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第38話 『A Spanish in Paris ~パリのスペイン人~』①


 パリ シャルル・ド・ゴール国際空港

 

 午前11時過ぎの偉大な指導者の名を冠したフランス最大の空港のロビーではこれから飛行機に乗り込む者と到着した者でごった返していた。

 ある者は別れを惜しんでか、はたまた再会を喜ぶために抱き合う者もいた。

 雑多な人種をかき分けてエントランスを出ると、目の前にはタクシーの停留所だ。その一台へと乗り込む。


「お客さんどちらまでで?」


 アフリカ系の黒人の運転手が尋ねる。


「シティホテルね。了解!(ダコール!)


 ギアをニュートラルからドライブにシフトチェンジして車を発車させると、空港から離れてパリ市内へと向かう。


「お客さんフランス人ですかい? え、スペイン人? それにしちゃキレイなフランス語だ」


 ミラーを見ながら後ろの乗客をちらりと見る。


「お客さん、そのカッコ……もしかしてシスターですか? まだ見習い? それでも立派なもんだ! 俺は毎週土曜日はいつも礼拝に行ってますぜ」

 

 そう言うと胸元のロザリオを見せてキスを。おしゃべり好きな運転手がさらに続ける。


「俺はセネガルの生まれでしてね。こっちには二年前に来たばかりでさぁ。お客さんはパリは初めてですかい? パリはイイとこですぜ。少なくとも俺の故郷よりは、ね……音楽をかけても?」

 

 許可が出たのでスマホを操作する。R&Bの力強い音が車内に響き渡る。

 セネガル人の陽気な運転手が首を前後に動かしてリズムを取りながら運転を。すると後部座席の見習いシスターもリズミカルに首を動かしていた。

 聖職者らしからぬその振る舞いにはははっと笑う。


「お客さん、あんたとは気が合いそうだ!」

 

 †††


 シャンゼリゼ大通りから外れてマルソー通りに入るとタクシーが停まって乗客を下ろす。


「まいど! 55ユーロね」


 だが渡されたのは100ユーロ札だ。


「100だからお釣りが……え? 釣りはいいって? ありがてぇ!(メルシーボークゥー!)


 乗客と固い握手を交わした運転手は見習いシスターだと言う彼女の背中を見送る。


「あの娘こそ本物の天使(アンジュ)


 100ユーロ札を札入れにしまうとそのまま車を発車させた。


 †††


 シティホテルのフロントでキーを受け取り、部屋のなかへと入った見習いシスター、フランチェスカはスーツケースを傍らに置き、窓へと向かう。

 上げ下げ窓を開けて空気を入れる。遥か向こうにパリのシンボルである凱旋門が見えた。

 ふわりと湿気の少ない心地よい風が吹く。

 「んーっ最高!(スュペール!)」とフランス語で賛辞を送ったあとはくるくると回ってぼすんとベッドで大の字になると目を閉じてすーっと息を吸い込む。


「Aux Champs-Élysées!(オーシャンゼリゼ!)」


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