02-1.レンドル砂漠
太陽が、その熱線を容赦なく浴びせる。
灼熱の砂漠は見渡す限りどこまでも続いていた。
「もう一回だけ言ってもいい?」
直射日光を防ぐため、全身を外套でくるみ、滝のような汗を流すテレジアがそう聞いた。
同じく大量の汗をかいているヒグドナは、視線も向けず返した。
「やめとけ」
しかし、テレジアは胸いっぱいに熱々の空気を吸い込んで叫んだ。
「暑いっ!!」
「おい」
口に出すと余計に体力を減らすことになる。
テレジアもわかっていたが、言わずにはいられなかった。
遮蔽物のない砂漠は、とにかく風が強く、時折砂嵐も発生している。
荒涼たる砂の海を、テレジアとヒグドナのふたりは、延々とさまよっていた。
テレジアも騎士として鍛えていたとはいえ、炎天下の中で丸三日歩き続けることには慣れていなかった。
共に歩く緑の巨体を持つオークのヒグドナは、テレジアほど暑さに堪えている様子はなく、むしろ当たり前とでもいうように、ただ前だけを見て歩みを進めていた。
黙々と歩くことが最善の方法なのだろう。
「ねえ、草原から砂漠に繋がってるのっておかしくない? あの緑はどこにいったの?」
「大地はどこも地続きだ。喋るな、体力が奪われるぞ」
「先に精神力が奪われちゃうよ! ねえ、なんか話そう? あとどれくらいかかるの?」
「あと少しだ……」
ヒグドナのあと少しという返答を、昨日も聞いている。
テレジアはずっと思っていたが、余計に不安になるため、形にしたくなかったことを、口にした。
「……もしかして、迷ってる?」
ヒグドナは少し間を置いて、答えた。
「砂漠の様子が昔と違う。ここまで大規模な変動が起こることは考えられない」
道順に間違いはなく、本当ならもうすぐ町が見えてくるはずなのだ、と彼は言う。
しかし、町も、道も、オアシスもない。
オークであるヒグドナは、方向感覚に長けているため、多少の景色の違いには惑わされない。
しかし、全くすっかり光景が変わっており、まるで初めて足を踏み入れたような場所となれば、話は別である。
テレジアは、自分で聞いたものの、このままでは気が滅入ると思い、出来るだけ明るい口調で、ヒグドナに言った。
「ねね、今向かってるサマクってどういう町なの?」
「……サマクは、この広大なレンドル砂漠にある三つの町のうちのひとつだ。旅人が訪れるための施設が充実している。砂漠を超えるには、ここで泊まって水や食糧を買い足す必要がある」
「町へ寄らずに砂漠を抜ける方法は?」
「おれは問題ないが、人間のお前には無理だ。飲み水もあと一日分あるかどうかだろう。このまま砂漠を抜けようと思えば五日はかかる」
「うへぇ……」
落ち込むテレジアに、ヒグドナは続けた。
「サマクは、砂時計が有名なところだ」
「砂時計って、あの、ひっくり返すやつ?」
「ああ。ここの砂は粒子が細かく、光を反射して満天の夜空のように光ることから、星の砂とも呼ばれている」
「素敵だね。星の砂かぁ……」
今はまだ足元の砂を屈んで触る気にならないが、町へ着けばそれくらいの気持ちの余裕は生まれるだろう。
その後、ふたりは黙々と歩き、太陽が落ちて砂漠に冷たい夜がやってきたころ、遠くに町の明かりを見つけた。
「やっと、やっと見えたよ! あれでしょ? サマク!」
「待て。まだかなり遠いぞ。堅実に歩け」
はしゃぐテレジアに、ヒグドナはそう言った。