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CE   作者: リーク=セイタス
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愚者の烽

 スラム小国、又の名を亡国アルティス。

 アルティミウス王国と呼ばれ、皆に愛された。

 

 

 


 辺りを漂う殺気の副産物は場を凍りつかせる。

 概念の希薄な空間に、乾いた鉄の嘆きが響く。

 槍と鎌。

 醜悪と疑念で鍛え上げられた二つの武器(つみ)の懺悔。

 懺悔は怒りを纏い、激化する。

  

 「翡翠乃模造者(グレムリン)、何を知っておる。」


 話す隙さえ与えないと言いたげに伏兵が凶をつく。

 伏兵を凌ごうが、続けざまの鎌の襲来は面倒。

 捌ききるにも、伏兵の数がはっきりしないうちでは積極的には動けない。

 ならば、今出せる最高速度で懐に入り、鎌の動きを制御する。

 ふと、見上げたファブの顔は暗く染まり上がっている。


 「忘国乃防人(スラムアタト)の隊長さん。強くなりましたね。」

 「何の話だ、グレムリン。」

 「いえ、ただの昔話です。」


 彼、翡翠乃模造者(グレムリン)と話しているとファブの心は掻き乱される。

 ファブが慕い、師とも崇めた絶対なる英雄。

 どうして、こうもこの男と彼が重なるのか。

 いつも見透かしたような、小馬鹿にしたような

 そして、何処までも孤独な影を持つ姿。

 

 得物を交わらせればするほど感じる類似点。

 間合いの取り方、重心のバランス何よりこの独特の槍技。

 認めない。あの槍技はあの方の物。

 

 「返せ。それは、翡翠之君(グレムリン)の物だ。」  

 

 辺りの空気が音をたて、崩壊を導く。

 全身を駆け巡る痛みと、醜悪なほどな敵意。

 皮が肉との結合を穿つ。

 流れる体液は暖かい。

 今は、それを感じられるだけでも御の字だろう

  

 「失せろ翡翠乃模造者(グレムリン)!!。」


 ファブの一撃から理性が引き、本能が舵を取る。

 冷静さを失った戦士など愚の極み。

 どの一刀も何もない、空の一刀。  

 その姿には最早、憐れすら感じないほど滑稽。

 低い体勢から一撃を合図に得物を払う。

 綺麗に円を描き、鎌は宙を舞う。

 ノーガードとなった体躯を無視し、首元へと刃を添える。


 「チェックメイトです。」

 「甘いよ、翡翠乃模造者(グレムリン)。」

 

 ファブの言葉が真実へと変化する。

 空気が張り、もう聞きなれた悲鳴の予兆を示す。

 彼女の口元が緩みが、彼に悲痛をもたらす。

 傷つけ、痛しられた物達の悲痛。

 砂塵が舞い、音を支配した一角。

 その一角に、彼の姿は存在する。

 限界まで引き上がった口角に、笑みの調が綴られる。

        

 「やっと結晶化(きえた)か、翡翠乃模造者(グレムリン)。」

 

 どこで貰ったか頬に着いた鮮血を拭う。

 鮮血は糸を引き、ファブの頬を汚す。

 そんな些細なことを捨て置き、踵を返す。

 どこか名残惜しさを残し、廃人を孤独にする。

 背より吹き通る風はファブの認知を否定する。

 目の端でとらえた否定の二文字は直ぐ様具現する。  

 途切れた霞に翡翠の男が未だに立ち尽くす。

 着ていた服こそ、傷を受けているものの体躯はほぼ新品に近い。

  

 「化物かよ。」

 「翡翠之魔神(グレムリン)ですから。」

 

 地を蹴る音に気づいた頃には、翡翠の衣は眼前に体をなす。

 受け身から逃げる間もなく、得物が送り込まれる。

 気高き、何処までも愚直な一撃。

 戦士として、これまでにない手向け。

 貫かれる事実を肯定し、自らを否定する。

 思考の中、頭上より別件が降り注ぐ。

 眼前の得物のよりも速く、ファブの額へ突き刺さる。

 この出来事に両者まるで、鳩が砂糖がしを舐めたような顔で凍りつく。

 ファブの冷たい鉄分の体液が、額より流れ出す。

 

 「ファブさん、あの~ダイジョブですか。」

 「大丈夫、何の話やらさっぱりだす。」


かなり動揺している、しらばっくれてるし、だすなんてキャラじゃないし

 事実を隠蔽するため素早く頭部の異物を撤去し、その正体を知る。

 鎌鼬(グロッケン)。ファブ本人ともあの時弾かれて、何で今と心の中で口論となる。



 今からどう話を持ち直すべきなのか

 直ぐ様立ち去ったほうがいいのか判断に困る。

 もし、強引に戻した場合、ぶちこわしといて何、リスタートしとんじゃいと思われそうだろう。

 もし、立ち去った場合は、次また会ったときに気まずさがリボ払いされるだけ、どちらも地獄。

   

 「一応聞きますが、まだやりますか?」

 

 完全に気を使われた。

 こんな状況から一転して、バトルモードにできるほど心は強く出来ていない。

 ここで、今日のところはやめておこう、そう言えば一旦は落ち着く。

 助け船敵ながら感謝。


 「そうだな、今回は」

 

 言葉が紡がれるよりも速く各方より伝令が走る。

 何が起きたかは空を観るより確かだった。

 天空を支配する紅き煙。


 「愚者乃烽(ヘルファング)。」

 

 


 

 次回、荒廃の六騎

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