7話:かつての事件記録
今回はかつて落ち人がやらかしたえぐい事件のお話が簡単にですけど出てきます
ご注意下さい
回復魔法の基礎自体は簡単だった。
「戻す事と排除する事」、この基本を理解していれば簡単らしい。下手にこの世界の医療知識を持つ者ほど考えすぎて、却って失敗してしまうという。
「まあ、お前さん初めてにしちゃよくやったよ」
「はい……」
体験という事で和真が行ったのは補助であり、どちらかといえば見ていただけというのが近い。
だが、最初に運ばれてきたのは全身が変な方向に曲がり、苦痛に呻いている男だった。
どうやら魔獣に蹴り上げられて、直撃を喰らった右腕、右足、腰の骨が折れ、更に一部の骨が皮膚を突き破って飛び出している有様だった。これでもポーションをぶっかけられたお陰で傷自体は塞がっている。お陰で肉に埋もれるようにして骨が突き出しているという光景になっており、あまり気持ちの良い光景ではなかった。
それでも必死に当人が頑張ったお陰で内臓までは傷ついていないらしく、生きていた。
しかし、だ。
回復魔法で「戻る」とはいえ、その際に骨が肉がずれる痛みは誤魔化せていないらしい。
麻酔のような魔法があれば話は別なのだろうが、どうもこの世界にはないらしい。まあ、自分達の世界でも全身麻酔などという技術は割と最近までなかった技術。伝説レベルにまで遡るなら三国志にも出てくる名医華佗が行ったという話があるが、記録に残る限りでは日本の江戸時代に行われたものらしい。もっとも成功までに実験台に名乗りを上げた母親が死に、妻が失明するという悲劇を乗り越えての話だ。
そして、現代でさえ麻酔がどうして効くのか完全には分かっておらず、全身麻酔による医療事故は未だ絶えないという。
つまり、魔法で再現しようとしたら最悪心臓とかまで麻痺して死ぬという事だってありうる。下手に試す事なんて出来ないだろうな。或いは試して、結果殺人として捕まった奴もいるかもしれない。
なので、治療とはいえ痛みに苦しむ患者を強化魔法の使い手が抑えつけて、回復魔法をかけるという……痛そうな事このうえない。
動物実験とかは思い浮かんだりしないんだろうか?……この世界、妙に発展してる所があるかと思えば、発展してない所とか歪んでる部分があちこちにあるからなあ。これも魔法の弊害って奴なんだろうか?一つだけはっきりしてるのは今、自分が疲れ切っているという事実だよ……。
回復魔法だと楽だなんて甘かった。
「はあ、魔法の改良でも考えないとやってられませんよ」
「出来るのかい?」
「まだ魔法の初歩学んだばかりなのに無理ですってば!」
などという会話を交わす中でふと思いついたようにマーロンさんが言った。
「しかし、君が真っ当な頭持った落ち人らしくて良かったよ」
「そういえば……」
落ち人がもたらした騒動。
そんな話をふと思い出した。
「落ち人がやらかした騒動って何やったんですか?」
「ふむ、俺が詳しく知ってるのは回復魔法に関わる話一つぐらいだが……それでいいか?結構えぐいぞ」
「……お願いします」
そして、語られた話はこんな話だった。
まあ、あれだ、最初はその落ち人は回復魔法の使い手達は協力して互いの技術や知識を公開し、共に発展すべきだ!って主張してた訳よ。ここまではまだいい。
割と下の立場の奴からは賛同者もいたらしいが、上、つまりそうした技術を持ってる事で裕福な暮らしをしてた連中からはなかなか賛同得られなかった訳だな。
まあ、無理もないっちゃ無理もない。回復魔法の話じゃあるが、要は「あんたの所が上手くやってる商売のノウハウや技術を公開しろ!」って言われてるようなもんだからな。そりゃあ誰だって渋るだろうよ。理想を追求するのはいいが、下手すりゃ一族が困窮する事になるんだ。誰が自分の子や孫が金に困る未来を歓迎するよ。
やるなら、「お前が開発した技術やなんかだけを公開すりゃいいだろう!」っていうのが本音だったろうな。
で、こっからがその落ち人が起こした問題だ。
やっこさん自分の理想って奴が思うように進まねえ事に苛立った挙句、そういう技術とかを知ってる奴を誘拐して聞き出すって手に出た訳。
でも、だからってそうそうペラペラ話す訳ねえだろ?んじゃどうするか、そりゃ拷問で無理やり聞き出したのな。
ただ、な。そこまでやれる奴はそうはいねえ。
分かるだろ?そいつの理想に最初は憧れた連中の中にもそういう拷問までやるような光景に心が折れて、密告した奴が出た訳よ。それで実際に現場に踏み込んでみりゃ、連中はギリギリで逃走してたらしいが現場はもう悲惨もいいとこだったらしい。
当然、そこからは一気に転落だな。
犯罪者と手配されて、一人捕まりまた一人捕まってついに主導者の落ち人の奴も捕まった訳よ。無駄にカリスマとか指導者としての能力とかはあったみたいだな。
んで、だ。
とっ捕まって、法廷に引きずり出された奴さんが怒れる被害者家族達の前で言い放ったのが「発展には犠牲がつきものだ!彼らは世界の発展の為に尊い犠牲となったのだ!」だったらしい。どうも拷問で解体しながらそれを記録してたのは事実らしいな。連中にしてみりゃ情報を聞き出すと同時に、人体を解明する研究にもなってた訳だが犠牲者からすりゃ、話しても拷問同然に生きながら解体されて殺されてったって事だからな。被害者の身内からすりゃ激怒するのは当然だろう?
で、判決として「そんなに発展に犠牲がいるというならお前を解体して発展に役立てよう」という判決になってな。要はその落ち人自身も生きながら解体してやれ!って事になった訳。
で、その時にそいつが抜かしたのが「そのような残酷な事は許されない!」、って話。
うん、そう普通君みたいに呆れるよね。同じような拷問したの誰よ、って話だな。
当り前だが、火に油を注いだ状態になってねえ。そりゃあ惨い事になったそうだよ。切っては治し、ばらしては治し、落ち人含めた連中一同最期は殺してくれと泣き叫びながら何年もかけて殺されてったそうだよ。
……な、聞いて気持ちいい話じゃないでしょ?
この一件以来、どっこの家も自分の家の秘術とか技術とかに関してますます秘密主義になっちゃってねえ……連中の色々集めた資料も「あの犯罪集団の記録」って事で軒並み焼却処分。中には真っ当な資料もあったのかもしれないけど、何しろどの技術が拷問で聞き出した情報か分からんし、下手に閲覧要請して「お前、あんな拷問で得られた情報を云々」って言われるのもアレだったんだろうね。さっくり処分された訳。
ほとんどの落ち人はまともなんだけどね?そういう馬鹿な事仕出かした奴がいるとやっぱり目立って、残る訳よ……。
かくして、「情報公開!」なんて話は立ち消え、各名家同士の協力もなくなったとさ
尚、落ち人は色んな世界の色んな時間軸からやって来るので、必ずしも同一世界からばかり落ちてくる訳ではありませんし、時には進んだ意識(笑)を持ってる所から来る人もいます