表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

友葉学園シリーズ

【友葉学園】私は今宵も毒を吐く

作者: 田中 友仁葉

主人公は毒島 明日香。埋毒系少女です。

はぁ……いいなぁ……。


窓から見える隣のクラスの高町くん。


かっこよさと可愛さを兼ね備えており、裏のない性格で好青年。さらに、真面目で天然な性格により意外にも女子からの支持は高い……。


この持久走の苦しさだって忘れられるよー……。


「あすか! あすか!!」


「ふふふ……ふふふ」


「あすか! 服溶けてる!」


「……え!?」


友だちの声に気がつき、ふと服を確認するとジュワ〜と炭酸っぽい音を立てながら服が角砂糖の如く溶けていた。


「き、キャァァァアアアアアアア!!」


*****


私、毒島(ぶすじま) 明日香(あすか)は生まれつきの埋毒者(まいどくしゃ)である。

なんか突然変異的な何からしくて、体から出てくる汗、唾液、涙、血液、尿、膵液、胃液、膣分泌液、その他の体液全てに毒が含まれてるらしい。


さらにその毒も恐ろしいことに、青酸や硫酸どころではなく王水とほぼほぼ変わらない強さを持つらしい。

そのため私の体液に触れると、穴が開き、溶かされ、痛みにもがく……らしい。


なぜ私は大丈夫かと言うと、毒蛇は自分の毒で死なないし、フグは自分の肝で死なないし、某ガキ大将が自分の歌で苦しまないのと同じ理由だと思う。


ちなみに私を産んだ親には抗体があるらしい。そうでなければ、私はどうやって生まれた。


*****


「なんで特殊素材の服を着なかったんだ」


私は化学室で先生に説教を受けることになってしまった。


「ご、ごめんなさい……うえぇん」


「な、泣くな! 床に穴開くだろっ!?」


だって先生怖いんだもん……


「ズビズビ……」


「……まあなんだ。俺も薬作ってやってるんだ」


「それは……まあ感謝してます。いや、かなり……です」


苦笑いしながら呟く。


「……まあいい、とりあえず今回はこのくらいにしてやる」


「はあ……すいません……」


……ふうやっと終わった。

次の授業は倫理だし、高町くんの妄想しようっと……ヨダレには気をつけて。


……あ!


「そういえば先生って1-Aの担任ですよね?」


「そうだが。なんだ藪から棒に……」


「高町くんってか、か、彼女います?」


「……なんだお前、高町のことが好きなのか……。そんな話は聞いたことない」


「やった!」


「……が、付き合うとかはやめろよ」


「ええっ!?」


私は先生に渡された特殊繊維のハンカチを受け取りながら話の続きを聞いた。


「あー、お前。恋人となるってことは色々相手の体液と触れることが多くなる」


「セックスとか?」


「……お前、なんの躊躇もなく言うのはやめとけよ。 俺は面倒だし不純異性交遊には口は出さないが、そうでなくてもキスどころか手を繋ぐのも手汗とかで難しいだろうな」


「……そ、そんなぁ……うぇぇ…」


「な、泣くなぁ!!?」


*****


放課後、私は委員の仕事として図書室に来た。貸し出しの手伝いである。


「……はぅぅ」


「……どうしたの? 毒島さん」


「……牛沢センパイ」


牛沢センパイは同じ図書委員でいつも寝てる先輩である。

そのせいで私の仕事が増えるのだけど、牛沢センパイがカウンターに突っ伏す際に潰れるオッパイを見ると何故か許せてしまう。


「実は……で……」


「ふーん、別に付き合えばいいじゃん」


「だからそれが出来ないんですって……」


「なんで?」


センパイは本当に分からないような顔で首を捻らせていた。


「なんでって、キスどころか手も繋げないんですよ?」


「んー、別にいいと思うよ?」


「え?」


「私の友達はね。付き合ってるのに、2人少し距離をとって付き合ってるんだよ?」


……あー、そういうカップルもあるのか。


「……でもそれ、もどかしくないですか?」


「自分がそう言える立場?」


「……そ、そうでした」


痛いところつかれた。


「まあ、私も付き合ったことないし分かんないけどね」


と最後に付け足すように言ってるけど、確かに恋人=手を繋ぐなんてルールはないんだよね?


むしろあの化学教師が勝手に言ってただけか。


「……わ、わかりました。 少し頑張ってみます!」


「……あー。あと毒島さん」


「はい!」


「……図書室では静かにね?」


*****


とは言ったもののどうやって接近を行うか。


今日も今日とてこんなストーカー行為してるわけだし、バレたら終わりだもん……。


「……娘よ。何をしとる?」


「ひゃいっ!? ……あ、あなたは確か転校生の……」


「うむ。立波 都華咲という者じゃ」


立波さん。

確か高町くんのクラスに転校してきた女の子で、その独特の喋り方から一部から人気を受けているとかなんとか。

美人だしスタイルもいいから多分彼女のステータスのどれかを私に全振りしても勝てない気がする。


そして……一番気になる噂がある人。


「……あ、その……えっと」


「……娘よ。言っておくが妾と高町はお主が思ってるような仲ではないぞ?」


「……え? でも噂が……」


「噂もゴシップもへったくれも無いわ。全く好きかって言ってくれよって……人間というのは哀れな生き物じゃ」


う、噂……だよね! ハ、ハハ……


「して汝よ」


「は、はい!」


「高町に気があるのか」


うわバレた。


「……そんななぜ分かったみたいな顔をせんでも、誰でも分かると思うぞ? ……本人を除いてな」


「う、嘘!?」


「……」


立波さんは溜息を吐くと少しばかりイタズラな笑みを浮かべて告げた。


「汝と高町の間、取り繕ってやろうか?」


「え? いいの?」


私はつい意外そうな声を出してしまった。


「かまわんよ。実は妾と高町は同じ職場で働いておるのじゃ」


「……ええ!?」


「……そんな驚かんでも、何か関係はあると思っておっただろうに」


……うう、めっちゃバレてる。


「……まあよい。 この後、湖公園へ来るといい」


湖公園? ちょっと離れてるな……。


私はそう思いながらも、高町くんと会えることを考えるとワクワクして仕方がなかった。


*****


私は家に帰ると、特殊素材のシャツに特殊素材の帽子、手袋、タイツ、下着、靴、マスクと完全装備にすると、気合を入れて公園に向かった。


駅を一つ跨ぎ、駅から徒歩10分のところにある湖公園。


指定されたところに向かうと既に立波さんが待機していた。


「おぉ来たか」


「え、えっと、高町くんは?」


「直に来る。それまで少しぶらつこう」


立波さんは腕を頭の後ろに回しながら歩き始めた。


「え!? 高町くん待たなくてもいいんですか!?」


「かまわん。彼奴のことだから気にするな」


立波さんはぞんざいに告げると気にしないように歩き始めた。


「……お主よ。お前はなぜ高町が気になる?」


「惚気ていいんですか?」


「惚気てなんじゃ。まだ両思いではないだろう。いって恋話じゃ」


立波さんの許可が下りたので私はムフフと笑いながら告げた。


「実は私がまだ幼稚園の時、高町くんが誤って紙粘土を私の顔にペトーッと貼り付けたんです!」


「……それだけか?」


「はい、関係はそれだけです」


「……惚れた理由は?」


「優しくてかっこいいからです。恋に理由を求める方が可笑しいですよ」


ちょうどその時、ハアハアと当の本人が息を切らせて走ってきた。


「す、すいません! ……ってあれ? 確か毒島さんだっけ……」


「え!? 覚えてくれてたの!?」


「まさか紙粘土を顔に貼り付けただけでお互いに覚えているとはのう……」


立波さんは大きな胸を寄せてため息をついた。 そういえば母乳も毒入ってるのかな。でもその前に出るための精子をまず殺しちゃう気がする。


「……まあよい。 高町」


「はい!」


「今日は有休をやる」


「……こんなに早くもらっていいんですか」


高町くんがそういうと、立波さんは野暮なことを聞くなと叱咤していた。


「……で代わりにといってはなんだが、そこの娘と逢引をしてもらう」


逢引て……


「立波さんにバレてる時点で逢引は成り立たないと思うんですけど」


「口ごたえするな!!」


えー……


「ともかく、この放課後を使った短時間にどれだけのことが出来るか。 高町よ、楽しませろよ」


「え、ええっ!? ちょ、ちょっとその僕、そんなに毒島さんのこと知りませんよ!?」


「適当にしろ、後にレポート提出な。 妾は寝る」


寝るって……この人、本当に仕事してるの?


「あー、えっと……毒島さん」


「あっ! うん……」


「えっと、なんか巻き込んでごめんね」


「い、いいよ。 大丈夫……」


ま、まずい……汗が出てきた。既に何かが溶けてる音がするし……。

とりあえず高町くんに触れないように気をつけないと……。


「と、とりあえずどこに行こっか。放課後だし行ける場所限られるけど……。カラオケとかどうかな」


「カ、カラオケ……ごめん。わたし歌苦手なんだ」


「そうなんだ……。いや、こちらこそなんかごめんね」


というよりも、マイクが手汗で溶けちゃうし、歌うときにツバ飛んだら危険だし……。


「あ、そういえば、私ボウリングのペアプレイ券があるの」


「ボウリングか。いいね、そうしよう」


ボウリングなら手袋だし、あまり汗かかないし大丈夫……のはず……多分。


私たちはそう決定すると、最寄りのボウリング場へ足を向けた。


*****


「そ、そのさ高町くん」


「な、どうしたの?」


私は思い切って電車の中でちょっとしたお願いをしてみた。


「えっと、下の名前で呼び合ってもいい?」


「……別に僕は構わないけど、名前分かる?」


「大丈夫……。浩史くん」


「明日香さん。……ははは女の子に名前呼ばれるって少しくすぐったいや」


それって少しでも意識してくれてるからだよね……?


それに私の名前……覚えてくれてた!?


私は落ちそうになった汗の雫を拭う。危ない危ない電車を止めるわけにはいかんよ。


と思ってはみたけど、駅を降りるとき、つり革に私の手形が付いていた。どうやら手袋から少し手汗が染み出していたらしい。


ボウリング場についたら手袋二重にしよう……。


*****


ボウリング場は駅の正面に建っていたので移動時間少なく行くことができたと思うが……


「混んでるね」


「うん」


どうやらポイント2倍デーかなんかで平日にも関わらず結構な人がいた。


「浩史くん、整理券40分だって」


「んー、なら少しどこかで時間潰そうか……」


といっても私が問題なくいける場所って……


「……そうだ、少しお金飛ぶかもだけどここならどうかな?」


*****


「久々に来たなぁ。ゲーセン」


ボウリング場の一階下にあるゲームセンター。デートとしては微妙なところだけど、私にとっては凄く喜ばしい……。

選択肢の神様ありがとう。


「うーん……何しようかな」


まずゾンゲーは無し。ゾンビ殺して喜ぶ彼女見て誰が楽しい。

太鼓ゲームも並んでするほどでもないし、クイズアーケードは途中離脱ができない……。


「そうだ。明日香さん、プリ◯ラどうかな」


「プ◯クラ?」


「うん。僕さ、撮ったことないから、いつも気になってたんだよね」


確かに、一般的にプリク◯は男子だけではNGということが多い。理由は知らないけど、そうなのかもしれないな。


「うん、いいよ。一緒に撮ろうか。あとプリ◯ラって言ってるけど、それ商標だから」


「え!? そうなんだ!」


*****


私は白のビニールカーテンを抜けると画面横のコイン投入口に硬貨を投入した。

その瞬間、シャラーンともキラーンとも聞こえる効果音とともにミーハー女子の好きそうなキャピキャピの音楽が流れる。


「思ったより広いんだ」


「そりゃそうだよ、証明写真じゃないんだから」


私は苦笑しながら適当に設定を済ませる。


「あ、写った」


「これがカメラね。カウントは勝手にしてくれるから……どうしたの?」


「あ、いや。なんていうかさ、こういうときどんな顔すればいいか分からなくて……」


「……笑えばいいと思うよ?」


あ、なんか聞いたことあるフレーズ。


パシャ(並んでピース)


「なんか普通だったね」


「次はカップルっぽくしたいな……」


「……じゃあ、こういうのは?」


「っっっっっっ……!!?」


パシャ(肩を抱き寄せる、明日香赤面)


「あっ! ご、ごめん……」


「……う、ううん」


「……」


「……」


パシャ(背け合う赤面した2人)


「あ、一枚勿体無かったね」


「そ、そうだね……」


「……えい!」


「えっ!?」


パシャ(体をくっ付ける毒島、赤面する二人)


「ほら、今のカップルっぽい!」


「そ、そうかな……あっ、あと一枚だ」


「じゃあ、ほら寄って寄って!」


「う、うん」


パシャ(顔を寄せる二人、違和感のある笑顔)


*****


「完成したよ」


いつも友達と来るときは20分くらいかかるけど、もう満足しちゃったので10分くらいで終わらせた。


「はい、あげる」


「え?」


「2枚セットなの」


「あ、そっか」


ちなみに私は溶かすのが怖いので急いで財布(特殊素材)に入れた。


「おおすげぇ! 本当に目が大きくなってる!」


子どもみたいにはしゃぐ浩史くん、やっぱり裏表ない人間だなぁ。


……私もこの体のこといつ話そう。


「……まだ少し時間があるね」


「……」


「……明日香さん?」


「え? あっ、ごめんね」


ま、まあ今は気にすることないよ。

うん大丈夫大丈夫……。


「あ。 あのヌイグルミ可愛い」


ふと目についたUFOキャッチャーに話をそらす。


「ん?」


「あ……えっと」


そのヌイグルミは、トカゲの尻尾が生えていて、目の座ったクマともタヌキとも言いようのないキャラクター。

正直そんなに可愛いとは言い難かった。


「ふーん、明日香さんクマイラが好きなんだ」


「え、あ……え? クマイラ?」


「うん、キマイラとクマが混ざったキャラクター。意外と人気あるらしいよ」


確かによく見ると……いや、よく見ても可愛くないしユルくもない。


「……よし、ちょっと待ってて」


そう言うと、浩史くんはクマイラを囲んだガラスの檻に硬貨を投入した。


「え!? そ、そんないいよ!?」


UFOキャッチャーはゲームセンターの貯金箱とも言われてるのに、こんなのにお金使わせたら金づるみたいになっちゃうよ……。


「いいからいいから」


そう言いながら、二つ目のボタンを離す浩史くん。

ガラス内のアームは左右に機械的に開くと、クマイラの両脇を挟んだ。


(でもここで大体コケるだけなんだよね……)


私が目を伏せた数秒後。


「はい、取ったよ」


「え?」


浩史くんの手には30センチほどのクマイラが抱えられていた。


「いやぁ、僕さ。これだけは得意なんだよね。昔も近所のゲームセンターで出禁もらったこともあったし」


まさかのプロだった。


*****


クマイラをカバンに突っ込むと私たちはボウリング場へ向かった。


番号は7番、ラッキーセブンだ。


置き場でボールを手に取り、自分のコースでゲームの設定を済ませる。


「ヒロフミ……アスカ……っと」


「なんか久しぶりだな。3年くらいやってなかったかも」


「私は点数とか気にしないから大丈夫だよ」


「そう言ってもらえると気が楽」


ともかく自分もマイグローブ(特殊素材)の割にはあまりしてないわけで……。


まあ下手同士の方がやりやすいか。


「じゃあ僕からするね」


「うん、頑張れー」


浩史くんの投球。

投げ方は極一般的で問題ない様子。

結果は8本、右に1本残る感じ。


結果はスペア。


「あー惜しいね……」


「むしろ好調な方だよ、ハハハ……」


続いて私の投球、溶かさないように手袋は二つ重ねている所為で触覚が鈍いけどとりあえず落ち着こう。


だめだ、ガーターだった。


「……」


「大丈夫だよ」


あーもう、本当優しい。


ガーターだったけど、私の心は浩史くんにストライク。


何言ってんだ私。


*****


最終回、せめて最後はストライク狙いたいなぁ……。


「頑張れー!」


よし、最後くらいは手袋脱ごう。


ハンカチ代わりに服で汗を拭い、いざ投球!


「えーい!」


しかし、ボールは大きく横に曲がる。


「あー……」


そして轟音とストライク。


「……は?」


「すごい! なんかすごい曲がったね。 プロみたいだった」


……なんで?


数秒後ボールが帰ってきて理由がすぐに分かった。


(ボールが溶けて微妙に楕円になってる!?)


つまり、ボウリングの球の代わりにラグビーボールを投げたということである。


証拠にボールの通った跡が微妙に凹んでいる。


(いつ付いたんだ……? も、もしかしてゲームセンターで浩史くんに触れてないよね!?)


「……? どうしたの明日香さん。すごい汗だけど」


「ち、近寄らないで!」


……あ。


「ご、ごめん。臭いとか恥ずかしくて……」


そう言いながらも冷や汗でさらに汗が吹き出る。もうなんでここ暖房きついのさ……汗引かないじゃん。


「……そ、そうなんだ」


「うん、でも楽しかったよ。ありがとう」


「うん。こちらこそありがとうね」


*****


ボウリング場を出たその時、偶然というものは怖いものだと思わされた。


突然私の携帯がピロロンとJKらしくないデフォルトの着信音が鳴る。


「あ、お母さんからメール」


「なんて?」


「……お母さん、お父さんと外食するからなんか自分でしてってさ」


「え? 僕のとこも適当に食べるように言われてるんだ」


……え?


*****


某ファミレスにて、私はマイフォークを手に緊張で汗ダラダラなう。


「マイフォークなんだ」


「う、うん。自分の使いたいんだ」


「そういえば、明日香さんってボウリンググローブも自分のだったよね」


「は、ははは……」


マズイなぁ。 こんなことなら早めに言えばよかった。


(このタイミングで埋毒なんて言えないよ……)


「何にする?」


「え、えっとサラダと……あ、そうだマルゲリータもらおうかな?」


ピザなら食器使わないし大丈夫のはず!


「ふーん。じゃあ僕はサラダとパスタにしようかな。タラコのやつ」


パスタか……麺類いいな。

私が麺類食べるといつもすぐに溶けるから啜れないんだよね。


…………

……


注文したものは同時に運ばれた。


どんだけ人気ないんだ。

ここは全国にチェーン店がある有名イタリアンファミリーレストランじゃないの?


「じゃ早速食べよっか」


「そうだね頂きます」


そして、私は思い出した。


日本のファミリーレストランに行けば必ず出されるもの。


それは、お冷と食器と……






『おしぼり』だった。


私は浩史くんがナイロンの袋から紙ナプキンを取り出し、手を拭くのを見て硬直した。


私の手は毒で菌なんぞ全滅してる訳で手洗いなど不必要なんだけど。

……しないと、不潔に思われるよね?


「……どうしたの? 明日香さん」


「え!? ううん!? なんでもないよ!?」


落ち着け落ち着け……今、焦ったら手汗が増えるだけ……ピザ持った瞬間溶けちゃうから気を落ち着けるのよ私……。


気を落ち着けた瞬間……。

タイミング。命。


……ここだ!


「ぬん!」


「!?」


シュワワワワと音を立てて、泡立つ紙ナプキン。


「……」


ダメでした。


「隠しててごめん! 浩史くん! 私、体液全てに強酸系の毒があるの!!」


「へえ、そうなんだ。じゃあお腹ペコペコでしょ。早く食べよ」


……え?


「どうしたの?」


「え、えっとさ。 怖くないの?」


「……ん?」


「……毒」


そう言うと浩史くんはさらにハテナマークを増やして話した。


「毒を持つなんて蛇やフグだけじゃなくて、トリカブトだってアジサイだってあるじゃん。 それにそんなこと気にしてたら僕のメンタルも持たないし……。あ! 後半は気にしなくてもいいから」


「でも私の場合は汗でもダメだし……」


「ともかくさ、そんなことで僕は人を嫌がらない。 女の子に紙粘土貼り付けるような僕の方が問題児だよ」


「……」


私は落ち着くために水を一口飲んだ。


「……ガラスだから溶けないんだ」


「……」


なんかバカバカしくなってきたけど、少し待てい。


「……その毒ってさ、効かない素材とかあるの?」


「う、うん。ナイロンとガラスが大丈夫だけど」


「じゃあさ」


浩史くんは鞄から出したナイロン袋に手を嵌めると、手を握ってきた。


「これなら大丈夫なわけだよね?」


「……」


「……明日香さん?」


「っっっっっっっ!!!!!???」


「明日香さん!?」


……もう。


……浩史くん、最高だ。

走りました笑


とりあえずこれで先生と合わせて2人の新キャラですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ