大国への依頼、大国からの依頼
隣国デリバフ、この国について説明しておこう。
国土は我マリオン王国の約3倍、主産業は“転送魔法の独占”によってもたらされる運送業。
そのため内陸部にありながら新鮮な魚や山奥に自生する山の幸が並び『デリバフで揃わぬものなし』と呼ばれるほど各地との流通網を持っている。また鉱石や服装のもとになる絹糸も格安で流れてくるので街にいくつも工房が立ち最新の服装や“兵器”が誕生する。
これから魔王との戦いにおいて仲間にどうしても引き込まなければならない相手であり、デリバフが仲間になれば物資の心配が大幅に減り同調してくれる国の数が格段に跳ね上がる。そして“転送魔法の技術緩和”これが最大の難関であり最終的な目標である。
さて街道を進むこと4日、デリバフとの国境を越えてさらに進むこと5日。何事もなく進みデリバフの首都デリバリーに到着した。
「ふ~、明日がいよいよ対決の日ね。まぁ、多分相手にもならないんじゃないかしら相手は百戦錬磨のデリバフの王様よ?齢10歳のお子様王子じゃのらりくらりとはぐらかされて終わりってなってもおかしくないんだから」
「マリー、クリス王子を馬鹿にするな!そんな事此処に来る前から分かりきっていたことだろ!」
明日のために宿を決め部屋に入った途端これだ。
「二人とも落ち着け。マリーの言う通り相手はデリバフの王だ、いろいろ考えてはみたんだが相手の首を縦に振らすイメージが一向にわかない。正直諦め半分の出たとこ勝負になると思う」
全く、転生して交渉する相手が大国の王様とは、剣術は前世で剣道をしていたおかげですぐにモノにしたが魔法は一から勉強だから苦戦したがさすが異世界なんでもありか。
周りからの情報だと相手の王様はかなりのやり手なんだよなぁ。
「王子」
「心配するな。この会談が失敗してもすぐさま制裁が行われることはないだろう。大国であるデリバフともなればなおさらな。それに会談はこの1回だけで終わるはずはないしな」
「それもそうね、最終的な決定は王様同士がするわけだし少しぐらい肩の力を抜いても問題ないんじゃない」
「それだと相手が有利な条件でどんどん話が進められる心配がございますのでやめてくださいね」
「誰?」
扉を開けて入ってきたのは初老の男性だった。
「まずはご無事のご到着、ご苦労様でございます。私は外交を任されておる者の一人でカーサと申します」
ニッコリと笑って頭を下げられているのに背中にうっすらと汗がつたう。何もやましい事は無いのだが心の中を覗かれているような錯覚がする。
「よ、よろしく頼むよ」
「そんなに怯えなくて結構ですよ。私に心を読む力などございませんから」
「えっ」
「ほらほら顔に出ていますよ、こんなのは経験と技術です。明日の会談では王子は私の補佐です。デリバフ相手に王子だけで話し合いなど我が王はそこまで子に耄碌してはおりませんので」
すごいな、年の功っていうか年季が違う。
相手のペースに飲まれて反論できねぇ。
「ああ、後ろの二人は喋らなくて結構です。王子の護衛として立っているだけで十分ですから」
容赦ないな。
あ、反論しようとしたマリーがカーサの目線だけで黙らされた。
「それでは挨拶が済みましたので私はこれで、長旅でお疲れでしょうが余り羽目を外さぬようお願いしますね」
そう言ってさっさと自分が滞在している宿に戻っていった。
「なんか数分のことなのにどっと疲れたわ」
「俺も」
「同じく、老獪っていうのかなあれは…」
「まだ日も高いから買い物とかしようかと思ってたけど思いっきり釘を刺してきたわよねあれって」
「忠告通り素直に休むとするか?」
「それしかないだろ、後が怖い」
「じゃ、部屋に戻るわ。覗きになんか来るんじゃないわよ?」
「はいはい」「誰が覗くか!」
こうして俺たちは美味い飯と温かい風呂に入って英気を養った。
長旅の疲れからか横になった瞬間、眠りについた。
「おはようございます、王子。よくお休みになられたご様子。では、行きましょうか」
こうしてカーサさんを筆頭に馬車でデリバフの王城に移動。会談のため玉座の間ではなく王族や高位の貴族との話し合いに使われる一室に通された。
さすがはデリバフ、椅子やテーブルはもちろん飾り付のインテリアに至るまでこだわりが見える。現にテーブルの中央に飾られている花は南方に咲く珍しい花でならいだろうか、自分の国でこれを手に入れようとすれば一輪で軽く1千ゴールドからといったところか…。
「お待たせいたしました、お客人。何分、会議が長引いてな」
部屋の調度品を観察しているとようやくやってきた。
だが客人、しかも堂々と遅れてきて謝りもしない。隣国の王子といえども思いっきり下に見られているな。
「いえいえ、大国デリバフともなれば片付けなければいけない仕事は山と有りましょう。こちらはそこを無理にとお願いした客人でございますので」
すかさずカーサが嫌味で返した。すごいな、漫画やアニメである舌戦が目の前で繰り広げられる。絶対いま火花が散ったぞ。
「で、そちらが話題の勇者か」
「ええ、我がマリオン王国第一王子、クリス様でございます。10歳の誕生日の折、創造神様より信託を授かりました」
「……それで、魔王と戦うために我が国の力が欲しいと」
「………」
「だが協力するとしてそちらはこちらに何を支払うつもりだ?平和な世の中などというくだらん戯言は吐くなよ?」
「はい、もちろんでございます。そしてこれが国が出す条件でございます」
そう言ってカーサは懐から一枚の手紙を差し出す。
「………ほぉ、予てよりこちらが欲しかった品にこちらとの流通の際の関税を減らしてくれるか」
「はい、こちらが出せる友好の印でございます」
「だが、足りんな」
その言葉を聞いてつい口を挟んでしまった。
「では他に何を出せばいい!」
「ようやく口を開いたか。簡単なことだ、勇者と呼ばれる子供がいる、その子供や親たちが仲間を集めようと声をかけて回っているが肝心の勇者の実績が聞こえてこない。つまり、そんなケツの青い鼻たれ小僧に協力する気ははなっからさらさらないと言う事だ」
「なら、実績を積めばあんたは認めてくれるのか!」
「貴殿の背に我が国の命運を背負わせてもいいと思わせるほどならな」
「言質は取ったぞ」
「構わん、それにわしに恩を売るチャンスをくれてやる。ここから遥か西にあるチャンパという大きな街がある。我が国の得意先の一つだ。そこがオークの集団に襲われたらしい。今は門を閉じ援軍を待っている状態だ。我が国は数日の後、転送魔法で兵を送る手筈になっているのだが王子もその中にはいられますかな?」
「いいだろう、行ってやる」
「王子!!」
「済まないカーサ、父上に伝えてくれ必ず戻ると」
「…っ、分かりました」
「後ろにいるダインとマリーはともに連れて行く、構わないか」
「問題ありませんが死体が増えるだけでは?」
「心配ありがとうございます。私と同じ若輩ですが腕は確かですので」
「そうか、なら話し合いはこれでおしまいだ。準備が整い次第泊まっている宿に使いを出す」
「感謝します」
こうして俺はデリバフの王の出したオーク討伐に参加することになった。