鳴り止む喧騒
別視点です。
マンセム=死亡した冒険者
セキム=生き残った冒険者
です。白装束の化け物を読んでない人への説明です
ギルドは相も変わらず騒がしい。
地鳴りのような喧騒が部屋の隅々まで響いていた。
しかしそれは先程までの話。
とある新人冒険者のセキムから一つの報告を受けた。
大樹林に住む白装束を纏った化け物にマンセムさんが殺された。
喧騒の最中、ポツリと告げられた言葉を冒険者の誰もが聞き逃さなかった。
冒険者はどの職業よりも遥かに命を落としやすい職業。そんな冒険者たちにとって情報は命を守る盾に等しい。
持っていたとしても命を失う事はままある。しかし、無防備な状態で過ごすよりは百倍マシだった。
そんな冒険者たちには、爆音の中で呟かれる言葉を聞き分ける技術が自然と身についていた。
誰も彼もがセキムに詰め寄った。
何故、どうしてと。
冒険者マンセムはギルドの中でかなり有名な存在だった。
通常、パーティーを組んで魔物を討伐する冒険者だが、マンセムはソロでそれらをこなしていた。
いっぱしの冒険者がソロであれば気にも留めなかっただろうが、マンセムは冒険者という枠内でトップ5に入る実力者であった。
勘違いしては困るが、このトップ5は個人ではなくパーティー単位の評価だ。
マンセムはパーティーを組まない。そのためマンセムは個人としてランキングに登録されている。
この意味が分かるだろうか。
多少オーバーだが例えるなら、サッカー大会で十一人の選手相手にマンセム一人で立ち向かい、数多くの出場チームを押しのけて上位に食い込んでいる状況だ。
全くもって異常だった。それだけの実力をマンセムは備えていた。
そんなマンセムがやられた。誰もが真偽を問いただしたくなる筈だ。
しかし、冒険者はセキムに詰め寄ったところで尋ねる者はいなかった。
セキムの表情に絶望という名の幕が下ろされていたからだ。
そんなセキムに対して無神経に事の次第を聞けるほど冒険者は図太くない。
だが、ギルドとしては冒険者たちの安全ためにセキムに事情聴取をしなければならなかった。進んで悪役を買わねばならなかった。
「セキムさん。奥でお話を聞かせてください」
受付嬢がそう言ってセキムをギルドの奥へと連れていく。
その時、セキムは静かにウエスタン扉の奥を指さした。
「?外に何かあるんで……す……か……」
ギルドの外には頭部を花のように咲かせた一つの死体が横たわっていた。
血は既に凝固している。丁寧に運ばれたのか打撲や擦り傷の形跡は全くない。
誰の死体かは一目ではわからない。人を判別するのに最も有効な顔が無いのだから。
しかし、先程の会話そして、服装からマンセムの死体であると察するのは容易かった。
「おうぇぇぇ」
誰かが吐いた。
嗚咽を鳴らす者もいた。
鼻孔を吐しゃ物から漂う酸味が刺激するが、気にする者は誰もいない。
マンセムが死んだ。
冒険者の思考はそれ一点に絞られていたのだから。
●●●
事情聴取を終えて直ぐ、セキムはギルドに辞表を提出してこの場を去った。
誰も止めるものはいない。それもまた死と隣り合わせの冒険者業では日常と言えるのだから。
マンセムの死体はギルドの手によって処理された。
その間にセキムから聞いた白装束の化け物の情報が共有された。
見たことも聞いたこともない形状をした新種の魔物。いや、まずそれは魔物なのだろうか。
そう疑いたくなるほど白装束の化け物は常軌を逸していた。
喧騒は響かない。
閑古鳥が鳴いているかのようにギルドはいつにもまして静寂が支配していた。
そこを一人の男が突き破った。
ドンッ!!
二枚のウエスタン扉が大きく開かれる。
男の正体はロッドだった。
「私達がその魔物を相手にします」
ロッドは仲間たちを引き連れて声高々にそう宣言する。
静まり返っていたため、余計に大きく声が響いた。
冒険者が皆、ロッド達に視線を向けた。
その視線には多大な期待が込められていた。
理由はロッド達がギルド内の実力でトップを誇っていたからだ。
ロッド達のパーティーはギルドランキングは堂々の一位。他の追随を許さない実力を保持していた。
あのデイルが強いと認めるほどの実力者たちだ。弱いはずがない。
しかもロッド達は諸事情により防具、武具を最低限の状態で死の洞窟に潜っていた。本来の装備を身に着けたロッド達はもっと強い。
今のロッド達は装備を完璧に整えていた。
ロッドは短剣を二本携え、ルークの剣は黒銀の刃をした別物に変わっている。
アムスの盾は身体に見合う大きさのものとなり、ミユの杖も小枝より長く太いものに。
レイラの武器は杖からレイスに変わり、ロッド達全員、身を守る鋼鉄のプレートを装着していた。
デイルに受けた部位欠損もなく、今がロッド達の万全な姿だった。
完全状態のロッド達に誰もが白装束の化け物を討伐してくれるのではないかと期待を抱く。
そんな中、受付嬢が声を発した。
「ロッドさん」
「なんですか?」
「あなた方は確かにギルドランキングトップです。ですがそれは以前までの話で今は戦力が違います。命を落とすかもしれません。ここは他の冒険者と手を組んだ方が良いのでは」
「即席で組んだパーティーだと良い連携が出来ません。それに、以前よりも私たちのパーティーが弱くなっていることも私たちが一番よく理解しています。だから大丈夫です」
「でも」
「大丈夫です」
有無を言わさぬ自信がそこにはあった。
しかし、ギルド内に白装束の化け物を討伐しうる実力者は今ロッド達しかいないのも確か。
状況とロッド達の自信を考慮した結果、受付嬢は渋々承諾する。
「……わかりました。でも気を付けてください」
「はい」
ロッド達はギルドの冒険者たちに見送られながら大樹林へと足を運ぶのだった。




