プロローグ
書きたいもの、というよりも、読みたいものを自給自足で書いた、妄想の産物です。個人サイトで連載していたのですが、書き直しついでにこちらにやって参りました。稚拙文章ですが、どうぞ宜しくお願いします(・∀・)
「ただいま」
無法地帯と化した山奥の屋敷前にて。
墓石と言うにはあまりに粗末な石塚へ、菊の花を添える1人の少年の姿があった。
癖の強い漆黒の髪に、意志の強さが現れる金色の瞳。
「久しぶりだね」と語りかけるその顔は、犯しがたい凛とした表情をしている。が、胸元で合わせた2つの手は、誤魔化しきれない程に震えており、未だ心の傷が癒えていない事を証明していた。
少年は口を開く。
「中々、来れなくてごめんね。でも、今日は吉報を届けに来たんだ」
事件が起こったのは、今から1年前。
嫡子問題で拗れた実兄が、“腹いせ”に起こした“一族惨殺事件”。
魔術師一族として名を馳せたアルジェント氏はここに滅び、まだ13歳だった弟は唯一の生き残りとして地獄を味わう事になった。
目を瞑れば殺戮の光景が蘇り、手を握れば死体の感触を思い出す。賞金稼ぎとして忙しくしていなければ、自我すら保つ事も出来ず、墓参りが出来る精神状態になるまで丸1年の月日を要した。
「やっと……やっと兄さんが、生死問わずの賞金首になったんだ。これで、俺の復讐は正当化出来る……堂々アイツを殺せるんだ」
少年は笑う。冷たい石塚を大粒の涙で濡らしながら。
「なのに、なんでかなぁ。兄さんの事を思うと、後ろめたくて。……僕みたいな出来損ないに嫡子の座を奪われたから、って思っちゃうんだ。憎いのに、殺してやりたいくらい憎いのに……っ」
自分から嫡子になりたいと頼んだわけではない。それでも兄に対する罪悪感が、肉親同士で殺し合う事への抵抗感が、復讐への覚悟を揺るがせた。
一人前の魔術師となり、天才と呼ばれた兄をこの手で抹殺する……その覚悟を。