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8話:その後とそして…

いつもより少し遅れました

 それからしばらくの自分の事は余り語る事はない。

 記憶をかっさらいながら鎮痛の魔法を開発する事が出来た。

 何も麻酔でなくても、要は痛みを消せればいいんだと気づいて、動物実験で試し、自分の体で試し……自分の体に初めてかける時は怖かったな。

 そうやって、色々試してる内に、回復魔法の大家なんて呼ばれるようになっていた。

 幸いだったのは魔法で一番大事なのはイメージだった。強化術師は得意な術一つ二つに絞って鍛え、後はそこそこって聞いたがよく分かった。戦闘時に咄嗟に発動させられるぐらいに瞬時にイメージするとなるとあれもこれも、というのは無理があるよな。

 イメージでどんな術かを想像し、試し、形作り、最終的にそれに「名付けて」固定する。

 これだけ聞けば簡単そうに思えるかもしれないけど、最初の一個を完成させるのには半年近くかかった。もっともこれでも「物凄く早い方」だったらしい。

 案外、自分の鎮痛の魔法にしたって、この世界のどこかの名家とかには既に実用化されたものがあるのかもしれない。ただし、どこも秘密主義なせいで世間一般には広まっていない可能性は高い。

 ただ、自分にとってはこの魔法開発という奴が凄く面白かった。

 お陰で、次々と自分独自の魔法を開発していった事で、周囲からは天才だ!と持て囃されたし、依頼もどんどん増えていった。

 当初はそれでも冒険者ギルドにいるつもりだったんだけど、マーロンさんから「結婚して稼ぐ気ならギルドと提携した上で、外部で活動した方がいいよ」と勧められ、またちょうど王都に招かれた事から王都にて小さな医院を開設した。

 この招かれたのは新しく開発した魔法の一つが有力な貴族の子供を救った為だった。

 ウイルスなんてこの世界の人概念なかったみたいだからなあ……細菌にまでは辿り着いてたのは本当に凄いと思うんだが、拡大鏡では見えなかったから正体不明だったんだな。

 そうして、俺は妻と共に王都で新たな人生を築き始めた。


 そう、妻なんだよ!

 リエラと恋人になった時は周囲から驚かれた。

 あの「鉄の女」を落とすとはどうやった!と仲良くなっていた冒険者から問い詰められもした。

 種明かしをすれば何の事はない。叔父である師匠、マーロンさんに愚痴ったのが始まりだった。


 「きついんですよ、彼女」


 叔父だからこそ、彼女のそうした態度を今にして思えば気にしていたのだろう。色々と教えてくれた。


 曰く「あの態度はあいつの緊張の現れなんだ」

 曰く「あいつ緊張したら『理性的に理性的に』と自分に言い聞かせてるんだ、だからなるだけ淡々とした口調でしかも事実を容赦なく告げちまうのな」

 曰く「だから(ごにょごにょ)とやってみろ、きっと面白い顔見れるぜ」


 今思えばけしかけられた結果、リエラの授業中についやってしまった。

 つまり、だ。告白してしまったんだよ、「好きだ」って。

 真っ赤になって口籠るリエラは物凄く可愛かった。上目遣いの涙目で自分なんかで……と自信なさげに呟く姿はドストライクだった。

 まあ、ジョークのつもりが本当になって、結局付き合い始めた。

 やがて、回復魔法の大家と周囲にもてはやされて、結婚し、子供も生まれて……。

 順風満帆だった。


 あの日、魔族がやってくるまでは。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 その日、俺は王宮に急遽呼ばれた。

 どこか王宮は沈痛な空気が漂っていて、何か良くない事が起きたのは明らかだった。

 向かった先で回復魔法をかける事になったのは一人の老貴族。

 生きてるのが不思議!というぐらいにボロボロな状態だった。

 右腕はなく、左腕も千切れかけ。

 右足も膝から下はない。これは右から最初に攻撃を受けたんだろうな、強烈な奴を。

 体の前面は火傷でケロイドに覆われ、頭部には髪の残骸がちりちりになって残っていた。一体何をどうしたらこうなるんだろう?そう不思議に思えたが、この老貴族と思える人物がこれだけの重傷を負って尚生き残れたのはポーションと現場にいた治癒術師の必死の回復魔法のお陰だろう。

 ただ、それ以上は戻せなかったんだろうな……。

 

 「どなたでしょうか?」

 「北部辺境伯ライホルン様です」

 「はッ?」


 俺が変な声を上げた理由を説明すると、北部辺境伯は北部の要衝レーベルを中心に北の守りの要とも言われる人物だからだ。

 というのも、北は魔獣が多数生息する魔の森の一つがあり、そこからの魔獣の大規模な浸透を防ぐのが北部辺境伯の役目だった。

 そんな重要人物がこの有様って事は……。まさか。


 「レーベルは落ちたようです」

 「そんな」

 「詳しい事情を知るにもほとんどは何も知らない民衆で、ライホルン様をここまで送り届けた騎士もライホルン様の事を告げた後力尽きて亡くなりまして……」


 つまり、この人を喋れるようにしないと詳しい事情が分からない訳か。


 「分かりました、全力を尽くします」

 「お願いします」


 腕は無理だ。繋げる物がない。

 付与術師に義手を作ってもらった方がいいだろう。

 足も同じ。

 とりあえずは火傷の治療だ。

 皮膚呼吸出来ないと死ぬってのは嘘だが(水中でぴっちりしたウェットスーツに身を包んでもアクアラングありゃ死なないもんな)、厄介なのは高熱に晒された事による熱中症。

 それにこれだけ広範に渡って火傷を負って、呼吸がおかしいとなると火傷で皮膚が硬化して呼吸が満足にできないか、肺までやられてるか、或いはその両方。加えて、感染症の可能性もある……。

 それに熱中症だったら、回復しても完全には……。いや。

 とりあえず俺の仕事はこの人が事情を話せるようにする事だ。


 この日から都合三日に渡る俺の奮闘が始まったのだった。

  

過去的部分は今回で終わり、タイトル名通りの展開へと移ります

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