お前を討つ
明日でストック切れます。
●視点:三人称●
盛大な爆発。一つ一つの衝撃は微細なれど、爆弾を幾十、幾百と集められれば話は別。それらが一斉に起爆したとなればその破壊力は計り知れない。死の洞窟三十層のボス部屋は学校の体育館ほどしか面積を持たず、核を思わせるその強大な衝撃を抑えきることは出来ない。そうなると必然に衝撃、つまり爆風はスケルトンが破壊した天井へと逃げる。
先程スケルトンが起こした爆発でもダンジョンはほんの少し揺れるだけで済んでいた。ボス部屋がその衝撃をすべて受け入れることが出来たからだ。だが今回は規格がまるで違う。先ほども言った通り格を思わせる爆撃だ。そこから発生するのは大規模の突風。いや暴風。まるでハリケーンのど真ん中で吹き荒れているようなその風は逃げ場を探し、上へ飛ぶ。
魔物がぶつかる程度で抉れてしまうようなこの洞窟の強度が暴風に耐えきれるはずもなく、天井の岩を徐々に徐々にと侵食し、大岩を掻っ攫う。
だが風は意図して大岩を運んで行ったわけではない。偶然逃げ道を阻むから削り取り持って行っただけだ。なら風が逃げきれたら?暴風がこの空間から完全に逃げきれたら?持って行った岩などもう不要。重力に逆らう様に上へ上へと昇った岩は重力に従い地面に下る。落石だ。
大小多種多様な岩が地へと落ち、デイルとスケルトンが戦っていたフィールドは今や見る影もない凸凹地へと変貌を果たしていた。
そして、その場に転がるのは岩だけではない。先程までともに命を取り合った黒いローブを羽織ったスケルトンもまた地に伏していたのだ。
「……これでは生きている筈もないですね」
爆発、暴風に続き落石を起こした張本人はこれらを軽々と凌いだが、そこに喜びはない。あるのはただ悲しみだけだった。
「欲張りすぎ……でしたかね」
彼、デイルは対等を求め、スケルトンと闘争し、敗北目前に追い詰められ、未練があると死を拒み、そしてスケルトンに更なる興奮を期待した。
しかし結果はどうだろうか。求めすぎたために本来得れた満足感を失ってしまった。吸血鬼の血は切り札であるがデイル自身の直接的な力ではない。それがあるから全力という訳じゃなく、それがあるから全力以上を出せるという代物だ。なくてもデイルは全力で戦えた。それで負けた。十分な筈だった。
それでも先を求めたのはデイル自身で、満足感を失ったのもデイル自身。自業自得だ。だからデイルはスケルトンを責めはしない。自身の希望を押し付けただけだから。それに応えてくれると望んでしまったからだ。だから……しかしそれでも。死に直面した時の満足感をまた味わいたかったと思ってしまう。
「私が生きている間に再びこの感覚が降りてくることはあるのでしょうか……ん!?」
憂い、羨望に耽るデイルは何かを察知する。何かはわからない。しかし、ここから退いた方が良いという直感だけが叫んでいた。そして周囲の風が不自然に揺れる。
何かが来る!!
デイルは地を蹴りその場を大きく後退する。が、脇腹に突如斬撃が訪れる。何か直接触れた感覚は無かった。しかし衝撃それだけで脇腹に鮮血を垂らさせる一撃。
だがデイルにはその痛みに覚えがあった。自身の腕を切り落とし、腹を引き裂いた鋭利な一撃。それしかない。それ以外考えられない。
肉体強度は今まで以上。今までの一撃では傷一つ与える威力を携えていなかっただろう。しかし、事実ダメージを与えている。
「クフフ、クハハ、フハハハハハ!!まさか、まさかまだ楽しませてくれるとは!!」
先程の感情全て取っ払って訪れる強大な歓喜。心の奥底で静かに願っていた望みの展開。望みを叶える力を携え再び現れたスケルトン。
彼の興奮は今や留まるところを知らない。ありとあらゆる喜びの感情が彼の胸のうちで渦巻いている。
あぁなんと喜ばしい事かと感激を隠そうとしないデイル。奇抜な恰好など気にしない。ただ思うのは。
「さぁ、また味合わせてくれ。あの感覚を!!」
デイルは声を張りながら告げた。
黒いローブの上から女性用のお洒落な白いワンピースを身に着けた不格好なスケルトンに。
●視点:主人公●
危なかった。なんとか爆発の前に装化纏を使うことが出来た。
そう俺は安堵する。ステータスを一割上昇させるお洒落なワンピース(仮)が思いのほか身に着けにくかった。簡単に着れるもんかと思っていたがかなり手間取った。だから着るのを中断してまず装化纏を使い、爆破に耐え、カモフラージュのために煙像強促で死体の様な俺の分身を複製しワンピースを身に着けることに時間を割いた。今までは流石に女性用の服を着るのはな、と思っていたが今となればそうも言ってられない。やるならば最善を期すべきだ。結局着るなら最初っから着ればよかったと後悔してるけどね。
で、幾多もの腕通しに首を通すミスを超えて着用完了。そして一歩踏み出し恐るべき速さでデイルの懐に潜り込みドラゴンスレイヤーで横薙ぎ一発を喰らわせたってわけだ。避けられたがな。しかし、風圧だけでこれだけ入れられたんだから御の字だろう。
このままなら行けそうに見えるだろ?そうでもないんだこれが。叡智が混沌と装化纏の同時行使は危険ていってただろ?実際経験してみると身に染みてわかった。
装化纏を発動したと同時に俺の身にまとう力の塊のようなものは息をひそめた。感覚的にこれは恐らく混沌で、装化纏の急激なステータス上昇効果が表れたが俺、つまりモーダーの器ではステータス上昇は約一万しか耐えられないため無意識のうちに抑えたのだろう。このおかげで混沌の制御感覚を覚えられ、無意識に抑えられている混沌を意識的に動かすこともできる。いままで勝手に能力上昇するピーキーな能力であったが装化纏発動により奇しくも完璧に制御できるようになったようだ。
これだけ見るとデメリットと言うよりメリットに見えるかもしれないな。
確かに混沌を使わなければ普通の装化纏。混沌も制御出来て全く危険じゃない。だが、混沌を使わなければデイルにダメージを与えることが出来ないのだ。叡智もこれをわかっていたのだろう。装化纏、一割増しワンピース、エンペラーシリーズ、ドラゴンスレイヤー加えて加速ポーションを全て合わせてデイルに勝るのは俊敏ただ一つ。他の値は全て千以上下回る。幾ら頑張ったところで殆どダメージが入らないんだ。
そこでさっきは混沌を駆使して脇腹を攻撃してみたがダメージを与えられた。避けられさえしなければ胴体を余裕で切り離すことすらできただろう。そんな一撃だったが、打つ直前、詳しく言えば混沌を発動した直後、全身が軋んだ。四肢すべてが解放されたいと嘆き、身体全体を隅々まで破壊するような痛みが暴れまわった。激痛の余韻でさえ全身に針を刺されているような感覚だ。
だがこれをしないとデイルにはかなわない。わかりきっていることだ。しかし長くは使えないだろう。
『本来、装化纏の使用時間は十分ですが、全力を発揮する回数は恐らく残り二回が限界でしょう。二回行使した瞬間使用時間が切れるよりも先に装化纏が解除されるでしょう』
だそうだ。最初の一発で決められれば良かったんだがな。
チャンスは二回。時間も限られている。短期決戦だ。
俺は静かにドラゴンスレイヤーの剣先をデイルの首元に向ける。
スキルも、小細工も何もない。
ステータスだけで。
全身全霊で。
命を懸けて。
デイル、お前を……討つ!!!
参考までにステータス記入しておきます。
主人公は(装化纏《元値10倍》+エンペラーシリーズの衣服+ドラゴンスレイヤー+加速ポーション)+これら一割増《白いワンピース》のステータスです。
デイルは覚醒後のステータスです。
主人公 デイル
攻撃14421 15333
防御11792 16502
俊敏15301 12458
魔攻9680 18093
魔防9867 17098




