1話:落ち人
突然時間が出来てしまったので勢いのままに書き連ねたお話です
ちょっと気分的にどん底ブルーになるような状況なので気分転換に!
「はあ……」
思わず溜息が洩れた。
「何でこんな事しなきゃならないんだろ」
「おいおい、分かってるだろ、そんな事」
「……まあね。分かっててもやりきれないんだよ」
その言葉には反論はなかった。
何気なしに空を見上げ、ふと思う。「どうしてこうなった」と。
何で突然やって来たファンタジー世界で、世界の命運賭けた戦いに勇者一行として加わってんだよ、と。
そう、俺は勇者じゃない。
勇者の仲間、その一人だ。
とはいえ世間では勇者一行として知られる五人の一人であり、国が金を出して吟遊詩人達がせっせと噂を広めてくれている。
アイドルとかもそうだが、下手に知名度が上がると街に着いた時も下手な行動出来ない。幸いというか、この世界では元の世界みたいに写真とかが誰でも見れるぐらいに出回ってるとか、ましてやテレビなんてものは存在しないから簡単な変装と偽名を使えばそうそう気づかれる事はないのが救いだけど。
どうしてこうなった、と時折思わざるをえないんだ。
俺はもっと平凡且つ静かに生きたかったんだが……。
◆
異世界への転移。
俺も小説とかじゃ読んだ事はあったが、自分がそんな目に実際に遭うなんて思いもしなかったし、当初は何が何だか分からなかった。おまけに、危うく死にかけた。こちとら戦いには縁のない日本人。山に近い場所なら獣だって出くわす事もあるだろうが、普通猛獣と言えるような動物と真っ向出くわした経験なんてそうそうあるもんじゃない。
だから、自分の前に魔獣が現れた時に俺は動けなかった。
ごふー!ごふー!
「え……」
荒い息をついて俺を睨むのは巨大な鹿のような魔獣だった。
「なんだ、鹿かよ」などと思うなかれ。
通常の鹿でもオスの角にやられたら死ぬような怪我を負う事だってある。
でも、世の中にはヘラジカ、なんて化け物みたいな巨大な鹿だっている。俺の目の前に現れたのは正にそれ。俺の身長の倍以上の高さから見下ろされてるなんて経験初めてだったよ……逃げようにも相手は間違いなくこちらをロックオンしてる状態だった。
「ええっと……」
じり、と足が下がるがあからさまな殺意という奴を向けられて、それ以上足が動かない。
いや、あれが殺意だったんだ、って事さえ後から理解出来た事で その時は頭が真っ白で何も考えられなかった。
(ああ、あれで突かれたら痛そうだなあ)
鹿の魔獣の角は通常の鹿のものとは明らかに違っていた。
金属の光沢を放っていて、まるで武器をごちゃ混ぜに固めたよう。斧とか鉈とかそういったものが一斉に蠢いて刃を向けてくる。そうなんだ、明らかに角が動いてたんだよ。閉じてた葉が開くように、或いは折り畳まれていた刃が展開するように。
ああ、うん。訂正する。あれで突かれたら痛そうと思ってたけど、間違いなく死ぬ。
(短い人生だったなあ)
そう遠い目をした俺に鹿が突進を開始した直後だった。
ずどォォォォン!!
ぶもおおおおおおおおおおっ!?
牛みたいな悲鳴だな。
そう思った俺がそう考えた事で我に返って見てみれば、鹿の横腹から煙が上がっていた。
あれが鹿の突進を急停止させた理由らしい。
「おおおらああああああっ!!!」
ずどォォォォン!!
ぶもおおおおおおおおおおっ!?
横を睨んだ鹿の頭部に更に追撃!と人とは思えない速度と跳躍で突っ込んできた男性がその手に持ったハンマーを振り下ろし、先程の音と悲鳴が再び繰り返される。今度は頭部に直撃した一撃が鹿の金属質の角自体を折り砕き、飛び散らせる。
ふらふらっと足をよろめかせた鹿は完全に足を止めていた。
追い打ちとばかりに飛来した矢が正確に鹿の目を射抜いた。
これで完全にパニック状態になった鹿は直後。
「でえりゃあああああああああっ!!」
回り込んだ男性が振り回したハンマーが後ろ足に直撃、その足をへし折った。
巨体の割に足は細いと思ってたけど、あの重量を支える以上それなり以上の頑丈さがあったはず……とはいえ、これで完全に悲鳴を上げて鹿が倒れた。
「よっしゃやっちまえ!!」
【火炎尖槍】!!
後方へと飛び退りながら男性が発した声に合わせ、別の男性の声が響き、それと共に飛んできた炎の槍が小刻みに軌道を修正しながら鹿の頭部に着弾。
鹿は動きを止めたのだった。
昨今凄い忙しいというか余裕がなかったのですが、諸事情から仕事にいきなり暇が出来ました
ぽっかり時間の空きが出来たので時間潰しも兼ねて、書き出した作品です
勢いのままにしばらく連続投稿出来ればいいなと思ってます






