、ムール貝が彩る。

 

挿絵(By みてみん)


 レモンを回しかけ、スプーンでこそぎ取って食べると魚介の旨みがふわりと口内に広がっていく。

 

「パエリアは出来上がるまで時間がかかるけど、待った甲斐があるだろ?」とマルガが自家製のサングリアのグラスを傾ける。


「はい!」


 安藤の隣に腰かけるラケルも「ん!」と頷く。手にはすでに空になったサングリアのグラスが。



 「はー食った食った」とマルガが腹をさすりながら出る。

 時刻はすでに15時を過ぎているが、空はまだ明るい。


「さてと、そろそろシメといこうかね」

「え、まだ食べるんですか?」


 「甘いものは別腹だから大丈夫さ」とウインクするマルガの意図を悟ったのか、ラケルが「Tarta de queso!」と目を輝かせる。

 マルガが「Erantzun zuzena!(正解!)」と笑いながら頷く。

 だが、安藤には話の内容が飲み込めない。


「あの、タルタ・デ・ケソってなんですか? タルタってケーキのことですよね?」

「ついてくればわかるよ」


 手招きするマルガの傍らでラケルがこくこくと頷く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ