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第33話 『フランチェスカ、京都へ行く』⑦


「これでよし、と」


 一郎との通話を終えたフランチェスカはスマホをしまう。


「さてと、あとは……」


 

 正午――習いごとから帰ってきた松風と竹春と、稽古を終えた小梅が食卓につくと昼食の開始だ。


「ね、これあたしが作ったリストなんだけど、ぜひ覚えて活用してほしいの」


 素麺(そうめん)を食べ終えたフランチェスカがメモを三人の舞妓に渡す。

 メモには左、右、直進、曲がるなどの単語の隣に英訳が。


「これはなんどすか?」と松風。

「観光客に道を聞かれたときに、英語で答えられるよう、よく使う英単語をピックアップしたんです。ほら祇園の街って碁盤状になってるでしょ? だからそれを活用すれば英語で案内出来るんじゃないかと思ったの」

「はぁなるほどぉ。やけど、この下の英文は?」と竹春。

「絡まれたときに使う、必要最低限の英語での警告や注意文です。例えば着物に触ろうとするひとがいたら――」

「Don't touch please!(触らないでください!)ですね」と小梅。

「正解! ほかにもその時の状況に合わせて使えるものも考えたから覚えてほしいの」

「さすがフラちゃんやわ! まずはうちで完璧に覚えて、他の舞妓さんたちにも教えられるようにならんと」

 

 多江が感心するようにうなずき、「ところで、今日はどこか観光へ行くんどすか?」

「ええと、なにか変わったところをみてみたいなと」

「それなら金閣寺がよろしゅうおす」

 

 †††


 金閣寺は京都駅からバスで約45分のところにある。

 拝観料を支払って総門をくぐり、庫裏(くり)唐門(からもん)を抜けると舎利殿(しゃりでん)金閣寺が見えてくる。

 柿葺(こけらぶき)の屋根の頂点には鳳凰(ほうおう)の装飾が。

 そして何よりも寺の二層と三層に貼られた金箔が陽光を受けて煌びやかに輝いていた。


「まさにゴージャスね!(プレシオサ!)

 

 フランチェスカがスマホでアングルを変えながら撮りまくる。この時の彼女は着物ではなく修道服(スカプラリオ)だ。


「……着物じゃなくていいの?」

「うん。(しゃく)だけど、こっちのほうが動きやすいんだもん」


 同行者である舞のほうを見ずにひたすら風景をスマホに収めていく。


「ヨーロッパとは違って外見に力を入れてるって感じね」

「そう?」

「ヨーロッパの教会って外見は地味だけど、内面がゴージャスなのが多いのよ。試しに『ヴィース教会』ってググッてみて」


 言われたとおりスマホで検索してみる。すると外壁と礼拝堂の画像が出た。


「なにこれ!? ギャップありすぎじゃん!」


 †††


 ひととおり回ったあとはきぬかけの(みち)と呼ばれる観光道路へ。

 程なくして龍安寺(りょうあんじ)が見えてきた。この寺は枯山水(かれさんすい)と呼ばれる石庭が目白押しとなっている。


「この庭にある石は15個あるけど、どこから見てもすべての石が見えないようになってるのね」

 

 フランチェスカがパンフレットから顔をあげて石を数える。

 

「ええと……どう数えても14個しかないんだけど」

「見えない石は心眼(しんがん)、つまり心の眼で見るんだよ」

「なにそのチート能力的な!」

 

 結局、どこから見てもすべての石が見えなかったので数えるのをやめたフランチェスカは龍安寺を後にした。

 ついにきぬかけの路の終点である仁和寺(にんなじ)まで来たが、なにやらざわめいている。


「なにかしら?」

「ドラマか映画のロケやってるっぽいね。京都はよくロケ地として使われてるから」

「ふーん……ってウソ! あれ俳優の渡会恒彦(わたらいつねひこ)じゃん!」

「だれ? その人」

「知らないの!? 刑事ドラマの蟹股(かにまた)警部の役者よ!」


 まるでハリウッドスターを目の当たりにしたかのように喜ぶ。


「あんたの好みって渋いね……」


 着信音が鳴ったので、スマホを取り出す。舞の母、多江からだ。


「あ、母さん。うん、いま仁和寺にいるとこ。うん、うん……え?」


 †††

 

「で、結局ダメだったってこと?」

「うん。観光協会いわく、今のままで十分だってさ」

「よかないわよ。現にあんなことが起きてるんだし」

「あたしに言ってもしょうがないわよ」


 近くの茶店で宇治金時抹茶アイスを口に運びながら言う。

 多江からフランチェスカが翻訳したパンフを追加してもらうよう観光協会に持ち込んだところ、突っ返されてしまったのだ。


「あーあ! あたしの努力がパーじゃん。ま、でもこっちには奥の手があるけどね」

「そのことなんだけど、あたしもアイデアが浮かんだの。聞いてくれる?」

「どうぞ。どうせヒマだし」


 舞が見習いシスターの手前で自身のアイデアを話す。


「いいアイデアじゃない! まいまい」

「あたしも、なにか力になれないかと思ってさ……てか、まいまい言うなって」

「でも問題は観光協会が首を縦に振らないのよね。あたしの翻訳も含めてさ」

「うん……」

「とにかく、今日の観光はここまでにして帰りましょ」


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