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CE   作者: リーク=セイタス
4/7

スラムの防人

 

2050年 4月10日

  

 沸き上がる砂塵。

 肺にまで届き、その場を象徴する大いなる嫌悪。

 人通りすらない廃街、一人の少年が立ち尽くす。

 血染めの赤髪を携えた少年。

 スラムの愚弄の全てを背負う少年。 

 

 「翡翠之模造者(グレムリン)。」

 

 背後からの声へと面を揺らす。

 邪魔な前髪の間より、金色の瞳が顔を出す。

 

 「久し振りだな、オーランド。」

 

 ファブが定義した少年は、沈黙のまま固まる。

 其所にあったのは、小鹿の蹄亭で会見割れたその人だった。

 場の空気は重いまま、一層色を濃くする。

 隙在らば、その心づもりで両者沈黙を保つ。

 

 「ファブさんでしたか、何の御用ですか。」 

 「惚けるな、翡翠之模造者(グレムリン)。」

 

 空気を変えようと投じた一石は、脆く崩れた。

 完全に戦闘モードオンのファブ。

 完全に戦闘モードオフのオーランド。

 全くもって話が好転しない。

 いつ切れるか解らない導火線を再び握りしめる。

 

 「オーランド、お前は何故その名を背負う。」


 何故かという疑問。

 当然、ここで求められるのは答であろう。

 しかし、オーランドは沈黙を貫く。

 彼には、その疑問に対する解を持っていない。

 正確には、今は持っていない。

  

 「さぁ忘れてしまいました。」

 「そうか、良く判った翡翠之模造者(グレムリン)。」

 

 ファブの一声で空気が循環する。

 だが、導火線には何時しか火が灯る。

 新たな風は追い風となり、彼へ流れ着く。

 鎌鼬(グロッケン)。彼の眼下に示し出された刃。

 間に合わない。

 咄嗟に得物にてを伸ばし、接近物を弾く。

 肩口に俄な痛みと鉄分を感じる。

 翡翠の衣が紅に侵食されていく。


 「いきなしは酷くないですか、ファブさん。」

 「模造者。」


 感覚を関知する。

 風の叫び。大気が擦れ、物質を裂く一刀。

 痛みが記憶した狂理。

 腰の黒棍を手繰り、一刀を払う。

 鎌を短く持ち直し、肉々しい足が君臨する。

 腹部へと放たれた君臨者は、彼を軽く弾く。

 壁とお見合いになる前で急ブレーキ。

 小動物のように身を震わせ、纏う砂塵を振り払う。 

 

 「流石はスラムの防人さんですね。」 

 

 

2050年4月10日 同時刻

 

 スラム小国、第六都市ヤンスク。

 軍部の中枢を担い、国連軍及びスラムの防人の溜まり場。

 市民からは嫌煙され、組織の軽蔑対象。

 国立記念日の警備などで、今は手薄。

 

 「まさか、此処まで手薄とは都合はいいが。」


 ボソボソと誰かいれば、怪しい目で視られるであろう人物。

 金の髪を雑に整え、浮く椅子にふんぞり返る男。

 ロザミオ。彼はそう呼称され、自らもそう認識している。

 勿論、真名ではない。

 彼の名はまたそれとは違う。

 人口密度の低い敷地内へ向かい、建物へと至る。

 WPCスラム支部。現在進行形の当地施設。

 独立。この国は独立したはずなのに此れはここにある。

 

 「此れからまた始まるのだ。初めるのだ。」

 

 一人、ブツブツと繰り返す。

 日常生活でもこれだったのなら、友達は多くはないだろう。

 彼の友人関係はどうでもいい。

 問題はロザミオの進む先にある物。

 中央コンソールとも言うべきこの国の心臓。

 全長は、ロザミオなど比ではない。

 鼓動とは違う波長が汲み取れる。

 

 「もうじきか、さぁどうする?。」

 「何をどうするんですか?ロザミオ。」

 

 奥手の扉にもたれ掛かる中性的容姿の人物。

 深く帽子をかぶり、実際人相など殆んど確認できない。

 ロザミオへ脚を運ぶ訳でもなく、距離を保つ。

 彼基彼女は、帽子の隙間より不適に笑う。

 

 「もういいだろう、準備を始めろ。」

 「ハイハイ、了解です。ロザミオ最高顧問様。」

 

 気だるそうに手を首に回し、歩き出す。

 静寂の支配下に、靴音のみが共鳴する。

 心臓を前に立ち尽くす二人。

 漂う波長を全身に蓄積し、手を翳す。

 

 「ケイグ_レイン_ネル_マーニ。」

 「さぁどうする?翡翠乃君(グレムリン)。」


 ロザミオの隣人の発する呪唱(コード)

 身を包み、神々しく放つ光は心臓に触れる。

 この瞬間、支配者は交代を余儀無くされた。

 

 

2050年4月10日 同時刻


 仕事熱心なのは関心だが、流石に引く。

 話も聞いてもらえず、斬られるし、蹴られるしで散々。

 相手するのも面倒になってきたので全力で逃げているが、何処までも追い掛けてくる。

 彼には何故か此がデジャブに感じている。

 もう気持ち的には、42.195㎞走った気分。

 決して、フルマラソン完走などしていない。

 それぐらいの疲労感と道程を現在進行形で実感している。


 「翡翠之模造者(グレムリン)!!。」


 先程までの地点が、酷く抉られる。

 肥大化を続ける鎌鼬(グロッケン)

 抉り取った空気を圧縮させ、追撃も怠らない。

 それは物質と交わり、破滅をもたらす。

 それに加え、驚異的身体能力。

 どうゆう理由かは、もう理解はしている。

 

 「もう終わらせるぞ。」

 

 走るファブの脚が地に着いた瞬間。

 その一呼吸で、オーランドの前へ立ちはだかる。

 

 「それが貴方の形式術(フォーム)ですか。」

 「そう、肉体強化型形式術(プロテスフォーム)リディス。」

 

 フォーム。現在最も普及する術式の総称。

 ネストを代価に結果を生み出す人の力。

 リディスは使用者の身体能力向上術の上位。

 体外ネストにより、段階強化を実現させる。

 

 「その鎌が、簡易形術式(フォトン)ですか。」

  

 簡易形術式。端的に言うと、どんな人物でもフォームの行使を可能とする物。

 冷蔵庫や電子レンジという類いの物に近い。

 あの類いの物は、使用者がその物のすべてを理解しないでも、誰であろうと同質の効力をもたらす。

 同じように、形式(フォーム)公式の理解の有無に関わらず、平等に力を授ける。

 つまり、あの鎌は戦闘特化型の冷蔵庫と言っても過言ではない。

 決して、過言ではない。多分

 

 「もう、降参したらどうだ。翡翠之模造者(グレムリン)。」

 「そうですね、肚括りますかね。」 

 

 このまま逃げても、彼女は決して見逃しはしないであろう。

 一度、刃を交われば彼女も諦めるだろう。

 何処から湧き出でるのか不明の自信を抱え、相対する。

 

 「やっとやる気になったか。グレムリン!!」


 駆ける刻は更に短縮され、目で捉えるにも苦汁が滲む。

 たが、これはただの一太刀ではない、伏兵はすぐ近くで微笑み。

 受け止めた斬撃を合図に急襲が始まる。

 鎌に足を掛け、脚力のみで間合いをあける。

 急襲は失敗に終わったが、無傷ではない。

 久しぶりに聞いた肉が裂ける音。

 汗と混ざり、不快感を増した鉄分の香り。

 どちらも遠く昔にはいつものように感じた日常。

 とても懐かしく、心落ち着く異常な日常。

 

 「強くなりましたね。スラムの隊長さん。」

 

 

 

 

 

 


 

 スラムの防人終わりました。

 今回も、セリフて終わらせましたがこれっていいのでしょうか。

 此れから物語は動き出します。

 ファブとリークの戦いも一区切り着きます。

 そして、最重要人物が登場します。

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