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第8話 『NOEL ~クリスマスキャロル~』②


「のえるちゃん、今日も来たわよ」


 病室の扉を開けてフランチェスカが来訪を告げる。ベッドの上ののえるの顔がぱあっと明るくなる。

 母親は仕事でいないと看護師から聞かされている。


「おねえちゃんまたきてくれたんだ!」

「うん。今日はね、絵本持ってきたの」

 

 じゃん! と言って出したのは「サンタが街にやってくる」だ。

 「わああ」とのえるの顔がまた明るくなる。


 †††


「どすん! と音を立ててサンタは煙突の中から落ちました。『大丈夫かな? 子どもたちに気づかれていないかな?』と心配顔のサンタはおそるおそる子ども部屋へと入ります」


 フランチェスカの朗読でのえるは興味津々だ。


「子どもたちはぐっすりと眠っていました。『よかったよかった。これでプレゼントが置けるぞ』とそっとプレゼントが入った箱を置きます」


 うんうんとのえるがうなずく。


「翌朝、目を覚ますと子どもたちの目の前にはサンタからのプレゼントを見て大喜びしました」


 おしまい、と締める。

 

「いいなあ、そのこたち。サンタさんがおうちにきてくれて……」

「のえるちゃんのところには来たことないの?」

「うん……朝起きたらプレゼントはあるんだけど、まだサンタさんみたことがないの」

「そう……でもね、それはしかたないの。サンタさんはとても恥ずかしがり屋さんだから、姿を見られたくないの」

「そっかぁ。はずかしがりやさんなんだね」

「うん。だからサンタさんが来たら目を閉じてないとダメよ? でないとプレゼントもらえないんだからね」


 「はーい!」と元気の良い返事が返ってきた。


「明日も絵本持ってくるからね」

「うん。またね、おねえちゃん」


 翌朝、フランチェスカは再び病院を訪れた。手には「赤い鼻のトナカイ」の絵本を手にしている。

 病室の扉をノックして入るとのえるがいつものように笑顔で迎えてくれた。


「おはよう。調子はどう?」

「げんきいっぱい!」


 椅子をベッド際まで持っていくとそこに腰かけて朗読をはじめる。


「――おまえの赤い鼻で闇夜を照らしてくれ。サンタさんは赤い鼻のトナカイにそう言いました」

 

 そしてトナカイたちを引き連れてプレゼントを配りに行きましたと締める。


「トナカイさんかぁ……いえのにわがせまいけど、きてくれるかな?」

「来てくれるわよ。世界中どこにいても、ね」

「うん……」


 窓の外を見る。病室は1階なので庭の芝生が見える。


「ねぇ、おねえちゃん」

「なぁに?」

「あたしね、サンタさんにおねがいしたいことがあるの。それは……」

 

 言葉を続けようとした途端、胸を押さえて咳き込み始めた。フランチェスカがコールボタンを押す。


「大丈夫!? すぐに先生が来るからね!」

 

 程なくして主治医と看護師がやって来て、のえるの患者衣の前をはだけて容態を診る。

 

「気管ドレーンの用意! ニトロ50㏄注入して!」

 

 医師から指示された看護師が的確に処置を施していく。

 やがてバイタルサインが正常値を示すようになり、容態が安定していった。口からドレーンが外され、代わって酸素マスクが装着される。


「ひとまず容態は安定しました。ですが、早急にオペが必要な状態です。保護者のかたに連絡を取りますので、のえるちゃんのそばにいてあげてください」


 医師と看護師が連絡を取るべく病室を後にする。

 

「おねえちゃん……どこ……? ままは?」

「おねえちゃんはここよ! しっかりして!」

 

 のえるの手を握ってやる。


「あのね、のえるね、なおったらおねえちゃんといっぱいあそびたいな……」

「治ったらいっぱい遊んであげるからね! だから、がんばって治すのよ」

「うん……」


 安心したのか、のえるが静かな寝息を立て始める。

 

 二時間後にのえるの両親がかけつけ、医師がオペについてインフォームドコンセントを行うなか、フランチェスカはのえるを見守っていた。


 ……絶対に願いを叶えてみせるから……!


 †††


 病室を後にしてフランチェスカは病院の敷地内を歩く。


 ――とは言うものの、いったいどうすれば……サンタの仮装をしてのえるちゃんにプレゼントを渡すっていうのも……。


 ふぅっと溜息をひとつ。ふと出入口近くの用務員が花壇に水を撒いているのが見えた。ホースから出る水が太陽の光を受けてキラキラ輝いている。

 ありふれた光景だが、それはフランチェスカの脳裡に閃くものがあった。


 ――これだわ!


 そしてポケットからおもむろにスマホを取り出すと電話をかける。

 三回目の呼び出し音で相手が出た。


「アンジロー、あんたのお兄さんって確か、映像クリエイターだったわね?」


 電話の向こうでそうだという声が返ってくる。


「大至急、作ってほしいものがあるの」


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