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ことのは!  作者: しば
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俺と力と妖

つまり、今の話を簡単にまとめると俺は〝言霊師〟らしい。

俺は驚くより先に納得した。

これで今までの俺のやって来たことが説明できる。

理解すると同時に俺は唇をかみしめた。

なんで俺に。

滅びたのなら滅びたままでいいじゃないか。

この望まない力のせいで、俺は…

ぺちん

(?)

口に何かが当たったと思えば、陽炎の掌だった。

「好きなだけ、しゃべるがよい。」

「…?」

陽炎はふっと微笑んだ。

「自由にしゃべれぬのはつらかろ。私が来たからには心配ない。」

「…お前…。」

「さっき言ったであろ?

言霊師は道具で力を制限するんじゃ。普通は幼い頃にやるのが常じゃがの。」

少女は胸をはった。

「私がけいと契約をかわしたからにはもう安心じゃ。力は私が制限する。」

「力を、制限…?」

「…信じてないようじゃの。」

信じてないというより、理解し難い。

俺の顔を見て陽炎はふむ、と考え込んでからひょいと膝から飛び降りた。

「では、実験でもするか。ほれ、毛玉。」

「誰が毛玉じゃ!」

「ぷっ、毛玉で反応したわ。」

「…。」

ぬぬぬ…と悔しげに唸る白銀を指刺して陽炎はちょいちょいと俺の裾を引っ張った。

「慧、この毛玉に何か言霊を発してみろ。」

(発してみろって言われてもな…)

力の威力は自分が一番知っている。

当たり障りの無い言葉を選ばなければならない。

2人はこっちを無言で見つめている。

しばらく考えた末、俺は沈黙を破るように口を開いた…。

「…おすわり。」

「おすわりってなんやねん!

俺は犬か!犬扱いか!」

ものすごいツッコミをいれる白銀に特に変わった様子はない。

(…何も、起こらない!?)

陽炎はうむ、と頷いた。

「今は力が制限されておるからの。じゃあ、今度は私を使え。」

(…!?)

そういった直後、陽炎の姿が霞んだ。

そして一つのカタチを成した。

「…刀!あの時の…」

白く艶のある鞘に柄と鍔が金色で装飾されている。

手を伸ばし、柄を握るとしっくりと手に馴染んだ。

昼間、必死に手を伸ばして掴み取ったモノと同じだ。

と、その時声がした。

耳で聞くのとは違う、不思議な響きだ。

ー聞こえるか?

(ああ。聞こえる。)

ー私は契約者と繋がっておるからの。それにしてもけいは心の中は饒舌じゃの。

ころころと笑うと陽炎は続けた。

ー今度は私を抜いて言霊をこめつつ毛玉を切って見よ。

(そんなことしたら、危ないじゃないか、)

ー大丈夫じゃ。そなたが斬りたいと願い、口に出さない限り私は何も斬れぬ。

本当だろうか。

鞘からスル…と刀を抜くとあの夜と同じ、静かに光を反射しながら刀身が出てきた。

ちらり、と白銀を見やる。

白銀に怯えた様子はなく、ただ早くせんかい、といった感じで俺の動きを見ていた。

俺はそろそろと刀を白銀に向け、ゆっくり触れるか触れないかのところまで降ろした。

ー言霊を述べよ。

陽炎の声に合わせ、空いている片手を突き出し言葉を放つ。

「…おて…。」

「犬から頭を離せや!」

(!)

キレのあるツッコミを放ちながらも白銀の片手は俺の手の上にポンと置かれていた。

「…した。」

ーじゃろ。それにしても毛玉が犬畜生のようにおすわりとは…楽しいのぉ。

笑っている陽炎の声は白銀には聞こえないのか特に反応した様子もなく手を退けた。

「あんたの力これでわかったやろ。」

白銀は紺色の瞳でじっと俺を見据えた。

「あんたは正真正銘、言霊師や。

俺、昔っから言霊師には縁があってなぁ。そいつに封印されてたんやけど。子孫が触れたら封印が解ける様にされてあってみたいでなぁ。」

そういって白銀はパッと掌を見せた。

「…これは…?」

手に黒々とあざのように浮かび上がっている。

「〝繋〟。つなぐ…。」

俺が読み上げると、白銀はすっと手を引いた。

「あんたが触れたおかげで封印解けた訳やけど、そのまま解いた奴と契約結ぶようしてあったらしくてなぁ。」

せやから、と白銀は続けた。

「けったいなことに俺とあんた、契約結ばれてんねん。

だから俺とあんたが契約破棄にならん限り俺はあんたと一緒に居らなあかん。」

最後にはぁー、とため息をつき白銀はズルズルと座り込んだ。

(…契約、か。)

狐と契約なんてこっちも願い下げだ。

(言霊で契約を結んだんなら言霊で解除すれば…。)

俺はそのまま持っていた刀を持ち上げようと力を入れた。

ー待て。

(…?陽炎?)

ーこの契約、生半可な力では解けぬ。

(そうなのか?)

ーうむ。それほど強いものじゃ。

…そうでなければ縛れないのだ。

あやつほどの妖は。

「あーぁ、ばれてしもた?

どうせ陽炎がいらん口出ししたんやろ?」

白銀はへらりと笑って俺をみた。

ぞくっ…

さっきと同じだ。

目だけ笑わず殺気に満ちている。

「もうバレたから言っとくけどなぁ、俺、人間嫌いやし。今、破棄してくれたら、恩人でも殺してまうかも。」

「…っ!」

張り詰めた空気は白銀自らが壊した。

急に殺気を消すとへらへらと笑う。

「あー、別に今殺すっちゅう訳やないし。契約結んだもんはしゃーないし!これから宜しくなぁ。」

(宜しくって…。)

固まったままの俺の肩をぺしぺしと叩きながら、ついでに爆弾発言をかました。

「これから同居するんやし、俺も同居人と仲悪いのは嫌やわー。」

「…はい?」

…俺の受難はまだまだ続きそうだ。

取り敢えずそれだけは分かった。



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