初めての戦場
いよいよ戦場に到着しバトルシーンに突入。
一部残酷なシーンがあるので注意してください。
問題のチャンパに行くために俺らは巨大な倉庫群の一つに来ていた。床には巨大な魔法陣が描かれていて、周りは引切り無しに人が行き交っている。
「急げ急げ!敵は待ってはくれんぞ!」
「食料と救護物資は第二陣で行く。きちんと数と量を把握し報告しろ」
「どこ持っていくつもりだ!それはこっちだ、もたもたするな」
怒号が飛び交う中着々と準備が整い、兵が揃った。
「…揃ったようだな。これから行くのは戦場だ、各員油断するな!」
そして転移魔法陣の中に入り魔道兵が陣に魔力を流す。
魔法陣が光り、一瞬の浮遊感。そして目の前の景色が変わった。
先程まで石造りの広大な倉庫だったのに対して今いるのは木で覆われた建物だった。デリバフの倉庫よりは狭いのだろうが兵士が100人固まっていると余計に狭く感じてしまう。
だがそんなことは一瞬だ、周りのデリバフの兵は心得たものですぐに周りを警戒する。転移魔法は確かに便利だ、しかし転移の前後は全くの無防備状態となってしまう。ここを襲われれば訳の分からぬ間に殺られてしまうだろう。
しばらく警戒を続けたが何事もないので外に出る。もたもたすれば第二陣が来てしまうからだ。隊列を維持したまま進むと街の広場へと出た。
するともうそこには戦場の野戦病院さながらの風景があった。
怪我をして横たわる男たち、体に巻かれた包帯には赤い染みがべったりと付いている。呻き声を上げる彼らを女たちが必死に看護している。
しかし視線を移すと男性に覆い被さって泣いている女性とその横で泣く子供の姿も見えた。
もう何人か亡くなっているようだった。
暫くすると一人の男性が走ってやってきた。
年は50の半ばか髪は薄く白髪が多くなってきている。目には隈ができ、憔悴しているのがはっきり見て取れる。
「町長のエミールです。あ、あなたたちはデリバフから来た兵士の方々でしょうか?」
「そうです。歩兵80、魔導兵20のデリバフ兵100名と他3名が第一陣でこの後食料と救護物資が送られてくる手筈となっています」
その言葉に周りにいる大人たちは涙と歓喜で喜んだ。
「そ、そうですか。良かった、援軍が来てくれた。これで街が守れる」
「早速ですが状況の確認をしたいのですが」
「分かりましたすぐそこが私の館ですので話はそこで」
「では参りましょう。残りの者は命があるまで待機。………」
デリバフ軍の隊長が俺に目配せを送ってきた。付いて来いということか。
「行ってくる。二人はここで待っていてくれ」
__________
「改めまして町長のエミールです。この度はわが町の救難依頼に答えていただきありがとうございます。早速状況説明をしたいのですが隣の少年は…」
鎧を着て剣を刺してはいても10歳の少年だから疑問を持つのは当然と言えた。
「はじめまして。マリオン王国第一王子クリスと申します。この度は縁あってこの戦いに参加させていただきました」
「お、王族の方でいらっしゃいましたか!」
と、大慌てで異住まいを正し、お茶を出そうとしていたメイドは茶器を引っくり返しと色々あったが。
「おほん、度重なる御無礼、誠に申し訳度座いません」
「構いません。連絡もなく来たのはこちらですし、今回は王子ではなく一人の兵としての参加ですので」
「そ、そうですか。ではお言葉に甘えて、説明の方に入らせて頂きます。敵は確認したところオークの群れ単体で約200ほどです」
「200ですか。しかしそれぐらいならこの町だけで対処可能では?」
「はい、魔王が誕生したせいかわわかりませんが今では魔物の活動が活発になり昔と違い複数の魔物が同時に攻めてくることは珍しくございません。ですので今回はオークの集団200体だけ、恐れるものはないと戦いを挑んだのです」
「ですがそれだとこの状況が理解できない」
「確かに、他の魔物はいませんでした。しかしオークの上位個体が存在しておりました」
「上位個体?」
「ハイオークです。ご存知かと思いますがオークは下級の魔物に分類されます。その上位個体のハイオークでも下級の上で中級には及ばないとされているはずなのです!なのに私たちが対峙したハイオークは明らかに中級の魔物でした。しかもですよ、それが3体もです!」
「………」
「………」
説明を聞き俺は言葉も出なかった。
今後の方針を決めるため席を辞すると足早に屋敷から出た。広場へ戻り待機していた仲間に状況を説明すると皆一様に厳しい顔をした。
だが作戦は正攻法の力押し。3人~5人のグループに分かれ1体ずつ確実に潰していく作戦で行くようだ。
そうこうしている内に第二陣が到着し、支援物資が行き渡った。
作戦開始は明朝、こちらの兵と町の男たちの混成部隊となる。
俺とダインは剣の手入れ、マリーは瞑想と余念がない。町の食料事情を悪くさせないように食事は持って来た物で簡単に済ませた。
__________
翌朝、戦いが始まった。
すぐさま戦場は混戦状態になった。魔道兵は後ろの下がった場所から奥にいるオークへ向けて魔法を放ち数を減らしていく。時折、援護魔法や回復魔法が混じりこちらに有利な状況を作っていく。
だがそれでも血は流れる。下級のオークといえどそこは魔物、その体から放たれる強力な一撃をまともに食らえば人間など一溜りもない。
「ハァハァ、ようやく3体か」
「強い人たちはどんどん倒してますが張り合おうとするなよ。こっちは倒すのに相手の足を斬り飛ばす必要があるからな」
そう、周りの大人はオークの首を落とせば一発なのに対し背の低い子供の俺らは足を重点的に攻めてようやく倒せる。かと言って欲を書いて首を狙おうとは思わない。国での剣の修行ではダイン以外全員自分より背が高い。そんな相手に頭を取ろうとして飛び掛れば格好の餌食になる。これはもう身に染みて理解している。だから逆に背の低さを利用して相手を翻弄し3体ものオークを血祭りにあげた。
「けど、子供の私たちが踏ん張っている限り周りの大人たちは奮起し続けるわ。子供にみっともない所見せられないって」
そう言ってマリーは支援魔法を掛け直す。
今の混戦状況ではマリーの攻撃魔法は危険だ。デリバフの魔導兵は連携がきちんと取れているため問題はないがそれに合わせて魔法を使えというのは無理がある。だからマリーは支援魔法、俺が回復魔法を使って回復している。
「ーーーーーー」
だれかの叫び声が聞こえ“何か”がこちらに飛んできた。
地面にぶつかり転がった“何か”は先程までオークを倒しまくり奥へと進んでいったデリバフの兵の一人だった。
だがその人は上半身だけだった。鉄の鎧を着ていたにもかかわらず胸の下から真っ二つになっていた。
まともに見てしまったマリーは手で口を押さえうずくまった。俺とダインは吐きはしなかったが一気に血の気が引いた。
彼が飛んできた方に目を向けると一体の影がこちらにやってくるところだった。
そしてそいつがやってきた。
体にべったりと返り血を浴びたハイオークの一体がそこにいた。
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