叡智に従おう
気づいたら総合評価1300行ってました!皆さんありがとうございます
「クッ…!!ハァハァ……」
大きく抉られた腹を残った片腕で抑えながらデイルは肩で息をする。常人なら恐ろしいと畏怖の念でも抱くだろう。しかし、デイルは違う。こんな状況でさえ笑みを浮かべている。まるでやっと勝負になりそうだと言わんばかりに。さっきまで失望の念があったとは到底思えない満面の笑みでこちらを見ていた。
その奴が抱く戦闘への羨望に恐怖を覚える。鳥肌があれば全箇所一斉に逆立っていたであろう。
だが、いくらデイルが笑っていたって状況というのはそう簡単に変わらない。さっきよりは警戒度合が高まるだろうが、それでも今の攻防を見る限り叡智に軍配が上がる。ダメージだって1300程出ている。しかも、デイルは動けば動くほど左肩と腹から出血がひどくなる。裏面傷害の状態異常だって毒だ。回復スキルのないデイルの死は着実に迫っている。
しかも、今の攻防に用いた時間は三十秒にも満たない。もしかしたらこのまま叡智が倒しきってしまうのではないかと思えるほどだ。
しかし何故だろうか。デイルの顔を見ているとその勝利が不安に思えてくる。
いや、そんなことは無い。俺と叡智なら勝てるはずだ。叡智に頼りきりであるが……。
「クフフ……流石に今のは危なかった。動きが急に良くなった。私はあなたを過小評価していたようですね」
いやぁ、叡智のお陰なんです。
「しかし、この感覚。毒、ですかね?煩わしいですね。混合者」
そう告げると、所々紫色に変色し蝕まれていたデイルの身体から色が抜け落ち、元の赤黒い悪魔らしい色合いに戻っていった。
混合者。たしか混沌状態から得たユニークスキル。自身に付着したものを自分のものにするということは毒がデイルのスキルに追加されたってことか?
ステータスを覗き見るとスキル欄に《毒の支配者》が追加されていた。
『毒の支配者:毒の力を自分の物とし、毒による状態異常を受けなくなる。また、毒を自ら生成する力を得る。』
効果を知ろうとした瞬間に対応してくれる叡智ありがたいっす。
「クフフ、では仕切り直しと行きましょう。羽根弾!!」
再び同じような一斉放射の弾丸が襲い来るが、また叡智の予測から回避すれば問題なんてない。そう走りこもうとしたその時。
『ッ!!退避してください!!!』
思考が共有されているというのにアナウンスをする叡智の焦り様に少々疑問を抱いたが、思考を読み取るとその焦り様の意味も伝わった。だが、気づくのが少しばかり遅かったせいで俺は羽根弾をちょっとばかし掠ってしまった。
右に避けた俺が掠ったのは左腕の端だけ。もろに当たった訳でもなかった。なのにおれの左腕は見当たらなかった。
そして後から来る激痛。腕を両端からペッタンコになるまでプレスされているかのような痛みが俺を襲う。
少しすると痛みはすっかりなくなった。スケルトンの性能上、痛覚が遮断されたのだろう。
何故こんなことになったかは途中で叡智の思考を読み取ったからわかった。これは……毒だ。
「クフフ、お返しと言っては何ですけど、あなたの腕、奪わせてもらいましたよ。あなたに貰ったこの《毒の支配者》で」
恐らく溶かす系の毒を羽根弾にのせたのだろう。羽根弾が溶けなかったのはそれを中和する毒でも塗っていたのかも。叡智が退避といったのはたとえその羽根弾を避けたとしても塗られた毒が飛沫として飛ぶと予想したのだろう。事実、羽根弾の通った道は地面が溶かされ、小さな凸凹道となっていた。
まさか毒をこんな使い方してくるなんて。これで羽根弾は驚異な武器となってしまった。
だがしかし、左腕に関しては問題ない。擬骨生成で修復!!
「おや、回復スキルを持っていたのですね。羨ましい限りですねぇ。では、回復したところで次の攻撃と行きましょうか」
次の攻撃モーションを引き起こすため動き出すデイル。
だが、ターンを二度も渡しはしない!
叡智の思考を読み取り、空庫から必中の剛弓を取り出し、両刃の矢も一緒に取り出す。他にも何個かアイテムを取り出し身に着ける。そして弓を引き、放った。
「クフフ、そんな鈍い攻撃、当たりませんよ」
それに対してデイルは容易に避ける。当然だ。デイルにしてみれば弓から放たれる矢なんて止まっているも同然だ。だが、避けることなど叶わない。なぜならこの矢は必中だからだ。
矢は方向転換し、避けたデイルの抉れた腹に突き刺さる。本来なら威力が足りず、デイルの皮膚なんて貫けないだろうが、すでに傷ついている傷口ならこんな矢でも通る。
「ぐぁぁぁ!!」
傷口を抉られ、叫びをあげる。デイルは矢を引き抜き、そこらに投げ捨てる。だが、それだけで終わらせない。今度は必中の剛弓に矢ではない自爆を付与した俺の骨を二つ引っ掛け、放つ。狙いはデイルの両翼。次の手を打つためにはあの翼は邪魔でしかない。
再び放たれる弓からの攻撃に警戒したデイル。今度は羽根弾を飛ばし、俺の骨を迎撃しようと試みたようだが、骨は意思を持っているかのように華麗にかわし、狙い通りデイルの両翼に着弾する。必中の性能はかなりいいようだ。
骨が着弾したと同時に俺は起爆の合図を送る。そして起こる爆発に、舞い上がる砂塵。辺りがすぐに晴れ渡る。予想通り、デイルの翼はボロボロとなっていた。爆発を直に受けたんだ、当然だろう。なのにデイルが無事なのを見るとやはり火力が足りないのだろう。だが、もうすぐ事前の準備が整う。デイルの翼は多少動かせるだろうが、あの消耗具合だ。そう大きくは動かせないだろう。
今度は必中の剛弓に矢ではない丸い球を引っ掛け、放った。
「何度も何度も、私が同じ手を喰らうと思わないことです!!《有翼兵器》羽根砲!!!」
さっきまでの単発でバラけていた羽根弾と打って変わり、羽根一本一本の密度を増やし、一方向に玉の避ける隙間のない羽根砲をデイルは放った。
流石の必中と言えど、その成果を発揮することなく玉は儚く砕け散っていったが、この弾は攻撃を目的としてはいない。
球が砕けると白い煙を辺り一帯に吐き出した。そう、これはデイルの視界を塞ぐための煙幕球だ。翼があまり動かせない今、この煙を掃くことは出来ない。この内に俺は視認の瞳の力で迷うことなく煙幕の中を走り回り、各種アイテムを其処ら中に設置し、叡智の思い描いたフィールドを作り出した。途中何度かデイルが襲撃してきたが……。
まあ、問題ない。さて、準備フェーズは終わり。ここから俺のターン開始だ。
戦闘描写苦手すぎてまるでターン制のゲームに感じてしまう……。




