VSハイオーク
森の奥からやってきたハイオークを見た瞬間、頭の後ろがチリつくのを感じた。
だが、そんな違和感など敵は悠長に待ってはくれなかった。
奴は一番近くにいた兵士に飛びかかり持っていたアックスを振り下ろし、兵士はその攻撃を盾で受けようとしたがその盾ごと押しつぶされ呆気なく死亡した。
「ひ、怯むな。上位個体だとて倒し方は変わらん!囲め」
そう言ってハイオークを5人の兵士が囲む。しかしそれは悪手だった。
確かに囲むことで奴に攻撃は届く、しかし分厚い脂肪の前に致命傷となる一撃がなく攻め手を欠いていた。
「ウットオォシィィ」
そう言って無造作に一回転した。
その一撃で前方にいた二人が死亡、残りの三人は生きてはいるが重傷を負ってしまった。
そう、それだけで奴は囲みを無効化してしまったのだ。
さらに顎をしゃくり周りにいるオークに指示を出し。
「ぎゃぁ」
「誰か、助け…」
「嫌だ、嫌だぁぁぁぁぁ」
怪我を負った三人に容赦なく止めを刺した。
「オマエラ、オレラノコトバカダトオモッテタ、ケドイマハオマエラノホウガバカ、コノマエトイッショ」
その言葉に周りのオークが武器を鳴らし、笑う。
状況は最悪だ、ハイオークによって5人の兵士がものの数分でやられてしまった。それを見た町の男集の士気が下がり兵士の方にも動揺が走っている。
撤退し立て直すにしてもオークを倒すために戦場は横に大きく展開している。町に撤退しようとしても入口で我先にと人が殺到し混雑が起き、背後からの攻撃で壊滅的な状況に陥るだろう。
それを回避するには目の前のハイオークをなんとしてでも倒して戦況をイーブンに持っていくしかない。
そう思考が終わった時
「うおおおおおおおぉぉぉぉ」
なんとダインがハイオークに向かっていった。
「ダイン!無茶だ戻れ」
「ダイン!?」
「こいつを倒すんでしょ?時間を稼ぎます、軍を…」
そう言ったダインがいた場所にハイオークの一撃が炸裂する。
慌てて避けて事なきを得たが地面はその一撃を受けて穴が出来ていた。
「ひっ」
どこからか悲鳴が漏れた。
「コドモデモヨウシャ、シナイ」
そう言って攻撃を避けて体制を崩したダインの元に近くのオークが近づき殺そうとするが、そいつの頭に炎の魔法が炸裂し命を刈り取る。
もちろん魔法を放ったのはマリーである。
「攻撃は最大の防御よ。ダイン、なんとしても倒すわよ。この若さで死にたくないし」
そう呟き周りのオークの数を減らしていく。
「ダイン、マリー!クソッ、軍を立て直す隊長は負傷者を…」
指示を出している途中で背後から悪寒がした。慌てて振り向いた瞬間。
「あっ」
右の脇腹に激痛が走った。視線を向けると一本の槍が深々と刺さっていた。刺した相手は容赦なく槍を引き抜き同時に血が吹き出し血を吐いて倒れた。
そこには槍を持った二体目のハイオークがいた。
俺は痛みを堪えすぐさま回復呪文を唱える。しかし傷が深く血が止まらない。
そんな俺を笑いハイオークは止めを刺さなかった。それよりも軍を立て直すために集まった兵士たちに目を向けたのだった。
一方ダインとマリーもピンチだった。
クリフが刺され倒れた所を見てしまったため隙が出来たダインは攻撃を捌ききれず大きく吹き飛び背後の木に背中から激突してしまったのだ。慌ててマリーが助けに向かうがそのマリーも次から次へと湧いてくるオークに対して魔力が残り少なくなって来ていた。
体が痛い。心臓が脈打つたびに血が流れ痛みが襲ってくる息が荒く汗が浮かぶ。だが血が少なくなってなってきたせいか目が霞み、幻覚が浮かぶ。
その幻覚がどんどん変わっていき文字へと変わっっていき一つの文となった。その文をなぜか俺は口に出して読んでいた。
「天よ大地よ 山よ海よ 神が認めた者に 森羅万象の力を 祝福を届けよ 闇を払う光を授けよ」
後で思い返してもなぜこんなことが起きたのかわからない。勇者だからとしか言い様のない奇跡が起きた。
突然体の痛みが消えた。誰かが高位の回復呪文をかけてくれたのだろかと周りを見るが誰もいない。逆にハイオークの槍で殺られていく味方の姿がそこにあった。
起き上がると体が驚くほど軽い。鎧は槍によって穴があいているし流した血で汚れていたがその下にある体は傷跡もなく治っていた。
だが驚くことはそこではなく体が光っていることだ。前世で言うところスーパー〇イヤ人が近いだろうか?
俺を倒した槍持ちのハイオークは俺が立ち上がったことにまた俺の姿が違うことに驚愕したが再び俺に向かって槍を突き出してきた。
だが驚くほど恐怖心がなかった。起き上がった瞬間から不思議なほど落ち着いている自分がいた。現に相手の目線や筋肉の動き、呼吸までが聞こえてきそうで一歩前に踏み込むだけで相手の槍は空を切りカウンターで相手の首に一撃をブチ込む。
倒れる前なら分厚い脂肪の前に歯が立たなかっただろう。だが今は確かな手応えの元鮮血が舞った。
「ブギャァァァァァァァァァァァァ」
雄叫びを上げ怒り任せに槍を高速で突き出してくるが無駄だった。
ある時は躱し、捌き隙が出来た瞬間、同じ場所に追撃を入れていき、5回目で首が飛んだ。
周りには十数名の死体が有り負傷者も多く居たがそれは味方に任せダインとマリーの元へと急いだ。
少し時間は戻りマリーはハイオークとオークたちから逃げ回っていた。
ダインはさっきの衝撃からまだ回復していない。肩を貸し、時折オークを魔法で屠るがハイオークには上級の魔法でないと仕留められない。こんな周りが敵だらけで援護もない状態では隙だらけになる長い詠唱は無理なのだ。
しかもいつまでも逃げきれるわけではなかった。
追撃してくるハイオークの一撃でマリーは体勢を崩しダイン諸共転がる。
起き上がってマリーが見たのはハイオークがダインに向けてアックスを振り下ろすところだった。
ダインはマリーが転んだ瞬間訓練でその身に付けた受身を咄嗟に取り仰向けになっていた。それが功を奏しギリギリでアックスを剣で受けた。
本来ならそんな抵抗など関係なくダインは他の大人と同様に死んでいたはずであった。
「ナニ?」
ギリギリのギリギリでダインは耐えていた。
攻撃を受けた瞬間ダインの全身に衝撃が走り、骨と筋肉が悲鳴を上げた。だが同時に体が熱くなり力が湧いてくるのも感じた。
前にクリス王子と試合をした時と同じように胸が光りだした。だが今回はその光が全身を包み込んだ。ダインは返す刃で相手の足を狙ったが流石に素直に切られるはずもなく奴は大きく飛び退いた。
ダインは立ち上がり改めて剣を向ける。
するとダインを包む光は消えていた。
それを見たハイオークは目の前のガキが生き残ったことに納得した。体が光って自分の攻撃に耐えたが今は光っていない、倒せる!
短絡的であり先程まで逃げていた人間のガキと侮っていた。
ボトリ
肉塊が一つ地面に落ちた。
「ブギィギャァァァ」
続けてハイオークの悲鳴が轟く。
「オレノミギウデガァァァ、オノレェェ」
そう言って残った左腕で掴みかかってくるがそれも呆気なく切り落とした。
両腕をもがれたハイオークはもはやダインの敵ではなかった。
頭を討たれたオークは数体ほど襲ってきたが残りは撤退していった。
そこに光を纏ったクリスが合流したのだった。