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32話:森を進んではや幾日

仕事って色々あるけれど……(疲労

 結果から言えば、冒険者達の誰もが予想していた通りの結果になった。

 俺こと霧生和真としても敢えて言わせてもらおう、「アホか」、と。


 多分、軍の連中も分かってる奴は分かってたんだと思いたい。

 しかし、軍というのは上の命令は絶対。

 だからこそ上がアホだと下が迷惑を被る事になる。

 せめて、魔獣討伐時の音を小さく出来れば良かったものを通常通りの討伐を行い、魔の森では遠くからでも音が聞こえていた。

 おまけに歩きやすい所をついつい歩くものだから……。歩きやすい所というのは獣道が多いというのに。

 無論、冒険者達は軍とは距離を取る道を選んだ分、歩きにくい所も多かった。下手に獣道も通れない為、歩きやすさと獣道のリスクを計算しながら獣道がどんな魔獣の道なのか、それとも通常の獣の道なのかを熟練の腕で探りながら進んでいった。

 如何に魔の森といえど、全てが魔獣な訳じゃない。通常の獣と見極める事が出来れば、安全な利用も出来る……訳だが。


 「ま、魔獣相手の時、野外での少数行動が得意じゃない連中にゃ無理だな」


 とは、こちらの盗賊系強化術師の言葉。

 その通りだろう。

 彼らも魔獣がいなければ野外での活動も出来るんだろうけどなあ……。軍隊同士の戦いでも斥候は必要だ。おそらく都市部での暗躍だけでなく、野外であっても人同士の戦闘でなら彼らは冒険者以上に長けているのではないだろうか?

 軍隊同士の戦いであれば、斥候が魔獣と戦うような事はまずない。魔獣が出た所で軍によって仕留められてしまうからだ。

 そうなると軍の精鋭、彼らに求められるのは音もなく静かに敵対する斥候を仕留める技。

 あるいは歩哨に立つ兵士を仕留めて、忍び込む技。

 集団で動き国が背後にいる軍と、冒険者ギルドがバックにあるとはいえ基本個人経営者であり少数で動く冒険者とでは根本的に求められるものが異なって来る。

 それが今回は軍側には不利に、冒険者には有利に働いただけの事。

 

 「魔族がいなくても、派手に音を立てれば魔獣が集まって来る可能性が高い。彼らとの距離に気を付けて下さい」

 「任せておけ」


 アシュタールの言葉に応じた仲間が的確にこちらを導いていく。

 本来手入れのされていない、且つ下手に歩きやすい道を通る事が出来ないというのは非常に厳しい条件だ。もし、元の魔法のない世界でそれをやるとなると凄く厳しい事になるだろう。

 それをアシュタールの転移魔法の力を借りて、強化術師がその強化された肉体をもって突破していく。

 治癒術師である俺と、攻撃術師は基本荷物として、先導するのとは別の強化術師に運ばれてゆく。肩の上で脱力してるしかないというのは何とも間抜けだ。まあ、移動術師と強化術師と比較するのが間違いなのはよくわかってはいるんだが。

 

 「本気で出番がありませんね」

 「ええ、まあ今回のお仕事の内容上仕方のない話ではあるのですが」


 さて、そんな移動の最中、軍の精鋭を遠目に見る機会があった。

 こちらが少々、というには厳しすぎる山を登っていた時の事。生き残りであろう集団がいた。


 「最初より数が増えてないか?」

 「途中で合流したんでしょうね。或いは複数の部隊の残存部隊な可能性もあります」


 とは視力を強化して確認した強化術師二人の台詞。

 かなり消耗が激しいそうだ。

 もっとも、その原因は間違いなく彼らの数と戦闘方法だろう。

 数が多いから魔獣にも見つかりやすくなる。

 戦闘が増えやすくなるから、怪我や消耗も激しくなる。

 そうなれば、戦闘にも手間取り、それがまた新たな怪我や消耗を招く悪循環だ。とはいえ、幸いなのは進路を考えると撤退中という事か。集団の利と歩きやすい場所を選ばざるをえなかったのを利と変えて、ここまで迅速に移動してきたものの、さすがに限界と判断したか。或いは、ここまでの進軍を主張した隊長が戦死したか。

 ただし、最大の問題は。


 「つけられてるね……」

 「ああ……」


 ここからなら分かるが、彼らの後方から魔族と思われる部隊が近づきつつある。

 数で言えば、魔族が若干多い程度だが、魔族側がより本拠地に近く消耗も少ないのに対して、軍側は既に何日も魔の森を進んできた事で消耗している上、複数の部隊が混じっているという事は最悪指揮系統も混乱する可能性がある。

 誰が指揮官というのはさすがに分かっているだろうけれど、通常組んでいる相手とは異なる者が多数入り混じっている部隊だ。普段と同じ通りに機能すると考える方が難しい。連携だって普段とは違うタイミングで発動させる必要があるだろうし、ある程度は大丈夫だろうけれど果たしてどこまで機能するのか。

 

 「……行こう」

 「アシュタール……」

 「私達の仕事は彼らを助ける事じゃない」


 誰もが黙ったまま移動を再開する。

 分かってる、俺達が多少介入した程度であの数相手の戦いでは意味がない事も、依頼の失敗に繋がりかねない事も、そして彼らが壊滅するまでの時間が貴重な囮としての役割を果たす時間となる事も。

 それでもふと彼らに、最後に視線を向けてしまう。おそらく、その大半は二度と見る事がないだろう彼らへと。


 「アホな連中だった」

 「そうだな、ここに至っても連中、捕捉された以上任務の助けになる為に時間稼ぎを狙って戦うんだろうな」

 「ああ、さっさと逃げりゃいいのにな……」


 ふとそんな会話が聞こえた。

仕事だと客がいます

中には「二度と来るな!」と怒鳴りつけたいような客、ぶん殴ってやりたいと思うような客もいます

訳の分からんクレームをつけてきた挙句、しつこく、本当にしつこくからんできたら尚更です

なのに、客だから下手に怒鳴りつける事も出来ない場合があります。物凄くストレスが溜まるし、その客がまた来る可能性があると考えると更にストレスが溜まります

どこの誰でしょうね、お客様は神様ですなんて言葉を言ったのは。いえ、言った人もその本来の意味も分かってますが、あくまで「そういう気持ちで対応しなさい」という本来はあくまで心構えであるはずのものを要求するような客には本当に……

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