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望郷

 ロドニアの森は青々として美しく優しく、全てを包み込める大きな腕を持っている。

 その森で、少年と少女は出会った。


『グラナートだよ、ラウファレナ。君のことはセリスから聞いていたんだ。仲良くしようね』


 少年が差し出した手を、少女は恐る恐る取った。少年の手が思ったよりも温かったこと、少女の手が思った以上に小さく、柔らかだったことに、それぞれが新鮮な驚きを覚えたことをお互いはっきりと記憶している。


 病がちで静養のため王宮から離れ、親交のあったエルティース大公家に預けられたラウファレナと、母を亡くしたことで一層過激になった正妃の迫害を逃れるため、母の実家に預けられたグラナート。共に両親から離れて、親の愛情に飢えていた二人が幼いながらに惹かれ合うのに時間は掛からなかった。気がつけば、お互いが自分よりもかけがえのない存在になっていた。



『どんなことがあっても必ずあなたを守る』



 誰よりも愛しい、あなた。

 大好きな、ロドニアの森。

 優しい、ロドニアの人々。


 穏やかな楽園(ロドニア)での日々。

 あの頃はこれが永遠に続くものであると信じて疑いもしなかった。

 愛しいあなたがいて、その熱を近くで感じられることがどれだけ貴いか、その価値を分かっていなかった。誓った永遠は、未来は、理由もなく叶うものだと信じられた。


 思えば少年が歳に見合わない非凡な才能の片鱗を見せ始めたことが、終焉への始まりだったのか。彼の父が、それまで無関心だった少年へ興味を示し、王都への帰還命令を出した時にはもう、楽園は滅びてしまっていたのかもしれない。

 少女も成長に伴い祖国へと戻り、年に数回密かにこの森での逢瀬を重ねる以外は、伝書鳥が繋ぐ便りだけが二人を繋ぐ絆だった。それでも、想いは変わらず、お互い心のなかに確かにあると信じていたのに。


 出会ったことが、既に悪夢の始まりだったのだろうか。ならば出会わなければよかったのか?これは定めなのか、すべて。


 ああ、どうして今になってこんなことばかり思い出すのだろう。

 きつく抱きしめた体の温もりも、重ねた唇の熱も、吐息も、すべて今ここにあるように思い出せるのに。

 故郷は、楽園のような優しい森はもう失われてしまい、還ることはもはや叶わない。


 これは現実逃避なのか? この悪夢から早く目覚めたくてがむしゃらに足掻いた結果に見た幻想なのだろうか?


 ああ、この広い空のむこうであなたは今、何を思っているのだろうか。同じように楽園の幻想を見ているのだろうか。


 願わくば神よ、どうか今一度楽園の夢を。

 あの人の眠りに安らぎを。



 ―――慈悲あらば、どうか。




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