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01-2.オークのヒグドナ

アルフレド皇国の中央部から離れた暗い森の奥深くに、オークたちは村を作り、狩りをして暮らしていた。

彼らは人型ではあったものの、肌の色も体のつくりも人間とは大きく違っていた。


身長は二メートルほどで、何百年も経った大木のようなどっしりとした肉体を持っている。

肌の色は苔のような深緑だ。

さらに、大きな牙が口から飛び出しており、盛り上がった顔の筋肉の合間から鋭い眼光が光る。


そんなオークたちの村で暮らしている、ひと際大きな体を持つ老オークのヒグドナは、この村の生まれではないが、皆から一目置かれる凄腕の狩人であった。


背中には強靭な繊維を持つ植物『バンドゥ・ラマ』のツルで作った弓を携え、手にはよく研がれた刃渡り五十センチの巨大なマチェットナイフを握っている。

これは、ヒグドナが約九十年間も使い込んでいる装備であった。


森の木々たちは、陽の光を遮るようにして、空を包んでいる。

薄暗い森の中で、彼は前日に罠を仕掛けた場所を巡っていた。

この辺りのオークたちは、人間とはあまり仲が良くなく、自給自足をして暮らしているが、狩りはもっぱらヒグドナに任せきりであった。

たったひとりでも、村人全員分の動物を狩ることができる彼だからである。


前日に仕掛けた罠の数は十五。

そのうち十を確認したが、かかっていなかった。

しかし、いくつかエサを取られていたため、獲物が徘徊するルートであることは間違いないようだった。


いつものように獲物を探して歩きまわっていたが、ふと普段なら見ることのない巨大な足跡を見つける。


(この巨大な三つの爪がある足跡は……)


ヒグドナの記憶には思い当たる動物がいた。

体長三メートルの獰猛な肉食獣、ガイゴラである。

ガイゴラはトラの一種だが、筋力、体格が並の猛獣とは桁違いであり、ほとんどの生き物が太刀打ちできないと言われている。

その大きさや凶暴性から、ドラゴンとの混血種ではないかとも揶揄されているのだ。


オークの中でもガイゴラと対峙して生き残っている者は少ない。

何の準備もなく出会えば死は免れないほどの凶悪な動物である。

しかし本来ならば、もっと北の高山に住んでいるはずの生き物であり、間違っても森の中に入って来ることはないだろう。


(誰か放したのか……)


ガイゴラの特性を考えれば、意図的にこの辺りに放ってあるのだろうと思えた。

ヒグドナもすぐに村へ引き返すべきなのだが、彼にはガイゴラを野放しにしておくことはできない。

この周辺にいることは間違いないのだから、今のうちに仕留めておかなければ他の者が襲われるかもしれない。


それに、ガイゴラは好奇心旺盛で音の鳴る方へ近寄って行く習性がある。

この辺りは草木が生い茂っているが、少し先へ進めば人間が作った街道がある。

人の気配に引き寄せられ、森の外へ出ていってしまっては、大変なことになるだろう。


しかし、獲物を追うためとはいえ、人間に会いたくはない。

その両方の気持ちを天秤にかけた結果、街道までの間に痕跡が見つからなければ引き返すことに決めて、ヒグドナは注意深く進みだした。


そして少し進むと、ヒグドナは自分の予感が的中したことを確信した。

無造作に伸び切った草木が、広範囲にわたって根元からなぎ倒されているのだ。


おそらく他の獲物を襲撃したのだろう。

地面には血だまりが広がっている。

ヒグドナは屈んでその血を触った。


まだ乾燥していない。

つまり、ここで襲撃がおきて時間が経っていないということだ。


ガイゴラは、獲物を殺さずに動けなくなるまで痛めつけて、巣に持ち帰る動物である。

血の跡をたどって行けば、巣まで簡単に行くことができる。


(これは良い機会だな)


腹を空かせたガイゴラと対峙するより、食事中を襲う方が勝てる可能性が上がる。

それに、奇襲をかければ無傷で倒せるかもしれない。


村からは随分離れてしまった。

これから応援を呼びに行くよりは、痕跡が消える前に仕掛けた方がいいだろう。


血は点々と続いている。

獲物は完全に気絶しているようで、暴れた形跡がない。

もしかしたら、すでに死んでいるのかもしれない。


用心して森を進むと峡谷へ出た。

その崖の手前で血は途切れている。

遙か下方には川が流れているが、落ちると簡単には上がれない高さであるため、下へ行ったとは考えにくい。

しかし、対岸にも血のあとはなく、崖を越えて跳んだような形跡もない。


何か手がかりはないかと思い、ヒグドナは辺りを見回した。


(崖に沿って移動した様子もなし、か。どこへ逃げた?)


草木の倒れ方から、森の中へ引き返したとも考えにくい。

ヒグドナが様々な可能性に思考を巡らせていると、突如咆哮が鳴り響いた。

森の鳥たちが驚き、一斉に羽ばたく。


咆哮は崖から聞こえた。

まさか、とヒグドナは下を覗きこむ。

川へと伸びる壁に少しの出っ張りがあり、その内側が洞窟になっているようだ。


すぐにでも行きたいが、ロープを持ってきていない。

飛び降りること自体は簡単だが、上手く行っても着地したところを狙われるため危険である。


それに、そもそもの狙いであった食事中ではなくなっているだろう。

あれほどの雄叫びを上げているのだ。

何かしらの外敵が侵入したに違いない。


ヒグドナは躊躇していた。

無傷で勝てる見込みが無くなってきたのだ。

怪我をするかもしれないとなると、無理に戦う必要はないのかもしれない。

ともかく、巣の場所は分かったのだから、村に帰ってこの事を伝え、準備をして大勢で狩ることにしようと踵を返した。

その時である。


「誰か助けて!!」


帰ろうとしたヒグドナがその声を聞いて崖を飛び降りるまで一秒もかからなかった。

声の主が誰であるかは関係ない。

助けを求める声が聞こえたのだ。


崖を飛び出し、着地するまでのわずかな時間でヒグドナは弓を番えた。

発射せんとする武器は、返しがついている猛毒の矢だ。

これは狩り用のものではなく、自己防衛のため、攻撃性の高い動物を殺す時に使うものだ。


着地前のわずかな時間に標的を視認する。

ガイゴラの分厚い筋肉で覆われた背中が見えた。

そして瞬時に構えていた矢を放つ。

狙うは首の真後ろ、頸椎だ。


ガイゴラがヒグドナの着地音を聞くよりも早く、矢は到達した。

毒矢は見事に深々と刺さり、ガイゴラは鼓膜が破れるほどに、大きく悲痛な雄叫びを上げた。


振り返り、ヒグドナへ向かって一直線に突進をする。

動けるということは、頸椎を外したようだ。


しかし、ヒグドナには、経験上わかっていた。

もう奴の目に自分は映っていない。


ヒグドナが端へ避けると、空中をもがきながら、吸い込まれるように崖下へと転落して行った。

確実に落ちたようで、大きな水しぶきを確認した。

毒矢のもたらす麻痺で、そのまま溺死するだろう。


ヒグドナは、いったい誰が襲われたのか、と洞窟の奥へと目をやる。

すると、血まみれの人間が倒れていることがわかった。


鉄の鎧を着ているようだが、この程度の厚みではガイゴラの爪には歯が立たない。

短い金髪をした女性のようであった。

近くにはすでに食い散らかされた人間の骨が転がっている。


オークの誰かが声をあげたのだと思っていたヒグドナは、予想外の被害者に大変驚いたが、すぐに冷静になって駆け寄った。


「おい、しっかりしろ!」


抱きかかえるが、身体に力が入っていない。

口元へ手をかざし、呼吸を確認する。


(息はあるようだな。だが、出血がひどい。急いで手当しなければ……)


まず、人間の着ている鎧を丁寧に脱がし、腰のポーチから布きれと包帯と薬草の入った小瓶を取り出す。

オーク用の物であるため、人間には少し強力過ぎるかもしれないと思い、少量だけを絞って布につけ、人間の傷へあてがった。

その上から包帯を巻いて固定する。


この薬草には消毒効果もある。

清水が手に入らない時でも怪我に使える優れものだ。


(ひとまずは、これでいいか)


ヒグドナは火を焚いてこの洞窟で一晩過ごすことに決めた。

眠っている間に体温が下がっては、死ぬ可能性がある。

街道へ返すことも考えたが、気絶した人%E

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