第32話 『Mona dama Mexicana!』③
「そら、リカルド!」
リカルドがパコからボールを受け、すぐさま地面に線を引いたゴールめがけてドリブル――――そしてシュートを決めた。
だが、キーパーのハビエルがそれを止める。
「クソ!」
リカルドが地団駄を踏む。
「クソなんてきたないことば、つかっちゃだめってマリアおばさんいってた!」とベンチに座って嗜めるルピタに「うるさいな!」と返す。
「リカルド、女の子にそんな態度はダメよ」
フランチェスカが隣に座るルピタの頭を撫でる。
孤児院で昼食を取り終えた一同は近くの公園でサッカーに興じていた。
「ねーちゃん、またあのリフティングみせてよ!」
パコがほうり投げたボールを座ったまま革靴の甲でトンッと受け止め、そのまま上に高くあげる。
ボールが下に落ちるときはすでに立ちあがったフランチェスカの膝に着地し、ポンポンとリズミカルに跳ねる。
「やっぱうまいや」
「どうやったらそんな上手くなんだよ?」
「おねーちゃんすごーい」
新参者であるハビエルはあんぐりと口を開けたままだ。
「前にも言ったと思うけど、リフティングは回数をこなすんじゃなくて、コツをつかめば誰でも出来るのよ。ミゲルはとっても上手だったわ」
ぽんっとボールをハビエルへパス。
「ミゲルはサッカー選手に憧れてたの。頑張ればバルセロナのスタジアムで活躍出来るかもよ?」
「ねぇ、おねーちゃんはミゲルをわるいひとからまもってくれたって、マリアおばさんなんかいもいってるけど、なにがあったの?」
「あー……それね」
ルピタの問いにフランチェスカが言いにくそうにする。
「聞きたい?」
「うん!」
すると他の子達も集まってきた。
「オレも聞きたい!」
興味津々の眼差しで見つめられては断れない。
「OK、わかったわ。でもその代わり、誰にも言わないでね?」
「「「うん!」」」
ふぅっと溜息をひとつつく。
「どこから話せばいいかしらね……」
フランチェスカの記憶は去年の11月に初めてメキシコに来たときへと遡る――。