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宮廷魔術師の溺愛

フィアードとティアナのいちゃらぶです。

最終決戦後と二人の初夜の翌朝です(≧∇≦)

夏の終わりにホットなやつをお届けします。

ギリギリR15で止めていますが、エロが苦手な方はスルーしてください。

 宮殿の奥、女帝の為に用意された寝室には重苦しい空気が立ち込めていた。


「……どうだ? 目は覚めたか?」


「まだよ」


 赤毛の大男が鍛錬を終えて戻って来たが、付き添いをしていた妻が力なく首を振るのを見てガックリと肩を落とした。


「フィアードは?」


「ずっと隣にいるわ……。このままだと、彼も参っちゃうと思うの。アルス、貴方から何か言ってちょうだい」


 アルスは頭をガリガリと掻き、閉ざされた扉を見遣る。




 ティアナとフィアードの二人は世界を終焉から救った戦いの後、戻って来なかった。


 心配したヒバリが探し、鷲獅子(グリフォン)で連れ帰って来たのだ。その時、ティアナの叔母、サーシャの亡骸も回収したが、敵であるデュルケスの死体は見付からなかった。


「……ああ……奴は……ドラゴンに喰われた……」


 なんとか自力で立っていた満身創痍のフィアードが事の顛末を話し、幻獣たちを引き上げるというドラゴンとの約束を告げると、眠ったままのティアナの上に覆いかぶさるように倒れ込んでしまった。


「おい……! 大丈夫かっ!」


「しばらく休めば大丈夫だ……」


 消え入りそうな声で言われたが、恐らくそう簡単には回復しないだろうという見立てだった。

 そもそもが、神族の村(ヴィーダガーベ)を襲った悪魔を撃退して魔力を枯渇させた状態で、無理やり魔石で回復した状態からのドラゴンとの戦いだったのだ。そこで更に魔力を完全に枯渇させたらしい。そう簡単には回復しないだろう。


 ヒバリとモトロが二人を看病し、丸一日経ってフィアードが目を覚ました。

 魔力はまだ回復していなかったが、日常生活には支障が無い程度には体力が戻っていた。


 彼は早速意欲的に動き出した。


 まずは各地への転移魔法陣の設置である。これが出来るだけで移動が格段に楽になる。

 問題は、その利用をどこまで認めるか、である。

 帝国の中枢に位置する者のみにその存在を知らせ、利用も限られた者だけするのかどうか。

 いずれは一般にも周知して利用できるようにするのか……などだ。


 フィアードは着々と準備をしつつ、手が空けば必ず眠り続けるティアナの傍にいた。


 その手を取り、祈るように自分の額に押し付けながら癒しの力を送り続けるのだ。


 転移魔法陣と魔法研究の合間はティアナの治癒。そんな毎日を送り続けるフィアードは目に見えて憔悴していった。


 一週間経ち、一ヶ月が経っても目を覚ます気配のないティアナを心配し、やがてフィアードは部屋から出て来なくなった。

 寝台の隣の机で雑務をこなしながら、ティアナの顔を覗き込み、手を取ったまま気絶するかのように眠る日々。


「おい……お前まで倒れたら困る。ちゃんと休んでくれ」


「……アルス……」


「どうしてここまで眠り続けるのか……お前にも分からないのか?」


「いや多分……、彼女の許容量を超えて力を使ったからだと思う。神の力が彼女を中継して一気に吐き出された」


「……それは……ティアナにどの程度の負担になるんだ……?」


「分からない。身体も心も、強すぎる力に引きずられたんだと思う……。俺に……漆黒(くろ)の力があれば……!」


 すっかり痩せ細った拳をきつく握りしめるフィアードに、アルスは首を傾げた。


「お前……昔、ティアナの力を借りてなかったか? その水晶を使えば、ある程度の制御は出来るんだろ?」


「……え……?」


 アルスの言葉にフィアードは記憶を手繰り寄せる。首の水晶に手をやって、小さなティアナから能力を借りた時の事を思い出した。


「そうか……!」


 フィアードは水晶に指を添え、もう一方の手でそっとティアナの額に触れた。


 ふわりと黒い靄が沸き起こり、ティアナの身体を包み込む。

 強すぎる力の行使で傷ついた心と身体の時間を少しずつ巻き戻し、傷そのものを無かった事(・・・・・)にしていく。


 蒼白だったティアナの頰にうっすらと赤みが戻り、その桜桃のような唇の隙間からハァッと小さな吐息が漏れた。


「ティアナ!」


 ピクリと瞼が震え、ゆっくりと色違いの双眸が開かれていく。


「……え……? フィアード……?」


 目を覚まして一瞬その姿を確認したと思ったティアナは突然視界を奪われて狼狽えた。何がどうなったのか分からないが、目の前には薄緑色の髪があって、そして弾力のある人の身体が自分を包み込んでいる事に気付く。


「……よ……かった……!」


 抱き締められている。その事に気付き、ティアナは顔が熱くなるのを止められなかった。


「あの……フィアード……?」


「ティアナ……ティアナ……!」


 身体を引き起こされて息も出来ないくらい強く抱き締められ、さらにその手が自分の存在を確かめるように背中をまさぐってくる。


「良かった……!」


 コツン、と額を合わせられ、ハシバミ色の目から熱っぽい視線を送られてティアナは落ち着かない気持ちになる。

 自分がどれだけ長い間眠っていたのか見当もつかず、とにかく戸惑いながらその温もりに身を任せざるを得ない。


ーー嬉しい……けど……! ち……近すぎないっ?


 大好きなフィアードが自分を抱き締め、口付けもかくやと言わんばかりの距離感で顔を近付けてくるのだ。今自分が寝台にいる事も併せて、恥ずかしくて仕方ない。


「ティアナ! 目が覚めたのかっ!」


 扉を開けて部屋に飛び込んできたアルス()達の姿を認め、ティアナは自分がどれだけ周囲に心配を掛けてきたのか朧げに理解した。




 ◇◇◇◇◇




 ボンヤリと目を開けると、窓から差し込む光の角度はもう随分と高くなっていた。


「あ……やだ……私……」


 こんなに寝坊したのはあの時以来だ。どうしたというのだろう。


 モゾリ、と寝台で身じろぎしてハッとした。


 シワだらけのしっとりと湿った寝台、そして一糸纏わぬ自分の胸元に散らされた赤い跡。身体は綺麗に拭かれてはいたが、昨夜の出来事が一気に蘇り、ティアナはその場に悶絶しそうになって慌てて周囲を見渡した。


「ティアナ、起きられるか?」


 自分が目覚めた事に気付いたらしいその声を聞くだけで身体が震える。


「だ……大丈夫……」


 朝食を運んできた侍女を扉の前で下がらせたフィアードが二人分の朝食を運んで枕元の小卓に盆ごと乗せて声を掛けてくる。


ーーそうだ……! 昨日……結婚したんだわ……っ!


 慌てて身体を起こし掛け、ティアナは自分の姿を思い出して赤面した。


「……あ……やだ……」


 身体の芯がまだ熱を持っているのが分かる。腰の重苦しさとヒリヒリとする痛みに顔を顰めながら毛布をかき寄せた。


 ギシリ、と寝台がきしみ、隣にフィアードが腰掛けた事に気付くと、ティアナは真っ赤になって俯いてしまった。


「ティアナ……」


 肩を抱き寄せられ、チュッとこめかみに口付けられる。


「そんな顔をすると、また襲いたくなるぞ」


「やだ……っ! もう……っ!」


 ティアナは慌てて夜着を拾い上げて身に付ける。薄手の布地でも何も着ないよりはマシだろう。


「何を今更……」


「もうっ! フィアードも何か着てちょうだい!」


 湯浴みをしていたのだろう。腰に手拭いを巻いただけの夫の姿に赤面するティアナの初々しさにフィアードは蕩けるような笑みを浮かべる。


「分かったよ」


 ああ、なんて可愛いんだろう。昨夜、戸惑いながら手を回して縋り付き、彼女が激しい痛みの中で背中につけたいく筋もの傷が疼く。


 この可憐な少女が自分のものになったという事実をその胸元の赤い跡が知らしめてくれる。


 またすぐにでもその柔らかい胸に顔を埋めたい衝動を平然と押し隠し、椅子に引っ掛けていた夜着を羽織って湯飲みに茶を注いだ。


「ほら、昨日からろくに食ってないだろう」


「……いただきます」


 言われてみれば空腹だ。喉も渇いている。


 ティアナはギシリギシリと軋むような全身を叱咤しながらゆっくりと茶を飲み、朝食に手を伸ばした。

 もう随分と冷めてしまっている。一体どれだけの間、侍女に待ち惚けをさせてしまったのだろう。ティアナは考えるだけで穴があったら入りたい気分になった。


 果物と粥。消化にいいものばかりだ。成婚の儀の準備と当日の疲れが溜まった上に、新婚初夜を迎えている主人を思いやっての事であるが、その心遣いがむしろいたたまれず、ティアナは深い溜め息をついた。


 食事を進めながら、寝台をそっと撫でて清めていると、フィアードが諌めるような口調になる。


「こら、侍女の仕事を取るなよ」


「だって……」


 こんなに汚れた寝台の後始末をさせるなんて、と恥じらうが、フィアードは難しい顔をする。


「俺達は夫婦になったんだから、恥ずかしがる事じゃないだろ? それに、侍女にも侍女の仕事がある」


「わ……分かってるけど……」


「……邪魔が一切入らない環境で、俺と過ごしたいっていうなら……それでも構わないけどな……」


 ふわりとティアナの全身を浄化して、フィアードがニヤリと笑う。


「あっ……! そうよ! 浄化できるくせに、なんで拭いたのよっ!」


「あ……ばれたか」


 初めての行為で疲れ果てて眠ってしまったティアナの身体は、魔術で清められた訳ではなく、固く絞った手拭いで隅々まで丁寧に拭かれていたのだ。

 誰が拭いたのか分かりきっているだけに、ティアナはそれに思い至って顔から火が出る思いをしたというのに。


 単純に拭く作業を楽しんでいた事を指摘され、フィアードは目を泳がせた。


「そう言えば……今日は朝の鍛錬はいいのか? 陛下」


 誤魔化すように言われてティアナは思わずムッとする。今更何を言うんだ、この男は。


「……っ誰のせいだと……っ! 意地悪……!」


 足腰立たなくしてくれた夫のせいで、起き出せなかったと言うのに。正直に言うと、朝食すら億劫なぐらいだ。


「悪かった……。鍛えてるから平気だと思って……」


 そう言いながら笑い、腰に手を回してくる夫の手を払いのける。


「フィアードの馬鹿ぁっ!」


「夫が妻を可愛がって何が悪いんだよ。今日から一週間は邪魔が入らないように取り計らってくれる筈だ。ゆっくり休もうぜ」


「……休める気がしないんだけど……」


 ティアナの消え入りそうな呟きはそのままフィアードの唇に飲み込まれてしまう。


 可愛い新妻を寝台に閉じ込めてじっくりと堪能できるのは最初の一週間が限度だろう。世継ぎを成さなければならないから、夫婦の営みは当然続くが、お互い忙しい身だ。邪魔の入らない蜜月を過ごせる貴重な時期。フィアードは容赦してやるつもりなど全くなかった。


「今までお前が俺を想ってくれていた気持ち……そっくり返してやるから……な」


 耳元で甘い声で囁かれ、ティアナはブルリと震えた。


「もう……充分間に合ってるから……んっ!」


 ティアナの訴えはすぐに嬌声に変わり、夫婦の寝室の扉は浴場に通じるもの以外はその後一週間開かれる事はなかった。




 成婚の儀から二ヶ月後、帝国には女帝の懐妊の朗報がもたらされ、国民達はまた歓喜の宴を開くのであった。

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