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第33話 『フランチェスカ、京都へ行く』②


 京都駅に着いたのは昼前だった。改札口を出てフランチェスカは「んーっ」と伸びを。

 そのまま駅内の飲食店で昼食を摂ることにした。


「で、あんたの家ってどこなの?」と親子丼を口に運びながら。

「まだだよ。ここから電車に乗り換えるんだから」とうどんをすすりながら。

「まだかかるの……」


 はふぅと溜息。

 腹ごしらえを終えるとキャリーバッグを転がしながら舞のあとをついていく。

 

 †††


 奈良線から京阪本線に乗り換え、10分ほどで祇園四条駅に到着した。

 

「ここがあんたが住んでた街なのね。いかにもレトロってかんじー」

「このあたりは昔の街並みがそのまま残っているところが多いからね。さ、行くよ」


 ボストンバッグを肩にかけると、舞は生まれ育った街を歩く。


 数分後。本街道から外れて小路に入り、入り組んだ路地の石畳を歩く。

 昔ながらの木造の建物が並ぶなか、ふたりの少女が並んで歩き、ふとフランチェスカが立ち止まる。


「ねぇ、これなに? これと同じものがあちこちあるんだけど」


 指さしたのは建物の下に設置された扇形の(さく)のようなものだ。


「それは犬矢来(いぬやらい)と言って、犬がおしっこしたりしないようにするものなんだよ。まぁそれ以外にも泥よけとか壁越しに盗聴するのを防ぐ役割もあるけどね」

「へぇーよく考えたわね」


 それからまた数分後。舞が歩みを止めたのでフランチェスカも止まる。


「着いたよ。ここがあたしの実家さ」

「これまたレトロねぇ」


 到着したのは横に広がった木造の、白い漆喰(しっくい)の家屋だ。壁から瓦が敷かれた屋根が出っ張っている。

 舞が引き戸を開けて「ただいま」と帰宅を告げる。

 すると奥からぱたぱたと着物に身を包んだ大人の色香が漂う品の良い女性が。


「おかえり舞。あらあら、こちらの可愛らしいお嬢ちゃんがお友だちなのね」とにこりと微笑む。

「初めまして。フランチェスカ・ザビエルです」

「ほんまに礼儀正しい娘さんやわぁ。こちらこそ初めましてね。舞の母、多江(たえ)です。どうぞお見知りおきを」


 ぺこりと頭を下げる。何気ないその仕草にも典雅さがあった。


「ああごめんなさいねぇ。長旅でお疲れでっしゃろ? すぐにお茶の用意させますさかいに」


 くるりと踵を返して「(うめ)ちゃん? 梅ちゃんいるー?」と呼ぶと、奥から浴衣に身を包んだ少女が「はい、おかあさん」と出てきた。舞とそんなに変わらない年に見える。


「舞と、こちらのお嬢ちゃんにお茶を。それと上菓子あったやろ? それもお出ししといてね」

「はいおかあさん」と少女が奥に戻る。

 「さ、こちらへ」と多江がふたりを部屋に案内する。通されたのは五畳ほどの和室だ。

 多江が座布団を出して「どうぞごゆっくり」と腰かけるよう促す。


「ほんまに遠いところからはるばると……舞、おじいちゃんは元気でやっとるん?」

「うん。相変わらず元気だよ」

 

 そこへ梅という名の少女が「お待たせしました」とお盆を持って入ってきた。

 手際良く湯飲みと茶菓子を二人の前に置く。


「すごい……これがお菓子?」


 旬の花をかたどった菓子をフランチェスカがまじまじと見る。

 「どうぞ召し上がれ」と多江が勧めたので口に運ぶ。すると口の中で優しい甘味が広がった。


美味しい(デリシオーソ)……!」

 

 多江が口に手を当てて笑う。


「外国語やけど美味しいのはわかったわぁ。梅ちゃん、お客様にご挨拶を」

 「はい」と背筋を伸ばす。


「おかあさんからご紹介をたまわりました小梅(こうめ)と申します。どうぞお見知りおきを」

 

 典雅な動きで三つ指をついて座礼を。


「私はフランチェスカ。よろしくね。えと、梅ちゃんって呼んでいい?」

「はい。いかようにも」とにこりと微笑む。

「梅ちゃんはいくつなの?」

「16歳でこちらへ修行に入りました」

「「16歳!?」」

 

 フランチェスカと舞が同時に驚く。目の前にいる自分よりも年下の少女は「はい。まだ未熟者ですが、何卒ご指導ご鞭撻(べんたつ)よろしゅうお願いいたします」とふたたび頭を下げる。


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