覇王
結局どうすることが二人にとって最善だったのか、今となっては知る術はもはやない。ただ確かに言えることは、あの時彼らは彼らなりに最善を尽くし、その末路があれだったのなら、これは彼らの責任ではなくて、神の与えた残酷な運命だったといえるかもしれない。
幸と不幸は隣り合わせだから、目先の幸せに溺れていてはいつか足元を掬われて深い闇に沈み、浮きあがれなくなる。
でも神よ、これはあまりにも無慈悲ではないだろうか?
無力な彼らは必死にお互いのことを想っていただけなのに。
それだけではない。彼らの悲劇は半島のあちらこちらで嵐のように巻き起こった悲劇のほんの一つに過ぎない。この大地には同様の悲劇が、残された人々、消えた人々の遣りきれなくて流した暗涙が、擾乱の大地に染みついている。
ああ、神よ。これがかつての時の王と交わした楽園の契約の代償というのなら、後世の民のためというのなら、彼らの犠牲はやがて報われる日が来るのだろうか……? 否、彼らの悲しみは浄化されることはないだろう。何故なら、彼らは二度と過去へは戻れないからだ。
これは長い楽園の歴史から、神の目から見れば、刹那の些細な出来事なのかもしれない。
でもどうか楽園の民よ、せめてこれだけは覚えていてほしい。このことは決して他人ごとではないことを。
供物は供えられ続ける――まだ終わったわけではないのだ。
数百年毎に更新される残酷な契約。
今もまたこの大地に数多の血が流れ、染み込んだ。
神は必ずや契約を果たすだろう――自らの庇護下にある民の血と悲しみと、十分すぎるほどの命の代償に、時の王と交わした契約を。
そうでなければ誰も救われない。
エルドーラ侵攻を完了させたグラナートは、帰国後間もなく病死した父王の後を、やはり父王と時を同じくして事故死した異母弟たちに代わり継承して、半島を統べる王となった。
彼の即位直後に、この半島の混乱に乗じるように勃発した、半島を含む大陸東部全体を巻き込んだ戦争に、彼は闘神の如き勇猛さで見事勝ち抜き、その支配権を大陸の東部一帯にまで広げた。
大陸の民はその在位期間にただの一度の敗北を知ることもなかった東方の無敵の王を称え、また畏怖の念を込めてその容貌から『隻眼の覇王』と呼んだ。
エルドーラ陥落から約20年後。
大陸内の争乱が漸く下火になり、大陸の民が忘れかけていた平穏を取り戻しかけていた頃。
ディスル国王グラナートは突然王位をまだ年若い王子に半ば押しつけるようにして譲位すると、旧エルドーラの再建を託して姿を消した。
――その後の彼の消息は杳として知れない。
ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました。
過去作の改稿中心とはいえ、思うように書くことが出来なくてパソコンの前で唸る日々でしたが、ここまで何とか書き上げることができたのは読んで下さる方の存在があったからだと思います。
拙い作品でしたが、少しでも心に触れるものがあれば幸いです。
番外編は……何とか主人公二人の救済ができればなぁとぼんやり考えていますので気長にお待ちいただけたらと思います。
ここまで読んでくださった皆さまに最大級の感謝を。
柚原菜月 拝




