まだ終わらない
ストック尽きました……
大雑把だがまさしく一閃と言えるような斬撃がデイルを上下に引き裂いた。
デイルの上半身は崩れ落ちる様に大地と接触し、残された下半身は俺に覆いかぶさるように倒れこんできた。
その時のデイルの顔は油断した自分を悔いるように苦虫を嚙み潰したよう表情をしていた。
勝った……狩った!!俺はデイルに勝ったんだ!!って、いててててててて!!!
忘れていた痛みが今、我が身に現れ、全身を蝕むような激痛が襲う。
『肉体許容限界点に到達。装化纏を強制解除します。そのためステータスは元に戻ります。そしてスキルの使用が解放されました。これより10分後にあなたは気絶し、それと同時に12時間ほどステータスは10分の1になります』
前回とは前文がちょいと違うが、装化纏解除を知らせるアナウンスが頭の中で響き渡った。
しかし、良かった。デイルを倒せて。作戦が成功しなければゲームオーバーだったが、何とか勝て……。
ピクッ……。
その時、僅かに物音が聞こえた。蚊の飛ぶ音と同じくらいほんの少しの物音だ。いや、気のせいか。戦闘を終えたばっかだからそこらの音に対して過敏になっているんだろう。
さて、と身体を動かそうとすると石の様に身体が重く、動かなかった。
流石に酷視しすぎたな。まあ急いで動く必要もない。スキルは使えるようになったんだ。この暇な時間は討伐報酬で潰すとしよう。
俺は頭の中でガチャマシーンを構築し、お馴染みのレバーを捻ろうとする。しかし、動かなかった。
あれ?レバーってこんな固かったか?
不思議に思いながらだんだんと力を込めていくが、一切動く様子を見せない。故障かと思いもう一度脳内で展開し直すが結果は変わらない。
……まさか!!?
俺はステータスを開き、ポイントの数値に目を向けた。数値は一ポイントとして増えていなかった。
この結果が示すのは即ちデイルの生存。
さっきの音は気のせいじゃなかったんだ!
俺はいつも以上に重たい頭を持ち上げると目の前に倒れこんでいたデイルの下半身が動き出し、膝立ちに起き上がる。
今もなお血液を垂らし続ける傷口がジュクジュクと膿みはじめ、切り離された筋繊維や骨、血管などが伸びていく。デイルの上半身の下まで。
何故そんなことが起こっているのかわからない。だが復活を果たそうとしている事実は見るからに明らかだ。
阻止しなければもう逆転の手なんてない!!
俺は影縛り、糸操作&放出、初級火属性魔法などなど、デイルの復活を阻止しうるであろうスキルを手当たり次第に行使する。だが不発に終わる。何度諦めず試そうが結果は変わらなかった。身体も首から上以外は一切動かない。
どうやら俺が思っていた以上に、この身体はボロボロだったようだ。
恐らく、混沌重ね掛け一度目の時点でもうギリギリ。二度目の時点で限界はとうに超えていたんだろう。
デイルは止められない。もう何もできない。
俺はデイルの上半身と下半身が癒着し、蘇生する様子をただ静かに見続ける事しかできなかった。
「クフフ、我ながら愚かでした。最後の最後に油断をするとは。余分の吸血鬼の血が無ければ私の負けだったことでしょう」
デイルの持っていた吸血鬼の血は一つだけではなかったらしい。瀕死には陥った。しかし、隠し持っていた吸血鬼の血を服用し完全回復に至ったのだろう。
再び振出しに戻った状況。だがそれはデイルに限り俺は消耗し切り、スキルはおろか手足さえ一切動かせない。
だが、最後の奇襲も手の内でまだ余力があるとデイルは勘違いしたのだろう。
「クフフ、眠ってないでまだ続けましょう!フィナーレはまだ訪れませんよ!!」
弱体化した俺の横腹を容赦なく蹴り上げるデイル。ろくな受け身もできず、吹き飛ばされた俺の身体はまた壁に叩き付けられる。
抵抗しようがない。もう策はない。頭蓋は砕け、手足は断裂。まだ胴にくっ付いている部位だって全て罅割れ状態。
追い打ちをかけるように壁に張り付いた俺に殴打を加えるデイル。こんな状態の俺でもまだ何かできると本当に思っているんだろうか。
一万を超えるステータス差、その攻撃を受け止めて無事でいられるはずがない。
既に頭蓋以外の身体は骨粉と化している。跡形もない。
あぁ。ここまで頑張って頑張って頑張って、負けたのか。
悔しいなんて感情は湧かない。湧く余裕がもうない。意識も遠のいていく。走馬灯もない。ただ眠い。
眠れば死。わかってはいるが抗えない衝動だ。全身麻酔されているような抵抗しようがない感覚。
もう片目は完全に閉じている。
うっすらと視界は狭まり、思考がままならないこの状態で俺は何を思ったのかステータスを開いていた。
あぁ、俺はこんなに強くなっていたんだな。
感慨深く思う。最初のステータスと比べればすごい成長だ。スキルも多くなった。使いこなしきれないものが多かったが、それでも……。
叡智も、ありがとな。今まで付き合ってくれて。
『ーーーー』
何言っているか聞こえない。耳がもう遠いのだろう。殴打の音も聞こえない。
その時ふと目についたスキルがあった。
そういえばこのスキル、使ったことなかったな。戦闘系スキルな感じだったのに。
だが、もう使う機会なんて来ないな。
あ、もう、限界だ。眠気が……。
そして俺は意識を静かに手放した。
●●●
最後、デイルが復活する直前、多くのスキルを何度もスケルトンは行使した。使用できないにもかかわらず何度も何度も。思い、念じ、願った。
それによって疲れ切っていた彼の身体はある勘違いを引き起こした。意識を向けられたスキルを行使するのだと。
しかし結果は行使されない。彼の願望は身体の限界により遮られてしまっているのだから。
それでも、身体は勘違いしたままである。
そして彼は最後の最後。意識を手放す直前にあるスキルを見た。そのスキルについて思考したのだから意識を向けたと言っていい。
だからだろう。勘違いした身体はそのスキルをも行使しようと働いた。
だが、彼の肉体は限界だった。体外に何かを作り出したり、放出したりするスキルは使えなかった。擬骨生成や影縫いなどがそれにあたる。
しかし、身体の内で完結するのならば体外に何かをする放出するよりも消耗が少なく、彼にはそれくらいならば行使する余力は残っていた。叡智が発動したのはそれが理由だ。それでも身体が動かないのだから結局デイルの復活を止めることは叶わないのだが。
彼が最後に意識を向けたスキルは体外に何かを行うスキルではない。だからこそ、発動することを可能とした。
そして、彼が最後に行使したスキル。自分の意志ではなく、偶然にも発動したスキル。それは。
《暴走》だった。




