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9話:戦乱の気配

夜勤明けの眠気に負けて寝込んでました……

 かろうじて北部辺境伯ライホルン卿の治療は成功した。

 もっとも、自分としては「何とか命を繋ぐ事が出来た」という感覚で、成功したという感覚はない。


 「おお、陛下。このような無様を晒して申し訳ない事を……」

 「よい、気にするな」


 喋れる段階まで回復した時点で、ライホルン卿が王への説明をしなければならない!と必死の形相で言うのでやむをえず警護の騎士に伝えた所、即座に王様が宰相様とか連れてすっ飛んできた。どうやら王様達にとっては確かに信頼出来る家臣であり、事情を知りたいが、同時に古くからの戦友でもあったようだ。短くも随分と真剣な表情で「ありがとう」と。

 万感の思いの籠った声、というのはああいうのを言うんだろうな。

 俺としても「もったいないお言葉です」と頭を下げた。いや、俺もさすがにこのぐらいの礼節ぐらいは覚えるよ?

 で、俺の目の前で国家機密に関わるであろう会話が始まった。何でこんな場所にいなきゃいけないのか、と思うのは事実だけど医者として患者の容体が急変するかもしれない状況で、いやそうでなくてもまだ本来なら安静にしていないといけない状況で喋らせるなら傍にいないといけないのも事実で。

 いや、ちゃんと「席を外しましょうか?」と確認もしたんだが、「よい」との一言でさ……。


 「それで何があった」

 「は……魔の森から新たな侵略者が現れました」

 「侵略者、とな?」

 

 ライホルン卿が語ったのはこういう話だった。

 その日、ライホルン卿率いる辺境警備騎士団は魔の森から大規模な魔獣の出現があったとの緊急報告を受け、出撃した。

 魔の森からの大規模な魔獣の襲撃という事自体は時折起こるそうだ。

 だが、それは通常繁殖期に起きるものだという。繁殖期には互いにメスを巡って争い、また新たに子が生まれた事で弾き出されるそれまで親と共に暮らしていた若い魔獣が新たな縄張りを求めて動く事で起きる事であって、それなら国も予想がつくから必要なら支援の準備を整える。

 だが、今は繁殖期には季節外れだ。

 だからこそ、ライホルン卿も想定外の事態とまとまった騎士団を率いて出撃した。


 「魔獣の群れは極めて大規模なものでした。儂もこれまでそれなりに長く生き、魔の森とも対峙してきましたが初めて見る程に……」


 それでも魔獣退治に熟練した騎士団は奮戦し、大部分の魔獣を討ち取った。

 少数の魔獣は騎士団の迎撃を掻い潜って、領内に入り込んだがその数ぐらいなら冒険者と定期的な巡回で何とかなる。

 一安心、とへとへとになりつつも安堵した所で、魔の森から彼らが現れたのだという。


 「魔の森から、か……確認するがそれはこれまで見た事のない種族だったのだな?」

 「はい、陛下……翼を持つ、角がある、尻尾がある。どれか単独ならば獣人族にもありますし、多少譲って角と尻尾だけならばまだありえるのですが、肌のあの蒼黒さはありえませぬ」

 「肌がそれほどに異質であったか……」


 一人二人なら新たな落ち人かと考える事も出来た。

 だが、明らかに彼らはそんなものではなかったのだ。


 「奴らはいずれもが統一された装備で武装し、統制の取れた一つの群れとしての動きをしておりました。間違いなく……いずこかの軍勢です」

 

 これがせめて、魔獣の群れを迎撃した後でなかったなら、騎士団はもっとマシな対応が出来ていただろうとも言う。

 しかし、次第に拡散する、逃げる魔獣を追って辺境警備騎士団はその時、陣形も何もない幾つもの小集団に別れたバラバラな状態だった。しかも、長時間激しい戦いを繰り広げて疲労し切ったただの群衆でしかなかったという最悪の状態での遭遇だった。

 時間を稼ぐために、それと同時に正体の確認のために誰かを送ろうとしたが、その前に彼らは突っ込んできたという。

 

 「その後は滅茶苦茶でした。あの状況ではまともに戦う事も出来ず……!」

 

 確かに無理だろう。

 それは素人の俺にも分かった。そんな状況で勝てたら、それこそ奇跡のバーゲンセールがあったかか、相手が最初から負けるつもりだったかどちらかとしか思えない。

 あっという間に疲労しきった辺境警備騎士団は蹴散らされた。

 ライホルン卿も僅かな供回りを含めた部隊で離脱を図ったそうだが、それが連中から指揮官と看做されたらしい。

 大規模な魔法攻撃を受け、ライホルン卿も負傷。部隊は半壊。

 もはやこれまでか、と思った時に古くからの部下達が決死の覚悟で突撃し、一部がライホルン卿を掻っ攫うような形で何とか逃走したのだという。

 その後、離れた場所で回復魔法の使える兵士が懸命に魔法を使ってくれたお陰で、何とか命を繋いだが、専門の部隊所属の治癒術師はどこにいるかも分からない。

 あの謎の軍勢はそのまま街道に沿って動いていったという部下からの報告からレーベルの街へと向かった事は容易に想像がついた。下手にそちらに向かえば、奴らと再び遭遇する可能性もある。

 結局、ライホルン卿はこうなれば王都に向かって、事情を説明し、救援を求めるしかないと判断して王都へと向かったそうだが、途中で奴らの斥候とみられる小集団に捕捉されてしまった。残った部下達が決死の覚悟で時間稼ぎをしている間にライホルン卿を逃がしてくれたそうだが、その際に負った負傷でライホルン卿を運んでくれた騎士も王都へと到達したという事で緊張の糸が切れたのだろう。ライホルン卿の事を頼んで、息を引き取り、またライホルン卿自身も回復魔法の使い手が傍にいない状態で、しかも重傷を負った状態で長時間馬に揺られていたために完全に瀕死の状態に、という事だった。


 「申し訳……申し訳ありませぬ、北部要衝を託されておきながら……」

 「失礼!」

 「治癒術師殿!?」

 「これ以上は無理です、体力が……意識が混濁しています」


 割り込んで、会話を止める。

 自分にだってここ何年もの間、治癒術師として、おまけに腕が良いとみなされたせいで難しい治療もやって来た。

 今、目の前の人が拙い状態になりつつある事ぐらいは分かる。元々、まだ体力が回復していないのに無理に伝えないという意志だけでここまで会話していたんだ。何とか伝え切れたという安堵がこの人をここまで運んできた騎士同様、命を奪いかけている。

 それが分かったのと、何が北部で起きているかを知る事が出来たためだろう。


 「後は任せた。彼を頼む」


 王様はそれだけ言って、部屋を出て行った。

 しかし、正体不明の軍勢か。しかも蒼黒い肌に翼と角と尻尾か。これで黒一色とかなら正に悪魔の軍勢だな……。

 

前書きの通り、夜勤明けの眠気に負けて、少し横になるか、のつもりがこの時間

年食うに連れて無理が効かなくなってるなあ…

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