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烏牛(うぎゅう)NO3

コツはただひとつ、マサカリを打つ瞬間かっと見開いた目で真正面から黒牛の瞳の奥をキッと睨みつけることだ。この牛は自分そのものだと念じて、全力を込めて自らを撃つ。撃った瞬間反動でマサカリを戻して半身に転身する。ガタンと大きな音がして奈落へ落ちる巨体の自分のなきがらのごとき牛。


無意識に自己自我を抹殺する行為、それがこの屠殺の瞬間であった。神々しいまでに彼は冷静であった。一度マサカリがよく研がれていないのを使用した時きわめて微妙な不快感を感じてからは、マサカリは毎日研ぎに研いだ。それ以降4頭仕上げた後の心地よい疲労感は何物にも代えがたいすこぶる充実したものであった。


そうしたある日烏牛はめったに見ない夢を見た。ふと目覚めると手も足もとても重たい。体全体がすごく重くて動かすのがとても億劫だ。何ということだ、声を出そうにも声が出ない。口の端からよだれがぬるりとたれる。手で拭こうにもその手がなんと黒牛の手だ。ゆるりと体をひねって立ち上がった。といっても四つんばいだが。まぎれもない烏牛は黒牛になっていた。そんな馬鹿なと思ったところで目が覚めた。


冷や汗で一杯だったがさほど気にはならなかった。夜明け間近だ、一番鳥の声が聞こえた。いつものように大きく背伸びをしてマサカリを吟味する。さあ仕事だ。完璧に研ぎあがった4本のマサカリを持って屠殺場へとむかう。今日も空気の澄みとおった少しひんやりとする朝霧の中だ。鶏の声が遠くでいつものように小鳥のさえずりと牛の鳴き声との中にはっきりと聞こえる。

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