3体目のハイオーク
更新が遅くなって申しわけございません。
パソコンが新しくなりと色々ありまして…
その分どんどん更新していきますので是非ともご愛読ください
クリフはダインとマリーが戦っていた場所に戻ってきた。しかしそこに二人はいない、代わりに複数のオークの足跡が森の奥へと続いていた。
その跡を辿ると頭を吹き飛ばされたオーク、えぐられた地面、圧し折られた木々が横たわっていた。幸いといっていいのか血などのあとが無いのが救いか。
しばらく進むと奥からオークの集団が現れた。だが様子がおかしい、もうすでに相手は壊走している状態だった。だが行く手を阻むオークを2体ほど屠った。
余計な時間がかかったがさらに奥へ行くとそこにダインとマリーの姿が見えた。
「ダイン、マリー無事か」
俺の姿を確認した二人は安堵の表情を浮かべる。
「ああ、なんとかな。ハイオークも1体仕留めてやった」
「こっちはもうヘトヘト、魔力をほとんど使い切っちゃった」
その言葉を聞いて笑顔がもれる。
ハイオークの死体も見た。
「それより、大丈夫なの?それ」
マリーが俺を指差したずねてくる。まだ俺の体は光をまとっていたのだ。
「大丈夫だ、けど死に掛けていきなりこれじゃなぁ」
二人にハイオークに刺されてからの不思議な現象を説明する。
「う~ん、それが神の加護ってことなのかしら」
「けど何よりクリス様が生きていてくださって良かった」
そう言ってダインは笑い、話を切り替えた。
「さて、ということは残りのハイオークは一体だけか」
「まずは本体と合流しましょう。だいぶ離れてしまっているもの」
「だな、これじゃ連携もくそもないもんな」
話し合いが終わり本体と合流しようと移動を開始しようとした瞬間、巨大な魔力が近づいてくることに気づいた。
本来ならこんな魔力を垂れ流して相手に位置を教えるようなことはまずしない。それほどの力を持っているならば当然それを制御するすべも併せ持つはずであるからだ。
十中八九、敵である。俺たちはすぐさま臨戦態勢に入った。
現れたのはハイオークの最後の一体だった。
向こうからのお出ましだ。
だがその姿を見て俺は血の気が引いた。持っている武器からは血が滴り、体は怒りに染まり真っ赤になっている。そして脇に俺が切り飛ばしたハイオークの首を抱えてあった。
つまり俺が残してきたあの部隊と遭遇してきたのだ。そして奴はここにいる。
また最悪なことに向こうはハイオーク一体だけなのだが状態がやばい。
あいつは狂人化をしていたのだ。
狂人化 魔物や魔人が使う術で防御を捨てた特攻形態。
自らの魔力を肉体強化の1点に集約し猛威を振るい、その力は最低でも通常時の3倍以上とされている。
加護が付いていて体が強化しているとは言え狂人化したハイオークの一撃に耐えられるかは不明、最悪この状態でも死ぬ可能性が出てくる。
焦り、混乱しようとする頭を必死に動かしこの状況を打破するための最善策を考える。
『焦るな、考えろ、考えろ、考えろ』
だが事態はそれをあざ笑う。
奴は俺らを見ていなかったのだ。奴が見ていたのは俺らの後ろにある死体だった。
そう、脇に抱えているのと同じハイオークの死体だ。それを確認した奴は咆哮を上げ猛スピードで突っ込んできた。
俺らは何もできなかった。
奴の突進によって発生した突風で体は宙に浮き、そのまま硬い森の大地に叩きつけられた。
「がはぁっ」
そんな声しか出なかった。
奴は死体を抱いて涙を流していた。そして何かを呟いた後おもむろに二つの頭を咀嚼し始めた。
それは異様な光景だった。
奴との距離は離れていた。だが奴が死体を貪る音が聞こえてくる。
ブチブチと肉が骨から引き剥がされる音が、バキゴキと骨が折れゴリゴリと骨が削られていく音が聞こえてくる。
食事が進むごとに奴の周りに黒い霧が溢れそして食事が終わるとその霧は完全に奴の体を隠し、それが晴れた時そこにはハイオークとは別の存在がいた。
体は先程より小さいし分厚い脂肪もなくなっている。しかしその体を覆う筋肉は引き締まっていて余分な物が付いていない。いわゆる細マッチョというやつか。ただ顔は豚のままであったが。
ただの魔物ではなく魔人に成長、いや進化してしまったそれはもはやこちらに絶望を与えるのに十分な存在だった。
そいつがゆっくりと近づいてくる。俺らは立ち上がり武器を構える。その距離が近づくごとに俺の頭の後ろが疼く。
「我が名はゲオルグ、オーク族の長だ。王よりこの力をもらい人間の街を襲ってもう一度お褒めの言葉をいただくのだ。それをよくも息子を…。優秀な戦士たちを…。楽に死ねると思うなよ人間の餓鬼がァァァァァ」
いち早く反応したのはダインだった。前に出て奴の拳を剣で受けた。
だができたのはそれだけだった。
剣は根元から折れ、数メートルほど吹き飛び地面を二度ほど跳ねて転がり、そして止まった。
奴は遊んでいた。その証拠に奴の武器は死体があった場所に置いて来ていて振るうのは素手、しかも楽に殺さないと言った言葉は正しく、手加減をしていたためダインは辛うじて生きてはいた。
だがもう立つことはできないだろうしダインに駆け寄ることもできない。目の前にいるのはそんな暇を与えてくれる生易しい相手ではなかった。
そんな中でまだ幸運だったのが奴は進化した体の制御がうまくできていかなかったことだろう。
いたぶる為に手加減して放たれた右腕はダインにぶつかった瞬間、血が噴き出した。自壊してしまったのだ。
奴はそのことに驚きまた痛みに咆哮を上げる。
マリーはその隙を逃さず自分が放てる最強の魔法を放とうとする。が、奴はそれを残った左手で阻害する。
マリーにはもうそれほど魔力が残っていない。これがイチかバチかの一発で魔力を使い果たしたらマリーはどこにでもいる普通の女の子でしかない。手加減された一発でも死んでしまうだろう。
マリーの顔色がどんどん悪くなっていく。魔力切れが近いのだ。
援護をしようと切りつけるが傷ついた右腕で剣を受け止めてくる。
はやる気持ちだけが募るが再び奇跡が起こった。今度はマリーが光に包まれたのだ。
「魔力が回復していく。これなら!」
どうやら効果はダインとは違い魔力の回復らしい。
マリーは魔法を完成させた。
凄まじい光の後、大爆発。奴の左手は吹き飛び先は炭化していた。
だがマリーも無事ではなかった。
衝撃で吹き飛び腕には酷い火傷を負い気絶してしまった。
だがダインとマリーのお陰で奴の両手は使い物にならない。爆発の衝撃で隙も出来た。俺は奴の心臓目掛けて剣を突き刺した。
なのに、なのに俺の剣は奴の心臓に届かなかった。奴の骨と筋肉に阻まれて止まってしまったのだ。肉体強化をしての全力の一撃が届かなかったのだ。
奴を倒すチャンスを逃してしまったのだ。
そして潰したのは両腕だけでまだ両足は健全なままだ。奴は蹴りを放ってきて俺は辛うじて避けた。
しかしその際、剣を手放してしまった。
やつは右手で剣を引き抜いた。途端に血が吹き出すが奴が胸の筋肉に力を入れるとピタリと止血してしまった。
よく見ると右腕も血が止まっていた。
そのまま奴は俺の胸を横一文字で切り裂いた。
だが追撃は来なかった。俺の剣は奴の膂力に耐え切れずこの一撃で役目を終えた。
「殺してしまったか」
つまらなそうな奴の声が聞こえた。
そんな奴に俺は盛大な返り血を浴びせることしか出来なかった。
「な、これは。ぐ、ぐぎゃぁぁぁぁぁ」
奴が悲鳴を上げている。だが今の俺に確認するすべがない。
大量の血を失なった俺は意識を手放した。
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