王たちの会議 1
広い会議室に入る。
既に円卓には数人の人物が座っていた。
マリオン王国国王、宰相ニゲル、王国軍将軍ギルバート、王宮筆頭魔術師ジョセフと、そうそうたる顔ぶれが並びその後ろにそれぞれダインとマリーが控えていた。
そして俺は少年勇者や弱小の蛮勇と嬉しくない二つ名がここ3ヶ月で各国から呼ばれるようになってしまっていた。あとは護衛の騎士や魔道士が数名といったところか。
だが他国の王の姿はない。当然だ此処にはいないのだから。
会議室の円卓の上には大きな水晶が鎮座し空席の前に小さな水晶が並び父上の前にも水晶が置かれていた。
水晶は淡い光を放ちながら開始の合図を待っていた。
「…時間が来ました」
宰相のニゲルがそう告げるとジョセフ老師の後ろに控えていたマリーをはじめとした魔道士数名が巨大な水晶に魔力を送る。
すると水晶は煌びやかに光り、ついで小さな水晶へと魔力が流れていき遠くにいる人物の像を結ぶ。
流通大国デリバフ国王 フリーデン・フォン・デリバフ
海運都市ダリの領主 海の覇者の末裔 デビッド・K・マリナス
城塞国家クイールの女帝 ラティア・クイール7世
平原の穀物庫テトラダの皇帝 リグル・ボルツ・エッシェンバッハ
と大陸でも名の知れた盟主が並び、さらに小国の王も数名、参加する。
「ふむ、時間通り発動したようじゃな。各国ともに異常はないか?」
最初に発言したのは女帝ラティアだった。22歳とこの中に集まっている国王の中で一番若い。
「ないようじゃな。デリバフが転移魔法を手放すということでこちらは大規模通信魔法を手放したが今回の会議実のあるものにしたい」
そう締めくくり各国の王が簡単な挨拶を交わし、いよいよ会議が始まった。
進行はデリバフ王だ。
「各国忙しい中時間を作って下さりまずは感謝を」
「前置きはいい、本題に入れ。奴さんらは軍備の再編に四苦八苦してる最中だろ」
と各国の王の前で平然と軽口を叩くのはダリの領主デビッドだった。
ここで一応海運都市ダリについて説明しておこう。
元々ダリは異国の小さな漁村でしかなかった。
そんな村に一人の少年が生まれた。名をコロンブス、平民なのでその時彼に性はなかった。
立派に成長した彼は村と漁場の往復という日常に嫌気がさしていた。
そんな彼に転機が訪れる。
いつもの漁場が不漁で狩場を移すことが決まり、新たな場所を探すために要望が通り新たに大型船が作られたのだ。
その船のおかげでその年を越すことができた村は船を国へ返還することになった。
しかしその直前、コロンブスの声に賛同した村の若者たちが船を奪い、外海へと出ていってしまった。
最新式の大型船のため小さな漁村の旧型船では追いつくはずもなく彼らの姿は彼方へと消えていった。
そして15年という月日が経った頃彼らは戻ってきた。数多の功績を積んで。
しかし15年が経ったとは言え国の船を奪ったことは変わりなく、彼らは拘束され国賊として処刑されるはずだった。
しかし彼らは民衆の前に国賊としてではなく英雄として登場した。
彼らの乗っていた船の積荷を調べた代官の報告を受けたためだ。積荷には金銀財宝の他に異国の香辛料、武器や防具が所狭しと積まれ、また目を見張ったのは精巧に作られた地図であった。
なんと彼らは15年の月日をかけて世界一周を果たしていたのだ。彼らの功績でこの世界が広大な大陸であると判明し、途中で立ち寄った場所、場所で内陸の地図を求めさらに地図を正確にしていった。
王は迷った、国賊として彼らを葬っても船の積荷は手に入る。しかしそれを手にした自国の若者十数名を安易に処刑するのも躊躇われた。
そこで彼らは船を奪った盗人ではなく国策として貿易に出て行ったことにしたのだ。
なので積荷の利益の一部を除いてすべて国が徴収、乗組員は無罪放免。乗組員の内数名は15年の間に妻子を娶った者もおり彼らも無事自国の民と認められたのだった。
だが一番の貧乏くじを引いたのは他ならぬコロンブスだろう。
彼は英雄と祭り上げられダリを治める事になりその際王よりマリナスの性を賜った。もちろん監視という名の首輪が付いた状態でだったが。
国の上層部は彼らの力を賞賛したが同時に畏怖も覚えていたからだ。
現にこの時代にそれは現実味を出していた。
だが当時のコロンブスはめんどくさいと言いながらもよく村を治めていった。
彼らが作った地図は複製され行商人や自由奔放に動く冒険者に高く評価され旅の必需品とされた。行商人は近海で採れた海の幸や貿易で仕入れてきた香辛料を求めてやってくる。
小さかった港は整備され大型船の数も増えていく。
そうやって村に人が集まればやがて街となり今の海運都市にまで成長したのだった。
また後進の育成にもコロンブスは力を入れた。
そしていつからか彼の子孫は男児には“K”の文字を付ける事にしたのだった。
そして魔王の出現の混乱によってダリのある国は今、現国王派とダリの領主であるデビッドをトップにしようとする派閥で真っ二つに割れていた。
だが今ここにデビッドがいることでその勢力比もお分かりだろう。
彼の一族を縛る首輪はとうに朽ち果て鎖を握る王族は愚鈍なものばかり、国家転覆は時間の問題だった。
「魔王の復活の予言から10年余り、各国は未だバラバラ。異国であるマリオン王国に勇者が誕生したと聞いたがオークの群れ200に瀕死の怪我を負われた。時を同じくして世界各地で魔物の一斉侵攻。偶然と考える馬鹿はココにはいないはずだ」
デビッドがそうまくし立てる。
「そうですね、だから我られは今ここにいるのですよ。それにマリオン王国の勇者は確かに怪我を負いましたが相手は我々がよく知るオークではなかったためです」
「ほぅ、それは聞き捨てなりませんな」
「それは“新種の魔物”と受け取っていいのかしら?」
「それを説明するために他の者と席を替わりますのでご了承ください」
そう言ってデリバフ王の姿は消え代わりに別の男の姿が現れた。