苦悩の王と呪われた勇者
デリバフの王は頭を抱えていた。
隣国の王子で勇者でもあるクリス王子にオークに襲撃された街の防衛を依頼して見事街は守られた。
それはいい、大変に喜ばしいのだが、日に日に報告される惨状にあの時の自分の判断は時期尚早だったのではないかと自問を繰り返す日々が続いている。
目先の利益を優先し大局を見誤った。
魔王の復活によって魔物は活性化し小さな村や街、国は大国の庇護下に入り生活基盤を死守した。だがそれはまだ魔物たちが浮かれ好き勝手に暴れていたからにほかならなかった。いま人類を脅かしているのは統率の採れた魔物の群れ、魔人たちが指揮を取る軍と言って差し支えないだろう。
対して人間側はどうだ。
自国の利益を守るため技術を独占したままで放置し自国と関係のある場所にしか軍を送らず。しかも相手の情報を下に見ていたのだ。きちんと事実を受け入れていたらまた違った結末になっていたはずで…。
あの戦いで戻ってきた兵はたったの十数人。100人の兵を送り出し実に8割近くが死亡したのだ。また勇者であるクリス殿が瀕死の重体で戻ってきた。兵の中に精鋭を混ぜ密かに護衛をするように言い含めていたにもかかわらずだ。初めて会ったときは戦を知らぬ小僧と思っていた。だが大国の矜持として死なない程度のお膳立ては整えてはいた。
なのにその護衛の兵は1人しか残っておらず高位の回復魔法を使える術者も2名ほどしか生き残っていなかった。
不甲斐ないと激昂した。我が軍は平和呆けで弛んでしまっている。そうだと思いたかった。あの化物の死体を見るまでは。
クリス殿を瀕死に追いやった魔物の死体を兵士が回収してきたのだ。だかがオークの死体など回収した所で邪魔になるだけだと兵もわかっているはず。なのに兵たちは持って帰ってきたのだ。だが結果としてそれは良かったのかもしれない、そして私は見たのだ。
はっきり言おう、あれは断じてオークなどというモノではない。
すぐさま号令を出し識者を集め分析を行わせた結果、更にその考えが正しいと裏付けされたのだった。
これを受けてデリバフの王は国の舵取りを大きく変えることとなる。
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クリスは生きていた。ハイオークからさらに進化したアイツの一撃を受けて意識を失ったあとの記憶はない。
聞いた話だと残存兵に発見され応急の治療を受けすぐさまデリバフへと送られ、そこで更に高位の術者により完全に傷は直った。
だが呪いは無理だった。
誰がかけ、どんな呪いかがわからない以上解呪は難しいとのことだった。それほどこの呪いは強力だった。
匙を投げたデリバフの人たちは俺たちを国へと返した。
そして3ヶ月が経った今、身体を縛る呪いは消え去った。
だが意識を取り戻した当初は起き上がるのも億劫になるほど体が重く、体を動かすと全身に激痛が襲う。これではリハビリもままならず体は萎える一方だった。
また魔力が一向に回復せず魔法も使えない。これはダインとマリーも同じ状態だった。
そんな呪いだが日を追うごとに弱くなり体が軽くなっていった。ありえないことが起こっていると教会関係の奴らは慄いたが結局はさすが勇者というところに落ち着いた。
マリーとダインの解呪は俺よりも遅い。だが俺の呪いが良くなるとつられる様に改善していった。マリーとダインは俺に遅れること一週間後に呪が解けたと診断が下った。
だが全てが順調というわけではなかった。
光や闇などの特殊な魔法は様々な条件で効果が変わる。その条件の中でポピュラーなのが太陽の位置や月の満ち欠けがある。
そしてこれは呪いにも当てはまり、最も闇が深くなる新月の夜は最も警戒する日であった。
そして予想通り襲いかかる強烈な苦痛。それが始まると俺たち3人は一斉に光に包まれ、呪殺は回避され 抵抗出来たが苦痛は続く。
心臓は早鐘を打ったように加速し息が上がる。痛みでうまく呼吸が出来ずに咽て嗚咽を漏らす。血管が浮き上がり骨が軋み、筋肉という筋肉が悲鳴を上げる。
それが一晩中続いた。痛みで気を失うことも出来ずただただ耐えることしか出来ない。
周りにいる者が全力でサポートを行い緩和に務める。聖水に浸したタオルで体を清め、聖結界でベッドごと囲み魔を祓う。
翌朝、登ってくる朝日を見て涙を流して神に感謝したのは忘れられない。
だがそれを2回も経験することになるとは思わなかったし、よく全員が発狂し廃人にならなかったものだと感心する。
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呪いは消えた。リハビリも順調、だがこの3ヶ月で状況は悪くなる一方。それを打破するために今『王達の会議』が開かれる。