対人間
寝てました
お世辞にも友好的には見えない俺の行動がお気に召さなかったようで、お相手さんの目は真剣そのものとなり、鋭い眼光で此方を睨みながら攻撃を繰り出してきた。まぁ、仕方ない。俺だってこんなことされたら敵としか思えない。
前衛に立ったルークの剣による攻撃は大振りとはとても言えないが、その剣速は速く、膂力よりも重力の乗った剣擊が途中に何拍か間を空けながら迫り来る。
傷を深めないための配慮だろうが無理しているのかちょくちょく硬直していた。なんとか見切り避けながら脱出を試みる。が、しかし。
「ハァ……ハァ……う、ウォーターランス!」
「ホーリーショットッ!!」
場所を移動しようとする所で退路から水の槍と光の弾、二つの魔法が幾度と無く放たれる。放ったのはミユとレイラのようだ。
何があるかもわからない攻撃を直撃する訳にも行かず、直前で後退しルークが剣を振る間合いにまた侵入してしまう。
さてどうするか。相手のステータスが見えない以上ヘタに攻撃を喰らうわけにもいかない。装化纏を使えば楽勝で切り抜けられるだろうが後々に発生するデメリットの事を考えると少々躊躇うところがある。
『今相対している剣士の剣を奪う事を推奨します。』
……確かに相手の剣には傷のせいで殆ど力が込められていない。それを奪えば無力も同然。しかも俺自身武器が手には入ればかなり有利になれる。叡智ナイス!!
俺は逃げから行動を切り替え、武器奪取へと移行した。
またもルークから素早い剣擊が繰り出されるが紙一重で避け、暫くすると一拍が訪れる。そこで発生するルークの隙を無くすためミユとレイラから水と光の魔法が飛んでくるのだが、咄嗟にスキル《立体機動》を盾にすることを思い付き、実行した。
魔法は縦に展開された足場に阻まれ、両方衝撃間もなくしてその場で消失した。
立体起動にこんな使い道があったなんて。やってみるもんだな。ぶっつけ本番は控えたいけども。
「オッラァァ!!」
そんなことを思いながら止まった剣先の根本を掴みにかかろうとすると威勢と共にルークの背後で待ち構えていたであろうアムスが現れ、その手に持つ身の丈に合わない小回りの効きそうな小さな盾を器用に扱い、伸ばす手を受け流す。
そこを一拍終えたルークが剣を振るう。それに対して俺は地面を一蹴りし、地に窪みを作りながらその場を後退し回避する。その瞬間、何処からともなくロッドが背後に現れ、一本の短剣が俺の背中に一裂きを加える。
破壊不能によりローブが裂けることは無かったが、俺の身体自体には削られた跡が残る。滅茶痛い……。お相手さん、傷を負ってると思えねぇ連携を取ってきやがる。
ボス部屋スケルトン共とは全く比になら無い程に精錬された動き。間髪いれずに襲い来る斬擊と魔法によりダメージが徐々に蓄積されていった。
半端な攻撃はアムスにいなされる。だからといって魔法は過剰であるし、スキルだって傷を負っている以上その限りではなく一度の反撃で死に到るかもしれない。しかし、このままでは流石に俺がヤバい。
ならいっそ殺すべきか?……いやいや、身が魔物だからといって心も魔物になる気は毛頭ない。殺しを実行できるからといって気安く殺るものでもないし殺さずにすめばそれが一番だ。
ならばどうするべきか……。
頭の中をフル回転させ必死に策を模索していると突然、ミユが気を失ったように倒れ付してしまった。
「おいミユ!!やっぱり無茶するからだ!」
それを見た物静かそうなルークが怒鳴るように声を張り上げた。速度重視であった剣撃は見るからにスピードを落とし、反比例して振り回される剣の重さが増した。早々にけりをつけようという魂胆なのだろうが速度を落としたその攻撃は避けるに容易く、ミユとレイラによる左右の退路妨害も崩れたためルークの攻撃範囲から脱け出す。
そこで再び背後からロッドの攻撃が迫りくるが今回はロッドのことを気にする余裕があり、容易に避けると遠心力の勢いを利用してロッドに回し蹴り加え、ルークを巻き込ませながらミユとレイラの位置まで吹き飛ばす。アムスはそれを受け止めようと動き結果的に三人とも俺から離れることとなった。アムスも離れてくれたのはうれしい誤算だ。
ここで俺はスキル《煙象強促》を使い残像をその場に残す。お相手がその残像に構っているうちに洞窟から脱け出し、多少のダメージを与えてしまったものの人間対俺の戦いはさほど犠牲を出さずに幕を閉じた。
続きは本日の夜。後2本




