悪足掻き
ちょっと短いです
我武者羅に前だけを見て白装束の化け物と攻防を繰り返し続けた。
攻撃を受け流した。剣にひびが入った。それを見て迷いなく捨てた。そして新しい剣を拾った。再び攻防を再開した。攻撃がきた。シズクに影響が無さそうだったため、避けた。追撃がきた。剣で受け止めた。衝撃を受け流しきれずダメージを受けた。だけどシズクは守れた。だから再び攻防を再開した。
今何度目だ?何度避けた?何度受け流した?何度喰らった?何度守った?
いいや、わかるはずもない。数えてなんて最初からしていない。終わりの定められていないのに数えるなんて意味がないから。
だけど、十や百では収まらない攻防が繰り返されたことだけはわかる。それほど俺の身体は疲労とダメージを蓄積させていたから。
視界は既に朧気だ。見えているが見えていない。焦点があっておらず、辺りを把握しきれない。
感覚はもう希薄だ。触っているのかすらわからない。身体と外界の狭間をあまり感じられず、まるで空気と一体化したような感覚に陥る。
もう意思や根性だけでは継続できないほど俺の身体は白装束の化け物に壊された。
例え剣を握っていたとしても構えられないだろう。肩より上にあげる事すら叶わない。
そして、ドットよりも更に荒いモザイクがかかったような視界は何かが接近していることを知覚した。
前方の真上からだ。何が降ってきているのか分からないが、手か鉄の棒。またその両方だろう。今この状況で攻撃以外に接近してくる物体なんてない。
だが知覚できたとして、今の俺には何もできない。何もすることができない。
「チキショウ……」
守りたいものを守り切れなかった自身の無力感に苛まれ、思わずスッと声を漏らす。
迫り来る何かは近づけば近づくほどその姿を明瞭にさせていく。
それは手だった。張り倒そうとでもしているのか指を等間隔に開いた皮膚の無い巨大な手のひらが、空気を引き裂きながら一直線に突き進む。
万事休すに他ならなかった。
走馬灯なんて思い浮かばない。巡るほどの気力がないからのか、巡るほどの記憶がないからなのか。
沸々と沸き上がる感情は一切ない。憤怒も、後悔も、悲哀も何もない。ただもう疲れた。
「……なんて思う暇があったら少しでも抵抗しろぉぉおおッッ!!!」
無理で無力で無謀で無価値に等しい。それでも最後の抵抗として俺は擬骨生成を行使し、地面から今出しうる限りの無数の骨の柱を奴の手に突き立てる。
攻撃を逸らすだけで破損してしまうような骨を真正面から突き立てたとて無意味な抵抗に等しいだろう。
だが、諦めるよりずっといい!
ただ足掻け!折れるな!挫けるな!諦めるな!留まるな!立ち止まるな!見切りを付けるな!立ち上がれ!!
今は動いて時間を稼げ!!それが未来に繋がると信じて抵抗しろ!!!
いままでの行為には意味があったのだと証明しろ!!!!
「いっけぇぇぇえええええ!!!!」
掛け声と同時にズドドドドドン!!!と鳴り響き、奴の手と俺の骨が接触する。
結果は惨敗。手が触れる度に脆く貧弱に折れ砕ける。
本当に無意味。時間を稼げたとしてもたった数秒か。いや、一秒にすら満たないかもしれない。それほどまでにわずかな抵抗。あってもなくても変わらないような些細な抵抗。
しかし、そのたったコンマ以下の秒数を稼いだことが功を成す。
骨の柱を難なく砕く驚異の手は急激に速度を落とし、俺の目前で、鼻先が触れるか触れないかの位置で停滞する。
急接近は止んだが、手のひらに押し出された空気が風圧となって俺を押し出し、疲労困憊の我が身は成すすべなくその場で尻もちをつく。
「な、どうしたんだ?」
何故止まったのかは俺には皆目見当もつかない。最後の悪足掻きは時間を稼ぐ目的はあっても、攻撃を防ぐ目的は無かった。あったとしても到底防げるとは思えないし、無慈悲に砕け散っていたあの光景がそれを如実に物語っている。
ではなぜなのか。そう思考を切り換えようとしたとき、背後でモゾモゾと何かが蠢く気配を感じた。
俺の背後に蠢くものなんて一つ以外存在しない。
「シズク!!」
目に映る光景は不明瞭だが、俺は振り返り思わずそう叫んでいた。
「度々迷惑かけてすみません。もう、やられませんから」
そこには剣を腰に携えた元のシズクが佇んでいた。
シズク復帰!!




