やらかした
久し振りにこの作品書きましたから主人公の口調が微妙に違うかもしれません。
さて、遅くなったけどまずは恒例のスキルチェックから入りますかね。
ため息を一つ吐いた俺は気持ちを切り替え、強くなった代わりに扱いの難しくなっていそうなスキルを今後にいかそうと手足を働かせる。
取りあえずは叡智の説明したスキルの順に試していくつもりだ。
まず《視認の瞳》。あらゆるものを視認するというこのスキルは夜目と結合しただけあってどうやらパッシブスキルのようだ。視界はかなりクリアで、景色の色が鮮明に彩られている。
夜目の時までは若干色が落ちていた。例えるなら絵の具と水の割合を間違え、水の配分が多くなってしまった状態でキャンパスに色を塗ってしまった時のような感じだった。
これはかなり良い。だがこう……鑑定もできたらなぁ。
そう思った途端、景色が一変した。
目に映るのは浮かび並ぶ無数のウィンドウ。岩、石、壁、砂、骨、肥料、ミミズ、蜘蛛、部屋等という目の前に広がるあらゆる情報が頭の中に流れ込む。
流れ込むのは情報だけではない。強烈な頭痛。頭をカチ割るような異常な激痛が脳内に迸る。世界がまわるようだ。
声にならない叫びを必死にあげる。声が出せないという事実を忘れるほどにその痛みは想像を絶するものだった。
俺は直ぐに目を閉じる。この異常現象は恐らく視認の瞳によるもの、瞳を閉じれば解放される筈。
だが、うまくはいかなかった。
俺は確かに目を閉じた。だが、それは俺の気分的な問題。瞼などないこの体には瞳を閉じる術などありはしないのだ。視界が暗くなる筈もなく、情報は絶え間なく流れ込む。今思えば例え肉体があったところで瞼に存在する細胞や脂質などの肉体的物質を読み込んでしまい、結果は変わらないでいただろう。新しい情報が入ってきてしまうという観点でみれば、此方の方が危険かもしれない。
なら、どうすればいいだろうか。頭が割れそうで考えも思い付かない。どうしよもない。このままでは壊れて廃人になってしまいそうだ。
『…………………………さぃ……』
あぁ、自分のスキルで精神が壊れるなんて思っても見なかったな。
『…………申し……ださぃ……』
扱いが難しそうだと思ったがこれほどとは……。
『……除と……してください……』
……ん?何か聞こえてくるな……なんだ?
『解除と申してください!!』
解除と申してください?なんなんだ?
と、その時、脳内に流れる無数の情報は一切を絶たれた。もう何も流れ込んでこない。元のクリアで綺麗な……とは言い難い薄汚れた洞窟の世界が広がっている。
どうやら、終わったようだ。頭痛も余韻に浸り、未だズキズキと痛みを与えるがさっきよりは大分マシだ。
しかし、脳内処理が過剰に起きたことによるものだろうか、気が遠くなりそうだ。少し脳を休めないといけないな。骨なのにな。
そう言えば、さっきの声……叡智だった……よな。
……ありがとう。
俺はその言葉を告げ、意識を深い闇へと沈めていった。
⚫⚫⚫
目が覚めた。景色は変わらず洞窟の中。時間があまり経過していないのだろうかさっきと同じように今も魔物の気配が全く感じられない。
最悪の事態。視認の瞳による気絶後に襲われるという事を避けられてよかった。
だが、視認の瞳の問題は解決していない。鑑定は物を見ることを意識しなければ発動はしないようだが、発動したら最後、相手の事を分析している暇さえなさそうだ。
『《視認の瞳》保持スキル、鑑定能力は意識を一点に集中させ、焦点を可能な限り狭めれば確認したい物だけを鑑定することができます。』
ん?それは本当か?試してみる価値はあるな。もしもの場合はまた解除と念じれば良いだけだし。何か調べるものは……。
そこらの壁だと一面に同じ光景が広がっているせいで一点に意識を集中させるなど明らかに難しい。なら、俺の骨でも調べてみるか。
俺は漆黒に包まれた神経など一切通っていなそうな腕骨を目の前にかざす。
一点集中っ!!
そして、視認の瞳で鑑定する。
背後に土や小石などの細かいウィンドウが浮かび上がるが、意識しようとしていないからかボヤけている。余計な情報を頭にいれようとしていないからか頭も痛くない。
よしっ!成功だ!
『亜種 モーダーの腕骨
スケルトンから派生進化したと思われるモーダーの腕骨。その骨は通常白であるばすなのに亜種だからか黒く濁っている。』
……俺って亜種だったのか。あれ?でも最初にステータスを確認したときはそんな表示が無かったような?
『その時既にステータス異常が発生していたためです。』
そうなのか。まあ、いいや。骨が黒いって変だとは思ってたけど異常だったからなのね。異世界だからこれも普通かもとか思ってたわ。
じゃ、視認の瞳は置いといて次はさっきから発動している《気の支配》だな。恐らく、これがあるお陰で周りに魔物がいないという事実を的確に理解できているんだろう。
かなりの有能スキル。じゃ、備わってる能力を使ってみるか。
まずは隠密能力。
俺はスキルに身を委ね、肩の力を抜き、自身が身に待とう気を出来る限りを体内へと納める。そして大気を感じる。肉体を空間と同化させ、気を周りに溶け込ませる。
これ、かなり神経使うな。ずっと保っていれそうにない。精々一分。いや、それ以下であろう。
そこで俺は隠密を解除し、元の状態へと戻る。
やっぱりこっちの方が気が楽だ。平常時が一番だな。
さて、次は相手の気を解放させて位置を探る察知能力なんだが、感覚的に周りに魔物がいないからなぁ。自分宛に使うか。
加減もわからんし、取りあえずは体内の気を半分くらい放出する感じで。
すると、大気をが揺れた。洞窟も揺れ、壁から小石がゴロゴロと崩れ落ちてくる。洞窟内で大声をあげたような感じだ。かなり危ない。
そして、俺は理解する。これはまずい。やらかしたと。
直ぐ様気配を引っ込めて揺れを沈めた。
まさか半分ぐらい解放するだけでこれ程とは。加減を間違えてたら洞窟が崩壊して俺が死んでいた。危ない危ない。
まあ、揺れるだけで被害が収まっただけよしとしよう。
俺は次のスキル確認に移ろうとする。
だが、忘れてはいけない。俺が使ったスキルは本来、敵に使い、位置を把握するための気配察知の能力。それを自分に使ったらどうなるか。大地を揺らすまでの気配が洞窟内に行き渡っていると考えたらどうなるか。もう想像に堅くないだろう。
ここで俺は気づく。事の重大性に。
気配を把握出来るからこそ現状が理解できる。
大量の魔物が、この場、俺が気配を解放した地点を中心として集まってこようとしていることにーー。
面白いと感じたらブックマーク又は評価をよろしくお願いします(*-ω人)




