烏牛NO5
研ぎあげたマサカリを頭上高く両手で掲げて仁王立ちになって立つ。戸が開いた瞬間、視線が合うと同時にそのマサカリは眉間を打ち砕き反動で抜き返していた。その瞳の奥に烏牛ははっきりと見た。小さな点が一瞬ぴかっと光ったのを。昨日の最後に見えたのと同じだ。
心して烏牛は次の南出口戸正面の足場に立った。と、その瞬間、間違いない瞳の奥に何かが見える。撃った瞬間ぴかっと光ってすぐ消える何かがはっきりと見えるのだ。最後の一撃もそうだった。『何だろうあの光物は?』いつになくその夜は気になって寝入りが悪かった。
そしてまた夢を見た。もぐもぐしている牛になった自分を天井から見ている自分がいる。黒牛が毛布にくるまってベッドに横たわっている。とてもこっけいだ。天井の烏牛は牛の顔面に目を凝らした。もぐもぐとよだれをたらしながら下品に片目をまどろみながら見つめなおしている自分と、天井からぐっと間近に近づいて無骨な牛面を見つめている自分。
不可解極まったその瞬間、自らの瞳の奥底、眉間の裏奥辺りにあるではないか光物、ビー玉くらいの光物。『何だろうこれは?』とさらに天井の瞳が牛の瞳に近づいたら、光物は灰色から黄緑色にパッと変色した。
その瞬間目が覚めた。思わず天井を見上げ自分の眉間に手を当ててみた。まさかと思いつつ何もないのに安堵して、鶏の声を聞きながらいつもどうりに仕事に専念した。間違いなく光物はどの牛にもあった。それからの日は慣れてきて光物も次第に気にならなくなっていった。
つづく