1―(4)「転校生」
町外れにある廃工場。寂れて使い物にならなくなったそれは、夜の暗闇により異様な不気味さを醸し出していた。
周りには建物はほとんどなく、点々としているだけ。
そのせいもあり、昼間はわずかにある人気も今はすっかり静けさを保っている。まるで世界に忘れ去られたような、そんな静けさだ。
気味が悪いといってもいい。
背後を振り向けばそこに誰かがいそうな、そんなまとわりつくような気味が悪さが辺りを支配している。
「ば、化物……!」
そんな廃工場の中で、一人の男がまるで何かから逃げるように走っていた。仕切りに「化物」という単語を口にして、その表情には恐怖が貼り付いていた。
何度も後ろを振り返り、何もないことを確認する。
視界は暗闇が支配するばかりで、数メートル先ですらもが見えないくらいだ。そんな中で何かが見えるとは思えない。
先にここに訪れた人間がいるのだろう。
床に散らばる鉄パイプに足をとられながらも、男は無様な醜態をさらしながら走る。
立ち止まってしまったら最後、それにのまれて二度と光を見ることが出来ないような、そんな恐怖が男を支配している。
「『化物』とはずいぶんな言いようだな」
「――っ!?」
唐突に上から響いてきた甲高い声に、男は恐怖をさらに強めた。
それでも立ち止まれない。立ち止まるわけにはいかない。
この廃工場には上へと繋がる通路は存在していないし、はしごなども設置されていない。
つまり、上から声が響くなんてことは絶対に有り得ないのだ。なのに上から声が響いてくる。そんな異常な現象が、男の恐怖をさらに煽る。
何も考えられない。何かを考えている余裕なんてものは、既に男の中には残っていないからだ。
「いつまでこんなことを続ける気なんだ?」
声がかけられると同時に、男は浮遊感を感じた。
足が床についていない。体が浮かび上がっているということに気づくまで、一〇秒以上も要した。さらに手足が全く動かない。
男は恐怖と混乱に押し潰されそうになりながらも、視界の先にひとりの人間を捉えた。
「蜘蛛の巣にかかったたら最後、逃げることなど出来ない。分かっているだろう?」
長細い、綺麗でしなやかな指が男の頬に触れた。
優しく微笑んでいながらも頬に感じる冷たさが、そいつの胸の内を表しているようで今にでも死んでしまいたい気持ちになった。
「解放されたいか?」
その問いかけに、男は即座に反応した。
ここから早く逃げ出したい。この恐怖から早く解放されたい。そんな感情が溢れてきたがゆえの反応の早さだった。
もしかしたら助かるのかもしれない。そんな淡い希望が、絶望しきった男に光として射し込む。
「私は強い奴が知りたいんだ。ここらにいる、強い奴を知らないか?」
強い奴の定義がただ単に腕っぷしが強いというだけなのか、他の強さになるのかはこの状況では考えることなど出来やしない。
だから、自分が知ってるなかで強いと思える男の名前を無意識に呟いてしまっていた。
「し、知ってる。私立桃園高校二年の、冬道かしぎ……あ、あいつはかなり強い」
「冬道かしぎ、か。なら、次はそいつで決まりだ」
まるで噛み締めるように、その名前を呟く。
「お、教えたんだから、早く解放してくれ」
「……あぁ、そうだな。解放してやる」
そいつはもう男のことなど、どうでもいいとばかりに上の空で答えると、今まで開いていた右手を握りしめた。
次の瞬間。確かに男は恐怖から解放された。
全身を切り刻まれる痛みに断末魔を上げて、気絶するというやり方によって。
「……つまらないな」
血だらけになり、床に横たわる肉塊となった男を見下しながら虚空に向かって言葉を投げ掛けた。
「冬道かしぎ……。今度は、楽しませてもらいたいな」
月明かりに照らされたそいつの口は、奇しくも今日の月のように、三日月に歪んでいた。
◇
「遅いです、先輩」
「……悪かったよ」
朝。玄関を開けた先に待っていたのは、不機嫌そうにしている真宵後輩のしかめっ面だった。
今日は真宵後輩が迎えに来るのが予想外に早く、準備を終えてなかったため急いで準備したが、結局十分も待たせることとなってしまった。
待つのが嫌いな真宵後輩からしたら、機嫌が悪くなるには十分な時間だ。
「なに玄関の前に突っ立ってんのさ! ちょっと退いて!」
「……っと、悪いな」
つみれは制服を着て、鞄を持って飛び出してきた。
俺はそれを間一髪に避けてつみれを見ると、もう既につみれの背中は遠くにあった。
「まだ遅刻するという時間ではないのに、何を急いでいたのですか?」
真宵後輩の疑問ももっともだ。
いつもより遅いっていっても登校時間まではあと二〇分もあるし、ここからつみれが通う中学まで歩いても一〇分もかからない。
「部活の朝練があるんだよ。本当ならもっと早く出ないといけなかったんだが、寝坊してな。ふぁ~……」
俺は口を手で隠しながら、盛大にあくびをする。
「ずいぶんと眠そうですが、夜更かしでもしたのですか?」
「まぁ……そんなところだ。昨日はつみれの練習に付き合って遅くまで起きてたからな。疲労も合わさって寝坊に繋がったんだよ」
まさか朝の三時まで付き合わされるとは思わなかった。
珍しく俺に練習に付き合ってほしいと言ってきたから付き合ってみたら、この有り様だ。
眠くて眠くてしょうがない。
「練習……。つみれ、でしたか。彼女は何の部活をしているのですか?」
「空手だよ。組手の方」
「……空手?」
何故か真宵後輩が訝しげに問い返してきた。
俺の妹、冬道つみれは何を隠そう空手少女なのだ。
去年は空手の組手で全国ベスト三に入ってるし、おそらく今年は全国大会で優勝も不可能ではないはずだろう。
さらにもう様々な高校から推薦も来てるみたいだ。
「……夜遅くまで兄妹で組手、ですか?」
「なんでそんな疑われそうな言い方すんだよ」
「他意はありません。ただ、夜遅くまで兄妹といえど男女が交わるような行為は感心しません」
目を細めて怪しんでいる真宵後輩の視線に、俺はため息を漏らす。
別に俺は血の繋がった兄妹同士で過ちを犯す、なんていう特殊な趣味は持ち合わせてはいない。
「だいたい、空手の全国レベル程度が、先輩の相手になるはずがないじゃないですか。新手のいじめか何かですか?」
「同じ土俵に立ってみるとそうでもねぇよ。何回か危なかったし」
空手のルールが分からないし、本気じゃなかったとはいえ、何回か踏み込まれるときがあった。
つみれからすれば踏み込めないことが驚きみたいだったが、俺的には踏み込まれたのが驚きだ。
そして隣を歩く真宵後輩も驚いていた。
「……先輩の妹は化物ですか?」
「失礼な奴だな。化物じゃねぇよ、至って普通の女子中学生だ」
「普通の女子中学生は先輩に危機感を抱かせません」
真宵後輩は俺のことを過大評価しすぎていると思う。
こっちに還ってきて肉体の鍛練はリセットされた。
なら、同じ土俵に立ってルールが分からないんだったら、危ないと思うことのひとつくらいはある。
危ないといっても、踏み込まれそうになっただけで、触られてもないんだから大したことじゃない。
「先輩は自分の力を過小に評価しすぎです。あの魔王とやりあったのですから、もう少し自覚を持ってください」
「俺が誰にも負けないってことをか?」
「そうです。身近な人間に危機を感じるようでは、皆に会わせる顔がありませんし、安易にそんなことを言わないでください」
仲間想いというかなんというか、とにかくむちゃくちゃな言い分だった。
真宵後輩は最初こそ全てを受け入れない姿勢だったが、旅をするうちにそれが徐々に変わっていった。
最終的には、仲間を絶対に見捨てることのない主人公みたいになっていた。
様々な出会いと別れを経験して、成長した結果だと思う。
「分かったよ。今度から気を付けさせていただきます、真宵後輩?」
「……なんだか、凄く馬鹿にされた気分です」
「馬鹿になんかしてねぇって。皆のことが大切なのに、素直になれなかった真宵後輩のことを馬鹿にするわけねぇよ」
「な、何を言っているのか分かりませんが……」
「あ? もしかしてバレてねぇと思ってたのか? お前が仲間のことを大好きなのはとっくの昔に気づいてるっての」
それを聞いた顔を真っ赤にして、真宵後輩はうつむいてしまった。
普段が普段なだけに、そういう一面を知られるのが恥ずかしいのだろう。
しかも本人たちの前では恥ずかしくて素直になれてなかったことを指摘されたんだ。真宵後輩でなくても恥ずかしいに違いない。
ふと、視界の端に淡い光が発光しているのに気づいた。
真宵後輩が握り締めている首飾りからだ。
「おいおい……照れ隠しにこの街を消し炭にする気かよ……」
「そんな気はありません。せいぜい、先輩の塵が残らない程度のしてあげます。安心していいですよ? 痛みは一瞬です」
「安心できねぇよバカ。さすがにそれを受け止めるとなると、俺も『天剣』を使わないと無理だぞ?」
俺は首飾りを握り締め、真宵後輩に見せつけるようにする。
真宵後輩の首飾り同様に、俺の首飾りもわずかに淡い光を放っている。
「冗談です。そこまで本気で対応しなくても大丈夫です」
「お前が言ってると冗談に聞こえねぇよ」
普段からほとんど表情を変えないだけに、そういうこと言い出すと本当にやりかねない。
「それよりコンビニ行こうぜ。朝、食ってねぇんだ」
「仕方ないですね」
そう言って首飾りから手を話した真宵後輩の姿を見て、胸を撫で下ろす。
本気でやろうとは思っていないだろうけど、やっぱり身の危険があるならその可能性を潰しておいた方が安全に決まってる。
こいつは本当にやりかねない。
以前に同じようなことをやって、本気で殺されかけたのはいい思い出だ。今思い出すだけで冷や汗が出てくる。
俺の気持ちを知ってか知らずか、真宵後輩は涼しげな表情で俺の前を歩く。
「もちろん、依頼を受けたのですから報酬は貰えますよね?」
「……等価交換ってか?」
「違います。正当な報酬です」
無表情な彼女にしてはずいぶんいたずらじみた笑みを浮かべている。
こういうのを見ると、本当に変わったと実感する。
あったばかりのときは、まさかこんな風に笑みを浮かべたりするなんて夢にも思わなかった。
こうやって笑ってたら、普通に美少女で可愛いのにもったいない奴だ。
小さな顔に大きな瞳、柔らかそうな唇にスカートから覗く太ももからは色気が放出されている。
体のメリハリが乏しいといっても、本当にぺったんこなのではなく、バランスがとれている。スタイルがいいというわけだ。
性格に難があっても、モテる理由がこれだよ。
世間一般からしたら真宵後輩はとんでもない美少女なのだ。
「なら、仕方ねぇか。今日だけだからな」
「当然です」
自動ドアが開き、中に入る。
俺は朝はがっつり食べておきたい人間だから、弁当コーナーに足を進めていたのだが、止めることとなってしまった。
真宵後輩も同じだったようで、さっきまで楽しげな笑みを浮かべていたにも関わらず、今は無表情に逆戻りだ。
それだけでなく、なんだか珍獣でも見るような目で、それを見ている。
「……なんですか、あれは」
「俺が知るかよ」
短いやり取りのなか、俺たちはただ一点だけを凝視していた。
弁当コーナーの前に立ち、周りを寄せ付けない……というよりも寄ってはいけない雰囲気を醸し出していた。
そいつは女の子だ。太陽の光を受けて輝きそうな綺麗な金髪を一本にまとめ、難しい顔をしながら並べられた弁当を品定めするように凝視している。
俺や真宵後輩と同じ制服を着ていることから、同じ私立桃園高校に通っている生徒だということが分かる。
だけど、俺たちは……少なくとも俺はあんな生徒は知らない。
知らないにしても、あんな目立つ容姿をしてたら同じ高校の生徒なら忘れられるはずがない。
「見たことない人ですね。かしぎ先輩はあの人のことは知ってますか?」
「俺もあんな奴は見たことねぇな。見たら忘れられそうにもないし」
どうやら真宵後輩も見たことがないらしい。
ただ、真宵後輩の場合は他人に興味を示さないから見たことがあっても覚えていないだけなのかもしれない。
それにしてもあいつ……隙がない。
普通、人間というのはいくら警戒しても隙が簡単なくなるものじゃない。長い経験を経て、ようやく自分だけが持つ『隙』を自覚できるようになる。
そうすることでその隙に気を張り巡らせることが出来るようになり、初めて隙がなくなる。
それは並大抵なことでは手に入れられない感覚だ。
手に入れていることには今さら驚きはしないが、何故、そこまで隙をなくそうとしているのかが疑問に残った。
「……気にしても無駄か」
「何が無駄なんですか?」
「あっ、いや……何でもねぇ」
無意識に呟いたのを真宵後輩に聞かれていたようだ。
とにかく、あいつが隙を見せないようにしていても俺には関係ない。考えても無駄ってことだ。
「弁当じゃなくて、パンにするか。なんか、近づきにくいし」
「そうですね。では私はこの、ジャンボパフェを」
おいおい、なんでコンビニのデザートコーナーにそんなにデカイパフェなんて置かれてるんだ?
普通のファミレスとかで出そうな大きさだろ。
真宵後輩も目を輝かせて買えと催促してきている。
「はぁ……」
ため息しか出てこない。
結局、俺の財布にはジャンボパフェを買うだけの金しか入っておらず、自分の朝飯は買えず終いになり、コンビニをあとにした。
あの女の子の視線を、背中に感じながら――――。
◇
俺が教室に来ると、何故か異様な盛り上がりを見せていた。
いつもの騒がしさとはどことなく違う、いうなればそわそわした騒がしさとでもいうところだろうか。
今から珍しいものでも見れるかのように、待ちきれないという気持ちがひしひしと伝わってくるのが分かる。
こいつらはいったい何に盛り上がってるんだ?
「どうしたんだ? 突っ立ってないで早く入れよ」
「柊か。お前、なんでこんな状況になってるか分かるか?」
「こんな状況? ……なんか、そわそわしてるな」
教室に入った柊の言葉に「だよな」ど同意して、自分の席につく。
おそらく俺たちを除く全員が、このそわそわしてる原因を知っているのだろう。
それを知らない俺たちは、除け者にされてる感じが拭えない。
例えそれを知っても俺たちは騒ぐようなタイプじゃないから、どうせ変わらないだろうけど。
それでも気になるという点では変わらない。
「おはよう。相変わらずかしぎと詩織は仲がいいな」
俺たちが席に座るのを見計らったように、今まで他の奴と話していた両希がやってきた。ていうか……。
「なんで毎朝同じ定型文で挨拶してくんだよ」
「それはお前らの仲がいいからさ。僕が見るとほとんど一緒にいるからな。こうなるのも仕方がないんだ」
何が仕方がないんだ、だ。俺と柊が一緒にいるからって毎朝、同じ言葉で挨拶してくんなよ。
「で、なんでこんなにそわそわしてんだ?」
「かしぎは知らないのか?」
「知らねぇから訊いてんだろ。知ってたらわざわざ訊いたりしねぇよ」
「それはそうだな。確かな情報ではないのだが『藍霧真宵ファンクラブ兼精鋭部隊』のひとりが、ある情報を掴んだんだ」
『藍霧真宵ファンクラブ兼精鋭部隊』って、ストーカー紛いなこともしてる団体だったはず。そんな団体が何の情報を掴んだんだろうか?
「今朝、金髪美少女が職員室に行くのを見かけたらしい」
「それって、転校生ってことか? だからみんなそわそわしてるのか」
柊は両希の言葉でそわそわしてる原因を納得してしまったらしい。
俺としては、疑問の残る解答だ。
中学までなら転校生が来るのはおかしな話ではないが、高校になってから転校生が来るなんてかなり珍しい。
しかも進級してから一ヶ月も経っていない今の時期に転校してくるなんて不自然だ。
さらにコンビニで見かけた、私立桃園高校の制服を着た金髪の女。
どうもそれらが無関係であるとは思えない。
「どうしたんだよ、冬道。難しい顔なんかしやがって」
「別に難しい顔なんてしてねぇよ。ちょっと気になったことがあっただけだ」
あの金髪の女が隙を見せないようにしてなかったら、たかが転校生なんか気にならなかったはずだ。
経験上からして、こういった奴は面倒な出来事を持ち込んでくる。
それがなんであるかは想像できないが、もしかしたら、面白いことになるかもしれない。
そう考えるだけで、今まで冷めきっていた何かが奮い立つような感覚が胸の内から沸き上がってくる。
「気になったって……金髪美少女のことをか?」
「なんでそんな変なとられ方しそうな言い方なんだよ……。他に言い様ってもんがあるだろ?」
「言い様なんてどうでもいいんだ。今は、お前が他の女に興味を持ったということが重要なんだ!」
「なんでいきなりそんなに熱くなってんだ……」
拳を握り締めて、唐突に沸点を超えた両希は、二学年になってから一ヶ月も経っていないのに名物となりつつある『力説』を始めようとしていた。
こいつ、わけの分からないタイミングで叫ぶよな。
昔からそうだ。何かがあるとすぐに叫んで、皆の注目を集めてたっけ。
「お前が他の女に興味を持ったということは、我らが藍霧真宵はお前の魔の手から解放されるんだ!」
魔の手ってなんだよ。俺の右手には何か魔的なものが宿ってたのか? 疼いたりしてるのか?
そいつは驚きだ。俺も知らなかった。
「別に俺があいつに近づいてるわけじゃなくて、あいつの方から俺に近づいてきてるんだぜ? そういうのは関係ないんじゃねぇの?」
「彼女も他の女を連れた男になんか近づかないはずだ」
なるほど、そういうことね。お前はあいつの本性を知らないからそんなことが言えるし、ファンクラブなんかに入っていられるんだ。
俺は知っているぞ。あいつの本性を。
気に入らない奴は正面から叩き潰す、欲しいものは略奪をしてでも手に入れる。魔女みたいな女だ。
お前らにそのことを伝えてやりたいものだ。
やったらやったで後が怖いから絶対やらないけど。
「残念ながら、俺はそんなに軽くはねぇ。親しくもない奴に興味なんか持たねぇよ」
「でも気になったって言ったじゃねえか。矛盾してるぞ?」
「そういう気になったじゃない。まぁ……俺にも色々考えがあるんだよ」
まさか『戦い』の匂いがするから気になったなんて、こいつらに言えるはずがない。
本当にその匂いが『戦い』から漂うものなら、こいつらにそれを言ってしまえば、巻き込んでしまう可能性がある。
俺は自分のわがままで他人を巻き込むようなことはしない。絶対にしたくない。
「かしぎの考えはろくなことじゃないと思うがな」
「うっせぇ。お前の怪しげな団体よりはマシだ」
「……怪しげな団体、だと?」
やべっ。なんだか変なスイッチ押しちまったかも。
こいつの真宵後輩に対するこだわり方って凄いからな。神を崇拝するような勢いだし。
『藍霧真宵ファンクラブ兼精鋭部隊』にとって真宵後輩は神みたいな存在なのかもしれん。
それを崇める団体を馬鹿にされたんだから、黙ってられないってところか?
「その言葉は聞き捨てならんぞ。いくらお前に対する闇討ちを揉み消したとしてもだ!」
「あっ、冬道の闇討ちの件って揉み消してくれたんだ」
そういえば闇討ちするみたいな話があったな。
すっかり忘れてたけど、まさか両希が揉み消しててくれたのか。変なところで律儀だよな、両希って。
そんな両希は自分が言ってしまったことをようやく理解して、何故か照れていた。
「お、お前のためじゃないぞ! 確かに幼馴染みだが、そんなことよりもお前に怪我をさせたら、藍霧真宵が悲しむと思ったんだ! それだけだからな!」
「はいはい、そうかよ。ありがとな、両希」
「……べ、別に礼なんか言われることはしていないさ。その言葉は藍霧真宵にやるべきだ」
「お前がそう言うならそうしとくよ。幼馴染みだからな」
俺がそういうと両希は椅子に座り、そっぽを向いてしまった。
そんな反応を見て柊が笑いを堪えている。失礼な奴だな。
それからしばらくして、教室のドアが開かれた。
と、同時に、教室から感嘆の息が漏れる。
その原因は明確にして明らかだ。担任の後ろについて入ってきた、ひとりの少女がそれを引き起こしたのだ。
「もう知ってる生徒もいるみたいだが、今日は転校生を紹介する」
もはや決まり文句となりつつあるセリフを受けた少女は、一歩だけ前に出る。
たったそれだけの動作にも関わらず、どことなく気品を感じる。
とてもじゃないが、朝、コンビニで弁当とにらめっこをしてたとは思えなかった。
「アウル=ウィリアムズです。母の都合で今日からここに通うことになりました。よろしくお願いします」
凛とした口調で、アウル=ウィリアムズはアメリカから来たとは思えない、悠長な日本語で言った。
改めて見てみると、確かに日本人とは作りが違う。
染めたのではない純粋な金髪に、目付きの鋭い碧の瞳。女性からすれば高めの身長にスラッとしたモデル体型。
異性だけでなく、同姓をも虜にしてしまいそうな顔立ちは、どことなく冷たさを感じさせるものがある。
そして、相変わらず隙を見せないようにしている。
俺と一瞬だけ目が合うが、何事もなかったように外される。
そういえば、朝は俺が見つけただけであっちからは見られてないんだっけ。それじゃ、分かるわけないか。
「アウルの席は、一番奥だ」
担任の言葉に一回だけ頷き、廊下側の一番後ろの席に腰をおろした。
残念ながら俺の席からしたら反対側になってしまった。
周りに空いてる席がなくて、あそこしか空いてなかったんだから仕方ないといえば仕方ない。
席についたアウルを見るが、下らなそうにクラスを見つめている。
やっぱり、あいつは面白いことを運んできてくれそうだな。
俺は人知れず口元を歪ませながら、担任の話すアウルの転校してきた経緯を聞き流した。
◇
転校生の宿命というべきか、担任の話が終わった直後にアウルの席に生徒が一斉に群がっていた。
その群がりようは餌を見つけたハイエナの如し。
転校生が来たからって、実際にこんな風に群がるなんて思わなかった。これでまたひとつ、無駄な知識で頭が埋まったような気がする。
ちなみに俺や両希、柊はそこにいない。
教室の窓側、つまりは世界から切り離されたかのように寂しい空間にて、鬱陶しそうにしながらも律儀に質問に答えているアウルを見ていた。
「あんなに群がって、迷惑だとか思わねぇのか? あいつら」
「気になるものは仕方ないんじゃないか? 転校生が外国人で美少女なんてまず有り得ない。だから、少しでも話しておきたいんだろ」
どうせすぐに興味がなくなる……いや、真宵後輩にファンクラブなんてのが出来てるくらいだから、あいつにもファンクラブが結成したとしても不思議じゃないな。
「……なぁ、冬道。なんで両希の奴、あんなに怒ってんだよ。お前なんかしたんじゃないのか?」
「俺のせいじゃねぇだろうよ」
柊の言う通り、隣では両希がお怒りの様子だった。
もちろん理由は分かってる。
『藍霧真宵ファンクラブ兼精鋭部隊』に所属している奴らが、アウルのところに行ってしまったからだ。
同胞としては、見過ごせない事態なんだろう。
「全くあいつらと来たら……。『藍霧真宵ファンクラブ兼精鋭部隊』に属しているくせに他の女に鼻の下を伸ばすとは……」
俺的には、ロリの部類に当てはまる真宵後輩に鼻の下を伸ばしてる方が、よっぽど怒られそうなことだと思う。
犯罪にだけは走らないようにしてくれよ? ……違うな。真宵後輩に犯罪に走らせるような行為をしないようにしてくれよだな。
真宵後輩なら本当にやりかねん。躊躇がないからなぁ。
あっちにいたときに俺も本気で殺されそうに以下省略。
「そういうお前は行かないのか? 別に行っても問題ないんじゃねぇの?」
「行かない。僕は金髪より黒髪の方が好きなんだ」
「真宵後輩みたいな?」
「おう」
一切の迷いなく、言い切りやがった。真宵後輩のことだけに。……上手くねぇな。
なんで真宵後輩にそこまでこだわるのかを知りたいとは思わないが、少しくらい他の女に興味を持っても罰はあたらんだろうに。
「お前こそ行かないのか? 興味あるみたいなことを言ってたが」
「行かねぇ。あんな人混みの中に突っ込む勇気と根性は、小学生のうちにサンタがいるっていう夢と一緒に捨ててきたよ」
「ずいぶんと昔に捨てたんだな……」
捨てた云々は適当だが、俺は単に人混みが嫌いなんだ。時間が経てば話せるようになるのに、わざわざ行く必要はないだろ。
だいたい、今すぐに話したいこともないし。
柊も同じような理由で行かなかったんだろう。俺の言葉に頷いて同意している。
「それに、あぁいうタイプは騒がしいのを嫌うタイプだ。少しでもそっとしてやった方がよくないか?」
「ホントにちょっとだけどな」
そこはツッコンじゃいけないところだ、柊。その小さな積み重ねが、大きな成果となるんだ。塵も積もれば山となるって言うだろ。
「つーか、転校初日の初っぱなから体育ってなんだよ。嫌がらせか?」
「そういう時間割りなんだから仕方ねぇだろ。文句言うな、冬道」
「いや、俺は文句なんてねぇけど」
でも、もし俺が同じ立場だったら嫌だな。
ストレッチとか二人一組でやるようなことがあったら余りそうだし……って、あの人気じゃそれはないか。逆に引っ張りだこだな。
「今日は男女合同体育だったか?」
「おう。だからあたし達も着替えたんじゃねぇか」
今の今まで言ってなかったが、俺たちは体操服で会話をしている。
半袖短パン。絶滅危惧種であるブルマも校則では穿いていいことになってるが、自分から好んで履く奴はいない。
そういえば一回も見たことないな、ブルマ。
「柊はブルマ穿かねぇの?」
「バカ言うんじゃねぇ。誰がブルマなんて穿くかよ」
ですよねー。自分から穿きたがる女子なんているはずがないですよねー。
隣では真宵後輩のブルマ姿を妄想して悶絶しそうな変態がいるが、気にしない。俺の視界にはそんな奴は映ってない。
「今の時代にブルマがある意味が分んねぇ」
「体操服を忘れたときの保険だろ? 男共に変な目で見られたくなかったら、忘れてくんなってことなんじゃねぇの?」
「誰もあたしのブルマなんて見たくねぇだろ」
「そうでもねぇよ」
真宵後輩やアウルと違ってまた、柊も美少女の部類に入る。
あの二人は遠い、高嶺の花みたいな空気を無意識に放出してるが柊は身近にあり、それでいて美しく馴染みやすいって感じだ。
言い方は悪いけど手頃な美少女ってところだ。
「少なくとも俺は見てみたい」
「はぁ? なんであたしのブルマ姿なんて見たいんだ?」
「そりゃ、お前は美人だし可愛いから……あ」
なんて恥ずかしいことを暴露してんだ、俺は。無駄に話しやすいから本音まで出しちまったよ。
しかし言われた柊はというと、きょとんとしていた。
「面白いこというな、冬道って。今年一番の面白さだぜ」
「本当のことなんだが……」
「あたしが美人なら、世間には美人が溢れかえってるよ」
こいつ、典型的な自分の容姿が優れてるのがわからない奴だ。しかも極度の。
自分の容姿を自覚して高飛車そうにしてるよりは大分マシだが、これはこれで質が悪い。
美人に後ろから抱きつかれたりしたら、自分に好意があるんじゃないかと期待してしまう。もしそれで玉砕したときのショックは、もはや計り知れない。
「そろそろ時間になるし、早く行こうぜ? 遅れるとうるさいから」
「そうだな。おら、悶えてねぇで行くぞ」
未だに悶えている両希の腕を掴み、俺は引きずるようにして教室を出る。
もうアウルに質問してた奴らやアウルは体育館に向かったみたいで、教室には俺たちしか残っていなかった。
どうやら思っていた以上に話し込んでいたみたいで、俺たちは駆け足で体育館に向かう。
そんななか、柊が「そういえば」と何かを思い出したように呟いた。
「朝のニュース見たか? 昨日で五人目だってよ」
「見てないから分からん。今日はそんな暇はなかったし」
「今に始まったニュースでもねぇけどな。あれだ、通り魔の傷害事件」
傷害? 殺人じゃなくて?
「手口が一緒だから同じなんだろうけど、何やったらあんな風になるんだろうな」
「どうなってたんだ?」
「全身が切り刻まれてたんだ。刃物とかじゃなくて、なんか糸みたいな奴でな」
全身が、切り刻まれてた? なのに死んでないから殺人事件じゃなくて、負傷事件に止まってるということか。
「有り得ないよなぁ。なんでそんなことになるんだ? あっち側からしたらやるのも面倒だろうし」
そう、有り得ないんだ。
それだけの怪我を負いながらも死なないこともおかしいが、そんな現象を引き起こる状況がそもそもの前提として有り得ない。
どうしてそんなことが出来る。何をすればそれが出来る。
時間を掛ければ不可能ではない。だが、これは短期間のうちに別々の場所で複数回起こっている。
つまりはこれを人間の手でやることは不可能なのだ。
人間ならば――――。
「冬道はどう思う?」
「……さぁな。こんなことが出来るのは、化物くらいのもんだ」
「化物なんているはずないだろ」
「いや、そうでもない……」
俺は化物を知っている。二人……いや、少なくとも俺は、人間じゃない。
「こんな話は終わりだ。俺たちの柄じゃねぇ」
「……それもそうか。よぉし! なら、今日こそ決着つけようぜ!」
それはなるべくなら遠慮したいんだが……無理だろうな。
体育館に入り、教師の前に整列している列に混ざる。
「よーし、よしよし。全員来てるな?」
気の抜けるような、明らかにやる気なく言葉を発したのは体育教師の夜篠司先生。
いつも眠たそうな目をしており、見てるだけで気だるそうな気持ちが移りそうだ。それだというのに彼女の容姿は十人が見れば十人が振り向くような、そんな容姿だ。いわゆる美人。
ジャージの胸囲は司先生の持つ豊満なそれのおかげで、はち切れそうになっている。
長い茶髪は肩から流すようにまとめられ、その人が放つ雰囲気は妖艶すぎる。
正直、健全な高校生に大しては威力が絶大すぎる。
そんな司先生だが、授業の集合時間に異常なこだわりを見せている。
「今日もご苦労。お前らが遅れると私が怒られるからな。あとは好きにしてていいぞー」
これが理由だ。自分が怒られたくないがために、生徒には時間きっちりに集合させたがるのだ。
だというのに集合したあとは適当という、教師らしくない教師だ。
で、毎回毎回こんな感じに授業が進むため、内容は俺たちが勝手に考えることになる。
「今日もドッジボールみたいだぞ、かしぎ」
「またドッジボールかよ……」
いつの間にか復活した両希の言葉を聞いて、俺はため息混じりの言葉を吐く。
別にドッジボールが嫌いなわけじゃない。俺だってドッジボールは好きだし、高校生になった今でもやりたいときはある。
しかしそれが毎回だと、嫌にもなってくる。
何が悲しくて毎回ドッジボールをやらないといけないんだ。
そして、ドッジボールをやるということは柊がやる気になるってことだ。
「冬道! 勝負だ!」
「俺、外野行くわ」
「無視するなーっ!」
ドッジボールのチームは男女混合で適当に振り分けられる。チームは固定されてるから俺と両希は一緒で、柊は敵チームになっている。
だからこうやって、柊は俺と勝負したがるんだよな。
「俺とお前が勝負したら決着つかねぇだろ。どっちも負ける気はねぇんだから」
一番最初に柊の勝負に乗ってやったんだが、授業中に終わらなかった。他の奴らは開始五分で全滅したのにずっと見てるのなんかつまらなすぎる。
何回かに一回だけやるだけで、連続ではやらない。やりたくない。
「えー、それじゃ、あたしがつまんないじゃんかよー」
「個人より集団だ。ひとりのわがままに付き合えるか」
まだ何か言ってるみたいだけど、俺には何も聞こえない。
俺はいつも通り外野の位置にやって来て、内野でやってるボールの投げ合い取り合いを傍観する。
(それにしても……)
さっきの柊の話が本当なら、こっちの世界にも普通じゃない何かがあるということになる。
人体が糸みたいに細いもので、全身を切り刻まれるなんていうことは普通なら絶対に有り得ないんだ。
人間ではなく、化物なら話は変わってくる。
もう化物は常識や普通の範囲内では捉えること自体が間違ってる。
怪異、異常……そんな言葉で表すくらいがちょうどいい。
それに気づくことが出来るのは、ほんの少しの普通と、同じ異常を持った化物くらいのものだ。
もちろん、それに気付いた俺も普通じゃないんだろう。そんなことは、異世界に召喚されて魔王と戦ったことで分かっていたことだ。
『冬道かしぎ』という人物の『普通』というのは、もう既にこの世界でいう『異常』ということに違いない。
それはつまり、俺は化物であるということなんだ。
だから俺にも同じようなことをやることが出来る。むしろ、それ以上のことを呼吸をするのに等しくやることが出来る。
やりはしないが、そんなことが出来ると知ったときの皆の反応はどうだろうか。
決まっている。恐怖し、畏怖の対象として見られることになる。
普通の中の異常というのは、そういうものなんだ。
「冬道くん! 前!」
「あ?」
同じクラスの女子――名前なんていうんだっけ?――から叫ばれて思考の海から帰って前を見ると、白い球体が視界いっぱいに広がっていた。
確か今、ドッジボールをしてる。それに使ってたボールは白だったはずだ。ならこの白は、ボールってことか――――以上、〇.一秒での考察。
俺はそれに大して慌てるわけでもなく、ただ平然と片手でそれを受け止め、ボールから投げた張本人に視線を変える。
「ちっ、もうちょっとだったのにな」
「……柊。お前、そんなに俺と勝負してぇのか?」
投球を終えた姿勢で舌打ちをする柊に、俺は自分でも驚くくらいに低い声で言った。
なんで投げる方向と真逆にいる俺に投げてんだ。しかも全力で。
「当たり前じゃん。だからわざとお前の顔面に向かって投げたんだぜ?」
「……いいだろう。ならば、戦争だ!」
周りでまた始まったよみたいな空気を出してるが、この際そんなことをいちいち気にする気はない。
ゴムボールを変形するくらい力をいれて掴み、振りかぶる。
肩から肘、手首、指の関節へと力を徐々に伝達していき、指先に触れた瞬間に腕を一気に振り抜く。全力ではない、手加減した本気の一球は直線の軌道で柊に向かっていく。
さすがに女子の顔を狙うわけにはいかないから、比較的キャッチしやすい胸の辺りに狙いは定めている。
空気を切るように進むボールをキャッチするかと思えば、柊はギリギリのところで体を逸らし、避けていた。
誰しもが柊がキャッチすると思っていたのだろう。
ボールを避けた柊を見て慌てて軌道から逃げていた。
だが幸か不幸か、軌道上には反対側の外野である外国人転校生のアウルの姿があった。
見ていれば状況も変わってただろうが、アウルは考え事でもしてるのか、ボールを全く見ていない。
「避けろ! アウル!」
なんで話してもないアウルを呼び捨てにしてるんだ、などというあまりにも場違いな考えを抱きながら、アウルが避けられることを期待する。
アウルは身長がそこまで高い方じゃない。柊の胸の辺りはあいつにとっては顔面コースだ。
もし当たったりなんかしたら保健室行きは確定だ。
――――まぁ。
当たれば、だけどな。
平手打ちでも喰らったような、そんな音が体育館に響く。
クラスの連中はそれを見て唖然としていた。
俺が投げたボールを、アウルは避けることは出来なかった。この場合なら避けなかったと言った方が正しいだろう。
アウルはボールに見向きもせず、片手で俺が投げたボールを掴んでいた。
そんなものは避けるにも値にしない。まるで無言でそう告げるような行動だった。
「す、スゲー!」
誰がそう言ったか。それすらも分からないままに歓声が上がり、アウルを取り囲む。
異彩の色を放つ金髪美少女、一瞬にして注目の的になる。
「スゲーな、あいつ。冬道のボールを片手でとるなんて」
いつの間にか近づいてきていた柊が、本当に感心したように呟く。
俺は別にそれに驚くことはしない。あれだけ警戒を高めて隙を見せないようにしてるんだったら、あれくらいは出来て当然だ。
囲まれているアウルもそれくらいで騒ぐなと言いたげな表情だ。
そんなアウルを見て、俺は確信する。
(この負傷事件は、間違いなくあいつが絡んでる。面白くなってきた……)
異常な警戒を見せる金髪美少女と、異常な事態を引き起こしたこの事件。この二つの関係性はもう切れない。あいつがここに転校してきたのも、ここ周辺で事件が起こると分かったからに違いない。
アウル=ウィリアムズ。あいつについていけば、面白いことに辿り着ける。
俺の、化物としての異常性がそれを本能で感じ取っていた。
「なんか楽しそうじゃん。いい顔してるぜ?」
「あぁ。これから楽しくなりそうだ」
頬が緩んでいることを自覚しつつ、柊にそう言う。
さて、久しぶりに面白くなってきた。
◇次回予告◇
「黒髪美少女……。つまり先輩は私のことが好き、ということですか」
「心にもないことを言うな」
「否定はしません。私も、興味はありますから」
「この世界には、どういった力がある」
「俺は私立桃園高校二年、冬道かしぎだ」
「私はアウル=ウィリアムズだ。よろしく……というのもおかしいか」
「水色の縞パンか。まぁ、似合ってるんじゃね?」
「貴様、何者だ」
◇次回
1―5「接触」◇
「言っただろ? 元勇者だって」