堕天と進化
魔物どもとの拝謁が終わった今俺は再び引きこもりに逆戻りした。
ただ軍の事や今後の標的などを話し合うために幹部の4名とは地下で話し合うことが増えたから完璧な引きこもりではないがな。
人化した姿を大人の背丈にまで成長させることはもちろんだがゲームのボス然り戦闘形態と言うか本来の姿をどうするかが悩みどころだ。
だだ下級とはいえ多くの魔物を見たことでイメージは固まりつつある。最悪リセットして一から作り変えることもできるしな。
そんなある日、またオークが俺に面通りを求めてきた。別にその日は何もなかったからな玉座に座ってオークに合うことにしたのだ。
オークは4名だった。この前見たときより数が減っている。しかも体中に傷がついていた。
「我ら魔王様のお役に立とうとこの城に来る際に発見した人間の集落を襲いました」
役に立てとは言ったがそんなこと命令してねーよ。
「その際人間の抵抗に会い数を減らしましたが前回の非礼のお詫びとして人間のがきを攫ってまいりました」
そう言って攫って来た子供を嬉々として見せてきた。
10歳前後の兄妹か。
兄の方は服が乱れ痣だらけ、妹の方は服、というかもはや布とも言えないなほぼ裸だ。暴行の跡は見られないが涙の跡がクッキリと残り目が真っ赤だ。別の俺はそういう趣味は無いんだがな。
殺すにしてもどうしたものか…
『ならお前の力で駒に変えればいいじゃろ』
突然頭に響く 破壊神の言葉。
『やり方がわからん』
心でそう呟くとそれで会話が成立した。
『どこでもいから体に傷をつけてそこから直接“魔王であるお前の魔素”を注入しろ“微量”でいい、そして体外から注入した魔素をコントロールしてその子供たちを魔に堕とせ、そうすれば新しいお前の駒になる』
『了解しました、カ・ミ・サ・マ』
破壊神との会話本の数秒のことだった。
誰にも気づかれてはいないようでよしとしよう。
「わかった、その人間のがきは俺が貰おう」
その言葉で大はしゃぎするオークども。しかし今自分たちがどこにいるかを再確認して慌ててかしずく。
こいつら無事に城から帰れるかな?四方から殺気が向けられてますよ。
そして“無事”魔王に献上された兄妹は身を寄せ合い泣き、震えていた。
「さて、俺は人間の子供はいらん」
その言葉で先ほど喜んでいたオークが驚くが無視する。
「だからお前たちにはこれから俺様の魔素を注入して堕天させる。無事に耐えて俺の駒になれるように祈れ」
それでは破壊神に教わった人間の堕天の術を開始しするか、二人の頬に一筋の傷をつけてそこに微量の魔素を流し込む。
事前に何をするかは言っていたが一瞬の事で何をされたか分からずポカンとした表情を浮かべていた兄妹は次の瞬間、体中を襲う激痛に悲鳴を上げた。
「がぁぁっぁぁぁぁ」
「痛ぃぃい、体、裂け、ぅぅぅぅあぁぁ」
床にのた打ち回る様子を眺めながら体内に注入した魔素を観察する。
すると徐々にだが確実に子供の体内に広がっていく。
「うげぇ」
兄の方が吐いた。少し血も混じっている。
妹の方は床を引っ掻いて爪の先から血が出ていた。
見ていたオークは目の前で行われていることが理解できず慄いていた。幹部たちは俺の行う秘術の結果を静かに見守っていたが目に興奮の色が見て取れた。
時間が経ち全身に魔素が広がった時、劇的な変化が起きた。
まずは兄の方だ。
左目が内側から弾け飛んだ。残った右目は燃えるような赤目に変化した。左目から流れる血を止めようと当てた手の爪は鋭く尖り、白かった肌は黒く変色し、体にあった傷は体の変化に伴い自己修復された。額からは短いが2本の角ができた。それで兄の方の変化は収まった。
次は妹の方。
妹は両目とも健在で兄と同じ赤い目に変化し、肌も黒く、爪も鋭くなった。
そして兄とは違い歯が鋭く伸びて牙ができた。肩まで伸びた黒い髪は痛みのためか根元から真っ白に染まった。肌の色と相まって美しく感じる。角は額の真ん中から1本だけ生えた。
人間の兄妹二人は堕天の術により子鬼へとその身を変えた。
グチュ、グチュ
子鬼二人が出来たての死体の肉を喰らう。
喰らうのはオークの肉。腹が減った子鬼にオークを勧めたのだ、実力を知りたかったからな。
2対1で相手をさせたが生まれたての子鬼にオークは負けた。見た感じ実力差はそれほどなくいい勝負が見れると思っていたのだが…
「よくやった」
俺は子鬼たちをねぎらう。
腹を満たした子鬼たちはそのまま床に突っ伏して眠りについた。
さて問題はオークだ。こいつら使えなさすぎる。
3名になった代表団だがどうしたものかと悩んだが俺の魔素を与えることにした。
魔物のくせに先ほどの子供達のように痛みにのたうち回ってようやく進化し、ハイオークになった。
そして進化したこいつらが最初に勇者と刃を交える先鋒となり、堕天した兄妹は俺の近衛兵へとこのあと成長していく。