双子の兄弟
狭い路地で男が二人睨み合っていた。
「なんでお前がここにいる?」
「なんでテメェがここにいる!」
男たちが声を発したのはほぼ同時だった。着ている服装は全く違う、しかしその目に映る相手の姿は自分に瓜二つ。しかしそれは当然と言えた。なぜなら彼らはまごう事無く双子の片割れだったのだから。
彼らのまとう空気は一触即発といったところか。互いの手には黒々と光る拳銃が握られ互いを牽制しあっていた。
『なんで弟の拓磨がここにいるんだ!』
何度目かわからない葛藤。
俺は昔を思い出していた。自分はスポーツ万能、成績優秀。持ち前の正義感で警察官になった。2年、3年間隔で全国各地の交番に飛ばされ、そして1年前に地元に帰ってきた。
転勤続きで実家とは疎遠になったがやっぱり地元は落ち着く。親から問題児の弟が引きこもりから脱したとは聞いていたがその後どうしたかは聞いてなかった。
今まで何度も悪事を働いた相手を逮捕してきた。だが目の前にいるのが血の繋がった弟ということで自然とため息が出た。
『なんで正義兄がここにいんだよ!』
何度目かわからない葛藤。
俺は昔を思い出していた。俺は兄貴と同じで運動だけは出来た。けど勉強はダメだった。いくら頑張っても兄貴のようにはならなかった。
周りはいつも俺と兄貴を比較した。好きな女ができても兄貴のことを知ると俺から離れていった。邪魔だった。双子の兄という超えられない壁。
兄はいつもその壁の上から俺を見下してくる。
いや、実際見下してはいないのだろう。俺がそう感じてしまうだけで。
そう考えると自分がすごくちっぽけに感じてしまった。俺は家に引きこもった。
惨めな自分を見たくなくて目を瞑った。惨めな俺を励ます声で余計に卑屈になる自分が嫌で耳を塞いだ。あとは口を塞いで自分の殻に閉じこもっていれば良かったのかもしれないが引きこもって5年。
パソコンのサイトに自分の気持ちをありったけぶちまけたらすっきりした。自然と足は外へと向いた。
しかし引きこもりのニートに社会は容赦しなかった。学のない俺はバイトを転々とした後、裏社会へと落ちていき。今日、大仕事を任された。
「相手との取引を成功させろ」
そう幹部から命令を受けてここに来た。
「ヤクザが近々大規模な麻薬取引を行うという情報を得た。地元警察の諸君はこちらの指示の元、一斉逮捕に協力するように」
そう命令を受け正義はここに集まり、そして捕縛作戦は実行された。俺はその中で逃げた男の一人を追って狭い路地に入った。路地に入った瞬間その男は振り返り拳銃を突きつけた。慌ててこちらも腰の拳銃を抜いた。そしてその時初めて相手の顔を確認して互いに声を失い、今に至る。
この緊迫感がずっと続くかと思った。しかしそうはならなかった。俺の仲間の警察官が応援に駆けつけたのだ。
「うぁぁぁ」
拓磨が大声を上げて引き金を引いたのがなぜかわかった。
パーン!
乾いた音が響き俺は通路に仰向けに倒れていた。胸が痛い。目線を動かすと応援に駆けつけてきた仲間の警官が俺を撃った拓磨に向けて発泡した。
また乾いた発泡音が響き人が倒れる音がした。
捕縛作戦が終わった。
「報告します。逮捕者は6名、押収した薬は約2キロほどで末端価格で4000万程の物との事。また警察官1名とヤクザの男1名が死亡。警察官の名前は本堂正義。ヤクザの方は所持品から名前が判明、本堂拓磨。死亡した本堂巡査長の双子の弟です。………了解しました。撤収します。」
真っ白な場所だった。
真っ黒な場所だった。
周りには何も存在しないそんな空間。ああ、自分は死んだのだと確信した。
しかし神と名乗る者がおかしなことを言う。
“あなたはこれから勇者として別の世界で生まれ変わる。力を付けてその世界で生まれる魔王を倒しなさい”
“お前はこれから魔王として生を受ける。力を付けお前を殺そうとする勇者を殺し世界を混沌へと変えろ”
隣りに弟がいた。
隣りに兄がいた。
神と名乗ったこいつらはまた俺ら兄弟を殺し合わせる気らしい。しかもそれをゲーム感覚で楽しんでいやがる。無性に腹が立つ。目の前の神に殺意が湧いた。
『覚えていろ!いつか必ずその首引き裂いてやる』
そして俺らは別々の場所に転生された。