08-5.女騎士の旅はこれからも続いていくようです
数日後、聖島にガウェインが迎えに来た。
手紙を送ってからすぐに来たのだろう。
テレジアは聖島のエルフたちに別れを告げて、ガウェインの船に乗った。
すぐに岸を離れて、海原へと進み出す。
「これから、どうするんだ?」
おそらくガウェインがずっと聞きたかったことだろう。
甲板から揺れる波を眺めながら、テレジアは話を聞いていた。
「お前さえよければ、エティダルグに住居を用意してもいい。仕事だって紹介してやれる。お前向きの傭兵や用心棒の仕事だって、人手が足りないくらいにはあるぞ」
ガウェインはテレジアが心配でならない様子であった。
だから、見える範囲にいて欲しいのだろうということはわかった。
「ううん、私はまだやることがある」
「……そうか。何をやるのか聞いても?」
テレジアは話しておこうか迷ったが、言ってもいいだろうと判断した。
「聖杯を探す」
「……は?」
ガウェインは何を言ったのか理解できない、という顔をした。
それもそのはずで、テレジアも今回の一件がなければ聖杯などと関わる気はなかった。
「実はね、剣聖パーシヴァルのことが少しだけわかったの。その後を追って、見つけたはずの聖杯がどうなったのか、私がその続きをやろうと思って」
「ま、待て待て! お前が聖杯を探すならもう十年待ってろ。そのための準備を、俺は進めているんだ。何もひとりでやることないだろ?」
「分かってるよ。ガウェインがそのために弟子をとって鍛えていることも。でも、これは私が自分の納得のためにやりたいだけなの。だから、ひとりでやらせてほしい」
「でもよ、お前聖杯のことほとんど知らないだろ。経緯とか、歴史とか……」
「まあ、それは……」
テレジアの聖杯に対する知識など、微々たるものだ。
パーシヴァルから聞いたものは聖杯の機能や本質についてのことだけで、その他のことはよく知らない。
「わかった、じゃあ、二年だ。二年勉強しろ。エティダルグには大学がある。そこで聖杯の勉強をして知識をつけろ」
「……勉強かー」
「嫌ならお前はここで拘束する。そんで十年監禁だ」
冗談みたいに言っているが、表情はいたって真面目であり、彼が本気であることが伺える。
「どっちも嫌なんだけど、どうしたらいい?」
「諦めろ。聖杯を探すやつが無知でどうする。見つけたあと路肩で売りかねないだろ」
「そんなことしないよ!」
「さて、どうだか。わからないことがあれば、ルネリットに教えてもらえ。駄賃は剣の修行だ」
勝手に決まっていく話にテレジアは不満の意を示したが、ガウェインは聞く耳をもたない。
「むー!」
「むくれてもダメだ。剣以外のこともやれ」
ガウェインがそう言って笑う。
エンゲイトの港町が、遙か向こうに見え始めていた。