3話:魔法の存在
短めにはなるかもしれないけど
ここは専門の魔術師であるエーデルハイムさんが中心になって説明してくれたんだが……何と正確には戦士であるオルバーニさん達も魔術師らしい。
というよりも、加護によって何等かの魔法をこの世界の人は使えるそうだ。
「この世界にある魔法は全部で六つの系統に分けられているんだ」
生活、攻撃、転移、付与、強化、回復。この六つ。
この内、生活魔法に関しては誰でも使えるそうだが、他五つに関してはそのどれか一つを才能として与えられている、らしい。
「つまり、生活魔法以外は誰もが一系統しか持ってない、って事だね。私の場合は攻撃魔法の素養があるから他の転移、付与、強化、回復系統の魔法は使えない」
「どれを使いたいとか選べないんですか」
「生憎とね。だからどの魔法の才能が自分にあるのか判定してみて、それが自分に合わないと思った人は生活魔法以外は真面目に取得しない。使わないから強い魔法も使えない」
どの魔法の系統の力を持っているか、これは判定する道具がちゃんとあるそうだ。
神様が最初に与えてくれた道具、その子機……とでもいうべきものが今では世界中のちょっと大きめの街には必ずあって、簡単に自分の系統は分かるそうだ。もっとも神様が与えてくれた道具云々は神様によって世界のどっかに設置されてるという伝説レベルの話なんだそうだけど。
一度お目にかかってみたいと探す者もいるそうだけど、未だ発見されてないそうだ。
魔法だってちゃんと勉強して、使いこなせるよう訓練しないと一部の例外除き強力なものは使えないそうだし、そもそもそうそう簡単に教えてくれないとか。変な奴に強力な魔法を教えて、悪用でもされたらとんでもない事になる、って事らしいね。
納得の話じゃある。
「まあ、生活魔法は例外だけどね」
そう言ってエーデルハイムさんは笑った。後で自分にも教えてくれるそうだ。
生活魔法は便利だからむしろどんどん公表した方がいいらしい。使い勝手の良い魔法を開発すれば、それによってお金が儲かるような仕組みもあるらしい。
「残る五つに関しては研修の時に詳しく教えてくれるだろうから私からは簡単に…」
強化と付与は共に強化という点では同じだが、強化魔法は生物を強化し、付与は物質、無生物を強化するものだと考えればいいらしい。
転移は移動の補助や空間拡張による運べる荷物の増大など。
回復はそのまんま。様々な回復や防御に関する魔法を使えるそうだ。
「間違えないで欲しいのは魔法が決まっているからといって職業まで決まっている訳ではないという事です」
「そうだな、その系統の魔法だとこっちの仕事が有利だぞ、ってのはあるがな」
オルバーニさんがエーデルハイムさんの言葉を補足してくれた。
美味しい料理を作れるかどうかに魔法は関係ない。
商売も同じだ。
鍛冶にしたって、付与で形だけ剣にしても腕のいい鍛冶屋の鍛えた剣に比べればナマクラもいい所。
戦士や騎士だと前線で戦うには強化魔法の使い手が強いが、騎士団長とかになると自分自身の強さより指揮や戦術眼、戦略的な思考といったものが大事になる。
「それに魔法だってちゃんと真面目にやらないと普通は大して強力なものを使えませんからね」
魔法もあくまで技術、訓練も勉強もなしに使ったってそうそう簡単に強い魔法は使えないって事か……そう思った俺にエーデルハイムさんが真剣な顔で言った。
「だけど君が本当の落ち人なら例外の可能性がある」
「え?」
「最初の落ち人達に与えられた力は強い物だったと言われています。そして時折落ち人には酷く強い魔法を使う者がいます」
エーデルハイムさんの説明によると最初に授けられた者達からずうっと年月を経て、いわば力が薄まった状態で安定した自分達と、新しく落ちて来たばかりの落ち人。最初に魔法という加護を授けられた始まりの人である俺は強い魔法を使える可能性があるという。
「だからこそ言っておきますが、もし強い力を使えても、もしその原因が、仕組みが分かるならそれをむやみに公開しない事です」
でないと明日の太陽は拝めないと思った方がいいですよ。
さすがにぎょっとした。
でも、誰もが真剣な顔で頷いている。
それによると下手に「例えばこうやればもっと強い攻撃魔法が使えますよ」とか、「こうやれば治らなかった怪我が治りますよ」と誰でも使えるような方法を公開してしまえばどうなるか?強い攻撃魔法を一足先に手に入れた国がまだ手に入れてない国に攻め込むかもしれない。
転移魔法や回復魔法だってその国が独占すれば他国に優位に立てる。
「過去にもあったんですよね。皆がそんな攻撃魔法を使えるようになれば魔獣からの被害がもっと減らせる!、回復魔法のより有効な使い方を広めましょう、そうすれば助かる人はもっと増えます!とかね?でも、そういう甘い事を言ってくる大抵の連中は自分達が甘い汁を吸う目的だと思った方がいい」
「ギルドメンバーが散々利用されて、冒険者ギルドも痛い目を見た事があったんでな。冒険者ギルドは落ち人を見つけたらまず『冒険者ギルドへ!』って教えるために、こういう話をしてるのさ」
比較的中立で、国レベルの干渉から所属者を守れるだけの力を持つ組織。
それが冒険者ギルド。
「と、まああれこれ言ったけどな。要は重要なのは一つだけだ」
「そうですね。もし、あなたがそういう力を手に入れたのなら……好きにやりなさい、って事ですよ」
「ま、もちろん他の奴の迷惑にならねえ範囲でだがな」
そう言って笑った。
本当に自分にもそんな力があるのかな。あるならどの魔法なんだろう。
まだまだいきますよー