特異者
クライムと呼ばれた鉱物。
その発見発見により、人類は急激な進化と対価に死の自由を失う。
2050年、棺屋と呼ばれる世界平和機構、通称WPC。
その統治より独立を成した第3のクライム技術国家スラム。
しかし、独立とは名ばかりで自衛もとい商業権の自由がない。
多くの圧制の中、それでも民は英雄の示した道を信じ、慎ましくも生活している。
そんな折、スラム国内で少しずつではあるが歪みが現れだした。
彼は一人、この地で何を成すのか。
2050年4月9日
異界と歪が混ざり合ったような異常な空間。
そんな場に聳え立つ廃ビルの連山の麓より発せられる振動。
振動と共にそこには、人と形容するのを躊躇する影。
「貴様、何処の者だ。」
「ただの旅人ですよ。」
有り体な答えでひとまず場を凌ぎ、影の存在を認知する。
ビルとビルの隙間の木漏れ日が影に形を与える。
「旅人、其は其は困った野郎だな。」
与えられた形は、神の悪戯としか思えない造形だった。
暗闇を縫い付けたような漆黒のフルフェイス。
地肌が有ろう部位には、無機質な冷たい体躯。
腕に至っては、対を失い孤独に身にぶら下がる黒銃。
動いているのが痛々しい程の身を引き、彼の前へと立つ。
「誰かと思えば、貴方ですか。バズさん。」
バズ。通称、柴の忠犬(バズ=ロック)。
もちろん、これはこの者の真名ではない。
この者の所属する組織、柴の教団では信者は卿者により名を与えられる。
その中でも、バズは腕利きの銃士。階級は大尉。
残虐非道な狂人であり、人尊神否の熱心な信者。
所謂、分かりやすい敵キャラ。
無言の時が、走り抜き空間を歪ませる。
バズは何をするではなく、こちらを見据えている。
今頃になって人見知りが発動したのか、何か要らんこと言って怒ってしまったのか。
表情が確認できないという不便さを犇々と感じている。
「あの~応答求めます。ワンカット前の話続けませんか。」
ちょっと皮肉ぽく言ったのを怒っているのだろう。
そう結論付けるが、だからと言って打開策はない。
このまま気まずい空気が続くならと、その場より足を離す。
「何処へ行く旅人よ。」
空気の振動と共に、重々しい漆黒が彼の眼下を支配する。
支配者はその片腕を、斧の様に彼の頭へと振り落とす。
寸でのところで、直撃は防いだが代わりに両腕が封じられる。
重い。と言うよりも違う圧制を感じる。
下手に動くと、骨の5,6本とお別れする嵌めになりそうだ。
「危ないじゃないですか。直撃したらどうするつもりですか。」
「知るか、其よりも集中しろ。」
圧制に拍車がかかり、いよいよ肉体の悲鳴が聴こえ出す。
脳へと流れ込む、悲鳴は刻々と大きくなる。
「もう壊れるのか、つまらんな旅人よ。」
「煩いですよ。朦狂者さん。」
彼の広角があがり、バズは気付かされる自らと彼の差を
掛けられた圧制をはね除け、バズの腹へ一撃を押し込む。
砂塵と共に、後退するバズ。
足音を連れ、光を纏いし男は叫ぶ。
「アキレウス。」
霊言の示す力が生まれ、器を顕現させる。
一振りの身の丈ほどの黒き鉄棍。
スピードを味方に鉄棍で腹部を粉砕する。
バズが構えるよりも速く届いた一刀は力を奪う。
「貴様.やはり」
「忘れました。」
廃ビルの麓で頭を垂れ、駆動を停止したバズ。
雑に髪を荒らし、その場を後にする。
その一部始終を伺う者が、その口を滑らせる。
「第3及び9特異源の存在を確認。」
2050年4月10日
静かさが賑わいに支配された中、一人ため息をつく。
スラムの中心部、総督府とも呼ばれる重要地点。
その一室で、一人。
代わり映えのない背景をなんともつまらなそうに眺める。
雑に短く剪定した茶髪。
肌は白く、黒を基調としたコートを羽織る女性。
何かを待つような、それであって何にも期待を感じない様子。
特に理由もなく、立ち上がるとドアの音が聞こえする。
「ファブ隊長。防人から報告でっ」
入ってくるなり、話し出した男を見事な一撃で仕留める。
男はドアとともに部屋の外へと掃き出された。
「貴様、上官の部屋に入るときのノックは常識だろうが」
淡々と話す彼女の頭上に、紙の束が舞う。
その中一つにてを伸ばし、暫し目を通す。
「申し訳ありません。ですが、至急御伝えしたいことが」
「もうそれは、もう必要ない。下がれ」
言葉を返す、暇もないまま男はその場から失せる。
資料を机に置き、再び背景を眺める。
資料にはこうし記されていた。
スラムにて、第3特異源が発見された。
その後、第9特異源と接触し、第9が撃破された。
至急、スラムの防人の出撃を要請する。
「また、英雄殿に泥を塗る輩が現れたか。」
怒りというよりも、もっと粘っこい執着を感じる。
踵を返し、あるはずのドアを無視し、部屋を後にする。
中心部より離れた商業区に彼の姿はあった。
再び活気を感じ、静けさと決別した彼。
だが、問題というものは歯止めなどというものを知らない。
「きゅ~お腹が減ってもう動きたくない。」
スラムに来て3日ほどになるが、ここ最近何も食べていない。
何処にいっても人を吐き捨てるような目でみられる。
とても居づらい。
やはり、この格好は目立ちすぎる。
かと言って脱いでしまってはアイデンティティーがなくなる。
服を変えるという選択肢を消去し、無造作に荷物をあさる。
探る中、目的物の確認に成功した。
某ロボット的感覚で、取り出したのは黒い物質。
属に、レーション又は干し肉と呼ばれる携帯食料の類い。
乾きという状態を通り越し、不気味さを感じる物質。
このレーションは、先の戦いで手に入れた戦利品。
これを食べれば少しは紛れるだろうが、勇気がいる。
ゲームなら、勇気が男ぐらいじゃないと食べられないレベルの代物。
特に、これは柴の教団の携帯食。
柴の教団は教授のひとつで粗食というものがある。
つまんだところが、食への興味を捨てるというもの。
結果これは、このレーションは味よりも栄養のみを考え作られている。
軍人なら未だしも、彼はもう軍人ではない。
しかし、食べなくてはもう倒れる。
食べずに倒れるか、食べてもがくか選択肢は二つに一つ。
食べようと近づけるが、全くもって進まない。
項垂れる。やっぱり、駄目だ。
「どうした少年。腹でも減ったか。」
ええどうでしたでしょうか。
今回、バスとファブといった主要キャラが登場しました。
ファブは今作、スラム解放戦線篇のヒロインです。
次回から彼もといリークとの掛け合いも在りますので良ければ応援ください。
キャラの見た目など気になる方は、ツイッターなどにあげていますのでそちらも確認ください。