深夜の出来事
ガチャを終え、時間を潰した後シズクと集合し、日は暮れる。
シズクは安らぎ亭に泊まり身体を休めるが俺は眠ることが出来ないため再び暇となった。
図書館は既に閉館している。このことをすっかり忘れていたせいで本は借りていない。
図書館以外にもほとんどの店は閉まっている。
俺は仕方ないと死の洞窟に向かうことにした。
経験値は意味をなさないし、ポイントもかなり微々たるものであまり旨味がないが、ただボーッと時間を潰すより有益だろう。ステータスも上がっていることだしな。
ダンジョン目の前まで足を運ぶと先客がいた。
黒い装いの二人組で身元は掴めない。わかるのは一人が小柄でもう一人が大柄なことだけだ。
すごく周囲を気にしている様子で何度も首を左右に振っていた。
なにやらドカドカと凄まじい音をたてる大きな木箱を運んでいるようだが、挙動と服装が相まってかなり怪しい。
こんな夜更けに物音をたてる木箱を運ぶ怪しげな二人組。もしや誘拐とかか?
それから俺の行動は早かった。
擬骨生成で一振りの骨の剣を作り出す。
デイル戦後に気付いたことだが擬骨生成は身体と非接触でも骨を生成できることが分かった。効果範囲は決まっているがこの発見はかなり良い。武器の心配がほぼなくなる。
おっと、そんな場合じゃない。
俺は鋭利な骨の剣を二人組に向け、近所迷惑にならない程度の小さな声で告げる。
「ここで何をしているんですか?」
二人組はビクッと震えた。
そして俺のことを一瞥すると互いに顔を見合わせ、腰に携えた短剣を振り抜いた。
抜いた短剣には紫色の液体が纏われ、垂れ落ちる様子はない。毒か?
「見られたからには殺るぞ」
「自分の不運を恨みな」
小柄の後に大柄が告げると声的に両者男の二人組は一斉に飛び掛かる。
二手に分かれ、小柄の男がサイドから短剣を横に薙ぐが、俺は地を蹴る事で後方に退避。
退避した先には大柄の男が短剣を振りかぶり、待ち構えていた。
「誘導か!?」
「死ねぇぇ!!」
凄まじい気迫と共に振り下ろされる短剣。
すんでのところで骨の剣が間に合い、両手を使って受け止める。
ジーンと手が痺れる感覚が訪れるが何とか受け止めることが出来た。短剣だけを。
太く肥大した剛腕から放つ一筋の一撃は、短剣にこびり付いた紫色の液体を斬撃のように飛ばす。
短剣を受け止める事で精一杯の俺が液体を躱すことなど出来るはずもなく、甘んじてその一撃を受けいれた。
俺の顔面に少量の液体が張り付いた。
「ぎゃはは!!こいつは一滴でも皮膚に触れればお陀仏の代物だ!開幕終いだなぁ!!」
声高らかに嗤いながら大柄の男は戦闘は終えたと言わんばかりに次の動作を起こさない。
臨戦態勢は既に解除され、剣を押し込むだけの隙だらけな図体を俺の前に曝していた。
俺の皮膚は疑似的な物。皮膚感染の毒を摂取しようと問題ない。
元の魔物の身体に毒は基本通用しない。
だからこの隙、存分に利用させてもらう。
「!?馬鹿!!油断をするな!!」
小柄の男が俺の意図に気付いたのかすぐさま大柄の男の下へと向かい、両手を駆使して力いっぱい大柄の男を押し込んだ。
「ぐへっ!?」
「クッ!!」
大柄の男が立っていた位置には無数の骨の柱が地から突き出していた。
擬骨生成の非接触生成だ。
先端は鋭く尖り、あの場にまだ大柄の男が居れば串刺しとなっていたことだろう。
しかしそれは叶わず、機転を利かせた小柄の男の助力で事なきを得た。
代償に小柄の男は右足一本を骨の端に貫かれていた。
ロッド達とは違ってこいつらは勘違いで俺を襲ってきたわけではない。
明確な殺意を抱いて俺を排除しにかかった。
そんな相手に俺は容赦することは無い。
「死ね」
片足を貫かれ、その場でうつ伏せに横たわる小柄の男の位置に再び擬骨生成で骨の柱を生成する。
万が一に逃げられぬよう小柄の男を中心に骨のドームを作り出し、貫く。
「ギャァァァ!!」
聞くに堪えない悲痛な叫び声を小柄の男は発した。
「な、な……てめぇぇぇえええ!!」
仲間を殺されたことに逆上した男は無策に駆け出した。
短剣を無作為に振り回し、辺りに毒をまき散らすが奴自身は一直線で俺の下まで全速力で突っ込んでくる。
「終いだ」
俺は男が突き進む進行方向に骨の柱を形成した。
飛び込めば串刺しは免れない。
しかし男は逆上し、全速力で突っ走っていたため急停止が出来ず、骨の柱に飛び込む形で敢え無く息絶えた。
「さて」
俺は大柄の男を置き去りにして骨のドームの下へと向かう。
拳に力を籠め、ドームを打ち砕く。
中には四肢全て貫かれているものの未だ息を保つ小柄の男がいた。
痛みが耐えがたいからヒューヒューとか細い息だけを漏らしている。
小柄の男を生かした理由は何をしていたか問いただすためだ。大柄の男よりも小柄の男の方が有益な情報を持っていると考え、大柄の男を殺して小柄の男は生かした。
念のため逃げられないようにするためと大柄の男を逆上させるために四肢を貫いておいた。
「ここで何をしていた?」
もうへりくだる必要はない。
威圧的な声で小柄の男を問いただす。
しかし、小柄の男は息を漏らすばかりで答えはない。
そして少しすると男は意を決したように生唾を飲み込んで告げた。
「魔神様、万歳」
小柄の男はそう言って奥歯をかみ砕いた。すると目や鼻、耳や口に至るまで無数の穴から血を吹き出し、息絶えた。
奥歯に毒を隠し持っていたようだった。
結局、目的は分からず終いだった。こんなことなら大柄の男も生かせばよかった。
俺はとりあえず彼らの運んでいた蠢く木箱へと向かい、開封した。
「ぎゃぎゃぎゃ!!」
「うわっ!」
「ぎゃぁ!?」
中にはゴブリンが詰め込まれていた。
あまりの衝撃についゴブリンに骨の剣を突き立て、殺してしまった。
「なんでゴブリンを……ん?そういえば」
俺はある疑問が思い浮かんだ。
死の洞窟は街中にあるダンジョンだ。当然、街中には魔物が存在しない。
ならば何故、死の洞窟にはゴブリンやホブゴブリンが存在していた?
普通ならばありえない。しかも武器を持っていたのが不思議でならない。
怪しげな彼ら。木箱のゴブリン。魔神万歳。
関係が無いとは思えない。
こうなると尚更彼らから情報が得られなかったことが悔やまれる。
しかし、ここで俺がいくら推察しようと結論が出ることは無いだろう。
これは朝方になったらギルドに相談しておこう。
さて、まだ日が昇るまで時間があるし、死の洞窟に潜りたいがその前に……。
「これどうしよう」
俺は地面から生える無数の骨の柱と残された二つの死体を見てそう嘆くのだった。
主人公は嘆いてはいますがその気持ちを飛ばす程のものを実は手にいれています。




