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第6話 『KINDERGARTEN SISTER』⑤


 フランチェスカが代理の保育士として来てから五日目。

 今日も園内の庭にて、園児たちはりりなを肩車しているフランチェスカと一緒に散歩している。

  

「ふらんしぇんしぇー、こっちこっち!」

 

 れおが走りながら案内する。フランチェスカが「走ると危ないわよ」と注意してもどこ吹く風と聞き流す。

 程なくして庭の奥に小道が見えてきた。さらに奥のなかへ進むと森の中だ。

 木々の重なる葉から木漏れ日が地面にまだら模様を描く。

 

「幼稚園の裏にこんな素敵な場所があったんだ……」

「うん! あのね、ときどきみんなでここでピクニックとかしたりするの!」

 

 りりなが肩の上から説明する。


「しぇんしぇー、あれみて!」


 ゆなが修道衣の裾を引っぱる。彼女が指さすほうを見ると立て札が見えた。隣には小屋がある。

 フランチェスカが近づいて見るとそこにはこう書かれている。


 『危険! この先に入るべからず』

 

「この先には入っちゃダメみたいね」

「ふくながせんせーがなんかね、ぬまがあるからあぶないって」


 たかおがこんなにでかいのと手で大きさを表す。


「ふぅん。そうなのね。さ、みんな向こうで遊ぶわよ」


 園児たちが「はーい!」と返事する。


 

 たっぷり遊んで森から教室へ戻る途中、相原先生が声をかけてきた。


「フランチェスカ先生、園長先生が呼んでますよ」


 †††


「お芝居、ですか?」

「ええ、今週末に発表会がありますの」


 園長室にてフランチェスカは園長からカトレア組にはぜひ劇を上演してほしいと懇願されていた。


「カトレア組には園児が7人いるでしょう? この絵本なんてピッタリじゃないかと思うの」


 園長から渡された絵本は昔の童話で大きなカブをみんなでひっぱるという話だ。


「懐かしいですね。子どもの頃よく母から聞かされてました」

「色々と大変かもしれませんが、あなたにお願いするしかないのです」

 

 園長室を出たフランチェスカはぱらぱらと絵本のページをめくる。

 カブを見つけた村のおじいさんがまず抜こうとするが抜けず、おばあさんや孫娘の手を借り、ついには犬、猫、ねずみが出てきてみんなで力を合わせてカブを抜くという結末だ。


 確かに男の子四人と女の子三人いるからちょうどピッタリね……。

 

 配役もすでに頭に浮かんでいる。だが問題は……


「おばあさんなんてやだー! ねこさんがいいー!」

「ねこさんはゆながやるのー!」

「カブはおれがやる! おれここでいちばんえらいから!」

「あ、あの、おばあさんならわたしやりますから……」


 やはり予想通り、配役で揉め始めた。


「はいはいケンカしない。まずはリハーサルやりましょ? やってみて合わなかったら役を変えるから……」


 むーとふくれっ面のりりなの頭をなでて舞台に見立てた教室の真ん中に立たせる。

 カブ役のるいはカブらしくしようとしてか、どっしりと座っていた。

 そこへおじいさん役のたかおがカブを見つけ、引っぱるフリをする。

 次におばあさん役のりりな、孫娘役のゆな、犬役のれおと猫役のあや、最後にねずみ役のまさとが出てくる。

 誰もやりたがらないねずみ役をまさとが引き受けてくれたのがフランチェスカにとってはありがたかった。

 だが……


「そこケンカしないの! るいくん、カブなんだから最後に引っぱられなきゃダメでしょ?」


 カブ役のるいは「へへーんだ」とどっしり座ったままで腕を組む。ここから動かないぞという意思表示だ。


 はぁ……こんなんで劇できるのかしら?


 頭痛がしてきた。発表会まで時間はないというのに……。舞台監督兼ナレーターのフランチェスカが重い溜息をつく。


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― 新着の感想 ―
二ヶ月ほど前に、Xにて関わらせていただいた瑠璃です。 その節はありがとうございました。 ひとまずここまで読まさせていただきました。 設定が非常に面白いと思いました。日本でも有名なフランシスコ・ザビエ…
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