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01-5.再会

ヒグドナがテレジアをアルフレド皇国の近辺まで送り届けて、三日が経った。

彼はいつもと変わらず、獲物を探して森をうろついていた。

ガイゴラの姿はあれから見ていなかった。


不意にヒグドナの正面の茂みがざわつく。

ヒグドナは弓を構えながら、じりじりと距離をとった。

すると、茂みから二本の腕が飛び出した。


「ま、待って! 私、私です! テレジア!」


草木の間から、両手を上げたテレジアが焦って飛び出した。

その姿を見て、ヒグドナは弓を降ろしてため息をついた。


「……何してるんだ?」

「いや、あの、さ。ちょっと色々あって……」


説明が難しく、何から話せばいいのか分からずしどろもどろになるテレジアを見て、ヒグドナはまた大きくため息をついた。


「とうとう皇国も森を攻めることに決めたのか?」


まるで心の中を見抜いたように、ヒグドナは言った。


「……えっ? なんで知ってるの?」

「お前が知ってるかしらんが、たびたびこういうことはある。皇国が出来る前、あそこにはグレタ共和国があった。森を焼き払おうとしたせいで、グレタ共和国はなくなった」

「いったい何があったの?」

「森の怒りを買ったんだ。ここは普通の森じゃない。だから、オークは安全に何百年も暮らしてこられたんだ。それよりも、テレジア。お前がまたここに来た理由を知りたいんだが」


ヒグドナは険しい顔で言った。

怒っているのだろうか、とテレジアは慌てて説明した。


「ああ、えっと、ヒグドナの言う通り、皇国は森に攻め入る気だよ。攻撃目標はオークだって言ってたから、侵略目的だと思う。森ごと潰すつもりだったみたいで、たくさんの兵器が用意してあった」

「お前はなんで加担しなかったんだ?」

「……私、死んだことにされてたの。必要なくなったから殺すつもりだったみたい。腹立つからさ、武器庫、燃やしてきちゃった」


それを聞いて、ヒグドナは声を殺すようにして笑った。

テレジアがそこまでやる人間とは思わなかったのだろう。


「変わってるな、お前。まあ、心配はいらない。森は森自身が守っている。オークたちにも一応伝えておくが、大事にはならんだろう。もっとも人間の方は残念だったと言うほかないが」

「何が起きるの?」


「ガイゴラがマシだったと思えるようなことが起きる。それも、逃げられないほどの、大災害みたいなものがな。それが起きるまでには逃げておけ。森が人間そのものを敵視し始めると、お前も無事じゃすまない。森をまっすぐ抜けて、皇国の領土から出てしまうといい。そのあと生きていけるかはお前次第だが、ここで死ぬよりはずっと良いだろう」

「森を、ひとりで……」


テレジアは小さく呟いた。

ついこの間襲われたばかりで、正直に言うと、森が怖かった。


「……あのさ、ヒグドナ。良かったらなんだけど、一緒に行かない?」


無茶な提案であることは承知のうえである。

付き合っても、ヒグドナに利益は全く無い。


「不安か?」

「少しだけ」


少し間を置いて、ヒグドナは語りだした。


「……お前の曾祖母、ロジーナに出会ったとき、おれは子供だった。お前と同じように、命の危機にあってな。助けてもらった。どうしても恩返しがしたくて、旅についていったが、結局何も出来なかった。ロジーナは賢く、強くてな。おれには出る幕がなかった。おれはずっとそれが心残りだった。お前の助けをすることで、気が晴れるということもあるだろう」


「じゃあ……」

「おれは元々流れのオークだ。急に出ていくことになっても、集落の奴らは不思議に思うまい。だが、きっちり話はしてこないとな。テレジアはここでおれが戻るまで待っていろ。なに、おれには荷物もない。半日程度の話だ。出来るか?」

「……うん! ありがとう、私の頼みを聞いてくれて!」

「おれがおれのためにやるだけだ。そこまで感謝することない」


ヒグドナはマチェットで藪を払い、手早くテレジアが座れるだけの空間を空けた。


「旅の経験は?」

「行軍ならあるけど、旅はないなぁ」

「充分だ。野宿は出来るな? ここに戻って来るから、あまり動くなよ」


テレジアは、集落へ向かうヒグドナに一時の別れを告げ、座る場所に大きな葉を敷いた。

火を起こして座ると、なんだかここ数日の出来事が夢のように思い出される。


生活も一変して、これからどうしたものか、と考えていると、ふと、ロジーナの日記が頭に浮かんだ。

荷物の中から取り出した赤い表紙のそれはずっしりと重く、ロジーナの人生を物語っているようである。


テレジアは、深呼吸をして、その最初のページを開いた。



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