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03-1.行き倒れ

やっとの思いで砂漠を抜けたテレジアたちの目の前に広がっていたのは、荒野であった。

草木はまばらにしか生えておらず、生き物の影も見えない。

砂漠とは変わらない気温で、地面の質感だけが変わったような感覚がしていた。


「砂漠の次は荒野かー……」

「急に緑が増えるってことはないからな」

「減る時は早かった気がするんだけど」

「気にしていなかっただけだろう」


そんな会話をしながら、ふたりは歩いた。

荒野には寄るところがない、とヒグドナに言われ、テレジアは黙って歩くことに決めた。

ここを抜けたら大きな街に着くと言われたら、今我慢することはそれほど苦痛でもない。


「荒野って、本当に何もないの?」

「ああ」

「そうなんだ。何か珍しいものでもあれば、見てみたかったんだけど」

「……珍しいもの、か。この辺りにしか住んでいない小型のドラゴンならいるぞ」

「ドラゴン!?」


テレジアの目が輝く。

ドラゴンなんて、本の中でしか見たことがないのだ。


「冷気を吐くドラゴンだ。名前を、グラキエースと言う」

「グラキエース……。かっこいいね!」

「空気中の水分を吸収するために、体内で空気を冷やす機能があるんだ。そのための臓器は高値がつく。まあ、そう簡単に捕獲できるものでもないがな」

「へえ、じゃあ、乱獲されたりとかは、ないってこと?」

「小型といはいえ、ドラゴンだ。乱獲できるようなやつはもっと割りのいい仕事についてるだろうさ」

「……どういうこと?」

「ドラゴンってのは捨てるところのない動物だ。鱗や骨、皮、内臓のすべてが市場に出される。だが、傷をつけずに捕まえるのが難しい。修行に十年かかると言われていてな、捕獲のための道具も高価だから、腕のあるやつは小型のドラゴンに大金かけないってことだ」


テレジアの質問に答えながらも、歩みは止めない。


「とにかく、ドラゴンのことは一度忘れて、日が暮れるまでにはある程度進んでおかないと、食料や水が心配になる。街が近いと言っても、こんな荒れた道を使うやつはいないからな」

「え? ここって普通は通らないところなの?」

「人に見つかると面倒だ」


ヒグドナは、出来るだけ人目を避けて行動する癖がついているようであった。

オークだから、というより、個人的な性格なのだろう。


「ん? あれ、何?」


ふたりが歩みを進めると、前方で倒れている人影を見つけた。

十五歳前後くらいの子供が、地面に突っ伏すようにして倒れている。

テレジアは駆け寄り、その少年の体を揺すった。


「うう……」

「生きてはいるけど、どうしたの? 怪我もしてないみたいだし……」


青年は呻くばかりで、テレジアにも倒れている原因は分からない。

そこで、ヒグドナが彼の体を見て、言った。


「この弱り方は毒、だな。それに脱水症状も起こしている」

「ヘビにでも噛まれたの?」

「分からん。何の毒か分からない以上、解毒薬も使えん。気付け薬くらいならあるが……」


ヒグドナの取り出した気付け薬は、薬草を擦り潰して固めた丸薬である。

ひどい臭いが、効力の高さを物語っているようであった。


その丸薬と水を少し飲ませると、彼は一瞬顔をしかめた。

しばらくすると、彼の目がゆっくりと開き、立てないにしても、話が通じるくらいには回復した。


「あれ、僕……」

「大丈夫? 倒れてたみたいだけど」

「あっ、そうなんですか。助けていただいてありがとうございます」


彼は抱き起されながら、お礼を言った。

まだ立たない方がいいと言われても、何か急いでいる様子で、彼は無理矢理立ち上がった。


「旅の方、ですか? 村の人間ではないみたいですし」

「何があったの?」


テレジアが聞くと、彼は笑った。


「さぁ……。疲れて眠っちゃったんですかね?」


まるで他人事のように彼はそう言う。

それは、言いたくないことを隠しているようにも感じられた。

テレジアはその返答に首をかしげたが、次の疑問をぶつける前に、彼は続けて言った。


「僕の村へ来ませんか? 何もないところですけど、旅の方が来たとなれば、みんな喜ぶと思います」

「村があるのか?」


ヒグドナが少し驚いた声で聞いた。


「ええ。もう少し離れたところですけど、この荒野にだって、人は住んでるんですよ。……ああ、申し遅れました。僕、ベルって言います」

「私はテレジア。で、こっちは、ヒグドナ。あの、ベルはどうしてこんなところにひとりで?」


「恥ずかしながら、食糧を探していたんです。村には貯蓄が少なくて、できるだけ、それぞれ自分の食い扶持は自分で探さないといけなくて」

「それで、行き倒れていたんだ。食糧、少しだったらあるよ。食べる?」


ヒグドナが残り少ない食糧を守るために止めようとしたが、テレジアはそれを制して、彼に渡そうとした。

しかし、彼は首を振って断った。


「気持ちはありがたいのですが、村の決まりで、食べられるものが決まっているのです」

「え、そうなの……」

「ああ、気を落とさないでください。さあ、村へ向かいましょう。村に帰れば少しくらい食べるものもありますから」


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