表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ことのは!  作者: しば
3/9

俺と銀髪


(化けた…!?)

少年はへらへらと笑いながらこっちをみている。

「……。」

「……。」

無言の見つめあいが続くなか、ふいに少年が首を傾げつつ口を開いた。

「…驚かへんの?」

(喋ったっ!?)

心の中では驚愕していたが、顔には出てなかったらしい。

少年は肩をすくめて溜息をついた。

「なんや、つまらんのー。

肝がすわってるっちゅーわけか…。」

「驚いてる…。」

俺がぽつりと言うとキツネが切れ長の目を見開いた。

「ええ!ないない!

あんた、めっちゃ無表情やし!」

(人外に、驚かれた…。)

「まあ、この際どっちでもええけどな。俺は白面銀毛の狐、白銀。」

少年はへらへらしたまま続けた。

「封印といてくれておおきに。

でも悪いけどなぁ、俺いい狐じゃあらへんし、折角だから自由を謳歌したいんや。」

わかるやろ、と言うと同時に少年が纏う空気が変わる。

冷や汗がつぅっ…と流れた。

「せやから、あんたにはしんでもらうわー。

あんたみたいな力もつもんがいたらまたいつ封印されてまうかわからんもんなぁ。」

(こいつ本気だ。)

直感的にそれを感じて、笑いながら近づいてくる少年に俺は後ずさった。

ギシリと床がなる。

一方、少年は足音たてずすべるように近づいてくる。

「そうゆうわけや。おとなしく死にぃ。」

(やられる!)

咄嗟に目をつぶった瞬間、どんと鈍い音が外から聞こえた。

バサバサと羽音もする。

「なんや、妖かいな。

間の悪い…。」

目を開くと少年は外と俺を見比べて舌打ちした。

「人間、あんたは俺が殺したるから、大人しく待っとけ。」

少年はそういうと社から出て行った。

(一体なにが…?)

社をでて俺は目を疑った。

社一体を何かがかこんでいた。

(さるか…?)

少年は割と余裕そうだ。

ゆっくりと周りを見渡す。

「お前らなあ、白面銀毛の妖狐サマをしらへんの?いま引かんと痛い目みるで」

『シラナイ。』

『ダレ、オマエ。』

「なぁっ…」

(知られてねぇじゃん。)

少年にとっては意外だったらしい。細い目をカッと見開いてふるふると震えている。

「こ、これだから青二才はっ…。

しゃぁないなぁ。ちっとおしえてやろかいな。」

割と恥ずかしかったのか、微妙に動揺を隠し来れてない少年は掌を徐に突き出した。

「蒼炎!」

少年は叫んだ。

「…。」

(…?)

何も変化はない。

少年は戸惑ったように自分の掌を見つめている。

「あれっ!?

でえへん?なんでや。」

よく状況はわからないが俺はここではっとわれにかえった。

あいつが何であれ、俺のことをよく思っていないのは分かる。

喋るさるも得体が知れない。

(逃げるなら、今か。)

そっと、境内に飛び降りる。

(社の後ろにはいないみたいだ。)

と、走り出そうとしたその時少年が振り向いた。

(ばれたっ!?)

しかし、少年は俺を見てはいなかった。

俺のもっと奥、茂みの奥の…

バキッ

(え…?)

俺は振り向いて…固まった。

目の前にあの猿たちよりでかい、大猿がいた。

『人と…狐か。』

他の猿とは違い、はっきりと人語を話すゴリラに俺は後ずさった。

(なんだ、これ?もうわけわかんねぇ。)

いつのまにか少年のところまで後ずさっていた俺と少年のまわりには完全に包囲網ができていた。

「猩々かぁ。

えろう久しぶりー。」

『封印がとけたのか。』

「今さっきなぁ。」

少年は真っ向からゴリラと向き合い、友好的に話している。

(もしかしたら、助かる…?)

少年はへらへら笑いながら言った。

「あんたんとこの部下は躾がなってへんなぁ。目上のひとを敬えって教えといてぇな。」

『ふん。もともとおまえに用なんてないわ。あるのはそこの坊主よ。』

(俺!?)

『そいつの力は強いからなぁ。

喰うたらうまそうだ。』

(喰う!?)

少年は俺の方をみてああ!と手を叩いた。

そしてニコリと愛想よく笑う。

「なんや、そーいうことかいな。

ならどーぞどーぞ、ゆずったるわ。」

(はぁ!?こいつ、俺差し出す気かよ!)

睨みつけると、少年はにこにこしながら告げた。

「そんな見つめんといてー。照れるわぁ。」

「…ってめっ…!」

俺は一言言おうとして、少年の表情の変化に驚いて思わず口を閉じた。

ふざけていた表情は一変し、視線は手に注がれている。笑っていないのは初めてだ。

少年は俺の手をとって呟いた。

「…あんた、この傷…。」

(…傷?)

『では頂くとするか。

狐よ、そこをどけ。』

(…っ!)

ゴリラの腕が伸びて来て、俺は目を瞑った。

そのとき、ぐいと腕を引っ張られて俺はバランスを崩した。

(痛っ…!)

反射的に目を開くと、少年の後姿が見えた。

ゴリラの腕は少年に掴まれていた。

(こいつが引っ張ったのか?)

『なにをする!?』

吼える猩々に少年がにやりと笑うのが見えた。

「いや、状況が変わってなぁ。

こいつ、あんたに食わせるわけにはいかんくなったわ。」

(?なんで…?)

少年とは逆に猩々の顔が険しくなっていく。

『畜生めが。騙しおって。』

「や、あんたも猿やんけ。」

そう言い返して、少年は俺の方を振り向いた。

「なぁ、〝力の解放を許す〟ってゆってくれへん?」

(?)

少年は続けた。

目が真剣に俺を見据えている。

「なぁ、あんたしゃべれんねやろ?あんたがそうせんと俺が力使えへんのや。」

(どういう、意味だ?)

『コロス。』

『タベタイ、ジャマスルナ。』

少年の言葉の真意を探る前に四方から猿たちが襲って来た。

俺の近くの猿が少年に蹴り飛ばされる。

「ほんま、どんな躾してるんや。

あの猿のおっさん。」

呆れたようにいいつつ、少年は殴り、蹴り、猿を倒して行った。

しかし、猿はすぐに起き上がる。

少年は舌打ちした。

「…きりないわ。こら、坊主!」

急に呼びかけられて俺はびくりと反応した。

「助かりたくないんかい!助かりたいならさっさといわんかい、ボケ!」

叱咤されて俺は覚悟を決めた。

「力の、解放を許可する!」

「…でるやんけ、声。」

少年は満足気に笑うとごうと炎を見にまとった。

「蒼炎。」

銀色の毛がぶわっと舞い上がる。

「ちぃっと、懲らしめたろか。」

ぼわっと一気に火力が上がり、俺は腕をあげて身体をかばった。

(焼かれるっ!?)

身構えてみても、熱さはおそってこなかった。

(あつく…ない?)

「そんな心配せんでも、この炎であんたを焼かれへんわ。

…ほんま厄介なことにな。」

少年は手に焔をまとうと猿たちの間に突っ込んだ。

青い炎がかすめるたびに苦悶のこえをあげ猿たちがたおれてゆく。

グギャァ

最後のヤツの断末魔が聞こえたと思ったとき、咆哮が響き渡った。

『おのれぇ、よくもわしの子等をぉ!握りつぶしてくれるわ!』

「めんどいし、長い間封印されてたもんで身体だるかったから下手にでとったけど…調子のんなや。」

「青爪」

五指が焔を纏い、鋭い爪の形になってゆく。

「さっさと逝っとけや…

さるのおっちゃん。」

少年は懐に入るとすっと腕を横に凪いだ。

『グギャァ…!』

巨体はたったのひとなぎで呆気なく真っ二つになった。

「あーぁ、ほんま疲れたわぁ。」

言葉通り焔を消した少年は軽くふらついている。

(大丈夫か、あいつ…。)

とその時、視界の隅に黒い影が入った。

(さっきのサルの…生き残り!?)

少年が振り向いたが、体制がぐらついている。

(間に合わない!)

俺は咄嗟に少年を突き飛ばした。

「あ、あほっ!」

(もう、間に合うわけ無いだろ。)

少年切羽詰まった声を聞きつつ俺は背中に衝撃を感じた。

そして続けざまに首が締まるのを感じた。

「…っが!」

最後の力を振り絞って殺しにきてる。苦しい。息が詰まる。

…意識が飛ぶ。

その時、声が聞こえた。

『我名は陽炎。』

りんと、鈴のような可愛らしい声が聞こえた。


(…静かだ…。)

真っ暗で何も見えない。

いや、そもそも目を開いているのかすらわからない。

しかし目の前に確かに何かの存在を感じた。

『主、己の力を何に使う?』

声が聞こえた。

(何って、何だ…?俺の力…?)

『主の願いは何だ。』

今度は確かにその何かを感じた。

掴もうと手を伸ばし、叫ぶ。

(俺は、誰かのために力を使いたい!もう誰も傷つけたくない!)

くすり、と声が笑った気がした。

『主が心意気、しかと受け取った。我が名を呼び使うがいい。』

「かげろう!」

手の中に何かの存在を感じ咄嗟に握りしめると俺は必死に腕を動かした。

「消えろっ!」

グギャア!

断末魔が響いて、一気に空気が入ってきて俺は咳き込んだ。

一気に疲労感が押し寄せる。

俺は眠気に逆らえずに、目を瞑った。

『主、やるのぉ。』

ころころと笑う満足気な声を聞いた気がした。


「やっぱこいつ、言霊師やったんか…」

(道理でうさんくさい匂いしとると思ったわ。)

銀髪の少年…白銀は、もともと細い目をもっと細めて倒れたニンゲンを見つめた。

(こいつ、さっきと気が違う…

戦いの最中契約したんやな。)

上にかぶさっていた猩々をどける。

「おい、起きんかい、坊主。」

ニンゲンはぴくりともしない。

力を使い果たしたのだろう。

(こいつは自分の力をしらんようにみえた…なのに。)

少年は突き飛ばされた肩に触れた。

(たかが人間のくせして俺のことかばいよった。)

「なんやねん、こいつ。」

考え込むように見やると、少年は立ち上がりため息をついた。

「それより、どないしよ、こいつ。」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ