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ことのは!  作者: しば
8/9

俺と体育倉庫

翌日…。

ー今日も学校かの。

学校は昨日で堪能したわ。

違うところにいかんか?

ぺしぺしと頭を叩きながら陽炎が言った。

…俺に学校をサボれと?

(学校ってのは行きたくなくても行かなきゃいけねぇんだよ。)

ー難儀じゃのー。

「なんや、また学校行くんかい。

暇やわー。違うとこ行かへん?」

「お前もかよ…。」

(揃いも揃って…。)

陽炎の声が聞こえてない白銀はなんのこっちゃ、と首を傾げた。

そんな白銀に俺は告げた。

「…てかお前帰れ。」

「なっ!?」

白銀は大仰に仰け反った。

「ひどいわー。そんな俺のこと嫌いなん?」

(嫌いなのはそっちだろ。)

それに白銀が来ると顔だけはいいこいつの周りに女が集まる。

うっとおしいことこの上ない。

俺の心の中の呟きに陽炎がそうじゃ、と頷いて小声で白銀に話しかけた。

「毛玉、そちの様な人嫌いがどうして慧にまとわりつくのじゃ!」

「毛玉言うな!毛玉!」

「…なんでだ?」

俺が見ると白銀はついと目を逸らした。

「そりゃ、あんたに死なれたら困るさかい、なあ?」

陽炎に同意を求める白銀を陽炎は胡散臭げに見た。

ーまあ、そうじゃがのう…。

陽炎は何処か納得してない様だ。

しかし、俺の呟きに質問をやめた。

(…あれは。)

ーなんじゃ?

「昨日の…。」

俺が昨日すれ違った男子校生だ。

俯きながら歩いている様は何処か生気がない。

それにしても…。

俺は横で歩いている白銀を見た。

白銀は男子校生を見てへらへらと笑っている。

この笑み、昨日も見た。

既視感を感じ記憶を探る。

(…!金髪と出会った時だ…!)

白銀は絶対に俺の知らない何かを知ってる。

と、俺の視線に気づいたのか白銀がこちらを向いた。

「なんや。俺の顔じろじろ見て。」

「…お前、何か知ってんのか?

ー?毛玉が何を知ってるというのだ?」

俺の質問の意味をこいつは分かっているのだろう。証拠に口角がにぃ、とあがる。

「もし俺が知ってたとしたらどないすんねん。〝命令〟でもします?」

確かに俺が言霊を発すれば白銀に吐かせることはできる。

白銀はへらへらしつつも目が真剣にこちらを見ている。

俺はその目をじっと見返して…

男子校生を追いかけるために走り出した。

「ほんまおかしなやっちゃな。」

後ろからそんな言葉が聞こえた気がした。


天宮高校の校庭は他の高校と比べてもなかなかに広い。

その隅にある体育館倉庫は体育祭の用具や、授業で使うボールなどが閉まってあり、普段ここに来る生徒はそうはいない。

朝は特に。

ガラッ

それが開き、倉庫内に人影が二つ移った。

「うっ…。」

「おら、さっさと入れよ。」

ドンッと突き飛ばされ、佐藤はつまづきそうになりながら中に入った。

佐藤が手をついた場所から埃がわっと広がり咳き込む。

そんな佐藤を気遣うでもなく西原は胸倉を掴んだ。

「おい、一日まってやったんだ。

さっさと出せよ。」

佐藤の顔を覗き込んだ西原は思わず身を引きそうになった。

佐藤は無表情だった。

そのなかにどろりとした憎悪に塗れて西原を睨んでいた。

「…な、なんだぁ?いいたいコトでもあんのかよ?」

「…ね。」

「はぁ?」

もごりと口が動いた。

「…ね。死ね。死ね。死ね!」

最後に叩きつける様に、佐藤は言い放った。

「お前なんか死んじゃえ!」

「白銀!頼む!」

ガシャン!

佐藤と西原が居たところに、ラインカーが二、三台落ちていた。

「ひぃっ…!?」

西原は現状を理解し、声にならない悲鳴をあげた。

西原と佐藤の首根っこをそれぞれ掴み持ち上げていたのは1人の銀髪の少年だった。


ちっ。

「あー、もう、めんどくさいわ。」

白銀は舌打ちすると二人を手放した。

よかった。もし白銀がいなかったら2人とも大怪我していたかもしれない。

俺は上を見上げた。

勿論、いくら狭い倉庫とはいえ、あんな真上にラインカーが落ちてくるわけがない。

(あいつのせいか…!)

昨日みた黒いモノ。

陽炎の声が聞こえた。

ー慧。あれは負の感情の塊じゃ。

言霊で消すぞ。

「…わかった。」

俺が声に出して返事をすると、掌の中に真白な刀が一振り現れた。

抜刀し、構える。

俺の様子を知ってか知らずか、黒い影は話し始めた。


ははっ!殺して何が悪い!?

憎んで何が悪い!?

こいつはそれ相当のコトをやったんだよぉ!


黒い影が金髪を睨んだ気がした。

金髪もそれに気づいたのかビクリと肩を強張らせる。

(こいつって金髪のことか?)

俺が眉を潜めて見ていると影を代弁するように白銀が言った。

「こいつはなー、このヒョロイ餓鬼から金巻き上げとったんや。

せやからその黒いけったいな奴はこのヒョロイ餓鬼の怨みの塊。」

白銀の言葉を聞き、金髪は怯えたように後ずさった。

「うわぁあ…。」

そんな金髪を白銀は嘲笑った。

「あんさんがそない恨まれとんのか。自業自得やなぁ。」

楽しげに白銀が嘲笑う。

白銀に呼応するように黒い影も笑った。


ふふっ。死ねばいいんだ。

こいつもこいつも!


黒い影は佐藤も見ていた。

ぼんやりと見ていた佐藤が顔をあげる。

「俺…も?」

ー自我まで持ち始めたか…。

もうあれはあやつの怨みの塊ですらないわ。

黒い影はゆっくりとこっちを向いた。


あんたの方が邪魔そう。

先に殺した方がいいかもね。


黒い影はゆらりと動くと、バレーボールのポールを掴んだ。

「っ!」

ダンッ

反射的に避けるとポールは倉庫の戸にぶち当たった。

戸がへこむ。

(当たったらやべぇ。)


あははははは!


黒い影は高笑いしながらポールを投げ続けてくる。

ガンッ ガキッ

そろそろ足の踏み場がなくなってきた。

(よけきれねぇ!)

俺は咄嗟に飛んできたハードルを刀で受けた。

ガキィ…ン

「…くっ。」

ー大丈夫か、けい!

ハードルが思いの他強く投げられていた為に思わずよろめく。


ははは!死ねよぉお!


一気に二三台のハードルが飛んできて俺はしゃがんだまま、刀を構えた。

ガシャン!

(!?)

ー毛玉!

ハードルは横にあるボール入れに曲がったまま突き刺さっている。

「はよせえよ、ボケ!

なんであんな攻撃投げるだけの雑魚に負けそうになってるんや!

こないな奴に負けたらゴリラのおっさんが泣くで!」

「…っ悪ぃ。」

まくしたてる白銀の横をすり抜け、倒れていた跳び箱に足をかけ

る。

「消えろっ!」

そして飛び上がり俺は刀を振り下ろした。


グシュゥゥゥ…


潰れるような音と共に言葉通り影が消えてゆく。

俺はそれを見届けるとずるずると座り込んだ。

(…しんど。)


ー終わったのぉ。

掌の中から刀が消え、代わりに女の子の姿が現れる。

「で?」

と白銀が声をあげた。

「どうすんねん。こいつら。」

(どうするって…?)

首を傾げる俺に白銀は呆れたようにいう。

「あほ。あれはこいつの負の感情が具現化したんや。この金色のにいちゃんを殺したいほど憎んでたってことやで?」

白銀の言葉に完全に腰が抜けた様子の金髪がびくりと身体を震わせた。

ー毛玉の言う通りじゃ。どうする?

俺は少し考えてからじわじわきてる疲労感を無視して立ち上がった。

「…そこの…あー…。」

話しかけて俺は名前を知らない事に気づいた。

「黒髪のやつ…。」

このメンツで俺以外で黒髪のやつは何気にこの影を出した男子校生だけだ。よくみるとすごいメンツだな。

そいつも自分のことだと気づいているのか顔をあげる。

「名前…。」

「さ、佐藤です…。」

(陽炎、刀になってくれないか?)

ー?わかった。

俺は掌の中に戻った刀を突き出した。

「…あんたがそこの金髪切ってほしいっていうなら切ってやるよ。」

ーけい?

陽炎が訝しげに名前を呼んだが構わず続ける。

「二度と面見せんなって言いたいのなら俺がそうしても構わない。

あんたは、こいつをどうしたいんだ?」

「僕は…。」

佐藤はしばらく考え込んでからゆらりと立ち上がると金色の前に立った。

「ひぃっ…」

怯える金髪に佐藤はゆっくりと手を振りかざし…

ガッ

多分、彼ができ得る限りの力で殴った。

「…これで、チャラにする。」

「そうか…。」

金髪は意外にも殴られたところを抑え呻いている。

自分は人に暴力を振るう癖に案外痛みに弱いのかもしれない。

「ああ、そこの金髪。」

「はっはいぃぃい!」

「あんたがこれからどうしようと俺には関係ない。だがもし俺のことしゃべってみろ。」

これは大事だ。

俺は震え上がる金髪を睨みつけた。

「ただじゃ、すまさない。」

「ひぃっ…わかりましたぁ!」

(ごめん、もどっていい。)

ー分かった。

掌の中から刀が消えると共に俺は狭苦しい倉庫から出た。


(もう1限終わったのか…。)

しかも2限が始まってる気がする。俺は白銀が出てくるのを待ってから正門に向かって歩き始めた。

ー授業とやらにでないのか?

「いや…サボる。疲れたし。」

今出ても授業を受けていられるほどの精神力がない。

「しっかし意外やなぁ。」

俺の隣で白銀が呟いた。

「?」

「あんたみたいなお人よしのことだからあの金色のにいちゃんに言霊で命令すると思ったわ。」

「…まあ、最初はそれも少し考えた…。」

そう、こいつに近づくな。

そう言ってしまえば一発なのだが。

「…でもそれだと佐藤って奴の根本の部分の解決にはならない…ような気がしたから。」

本当は言霊で言ってしまった方がよかったのかもしれないし、これで良かったのかもしれない。

まあ、なるようになれだ。

「ふぅん…。

それにしてもあんたがあない長くしゃべんの始めてちゃう?」

「…。」


家にて…

早退…というかサボった俺はあるモノを白銀に差し出した。

「これは…?」

「…黄色いキツネだ。」

黄色いキツネとは青いタヌキとならんで有名なインスタントうどんだ。

この前スーパーで見かけたので買っておいた。

「して、これはどういうものじゃ?」

好奇心たっぷりに尋ねた陽炎の前で俺は黄色いキツネの蓋を開けた。

「乾麺か?」

「なんや、食いもんの匂いするけどなぁ。」

見てろよ?

何故か優越感に浸りながら俺は持って来ておいたお湯を注いで蓋を閉めた。

「…あと5分…。」

「「?」」

ー5分後

「…うまいやん。」

最初、恐る恐る手をつけた白銀が目を見開いた。

「なんやこれ!うまいやないか!」

「ほお、凄いのぅ!」

陽炎がはしゃぐ。

陽炎も食べれるのなら持ってきたんだけどな。

陽炎は刀なので食べなくてもいいらしい。

次々に減っていく黄色いキツネをみながら俺は白銀に言った。

「それお礼。」

「ん?なんの。」

「助けてくれた。」

白銀は少し驚いたようにこちらを見た。

「ふぅん。まあ、本当は助けたなかったんやけど。」

ああ、そうですか。

しかし憎まれ口の後に小さな声でこんな言葉が聞こえた気がして俺は思わず笑いそうになった。

「せやけどまあ…おおきに。」

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